学食にはいつも幽霊がたむろしている
昼飯時の混み合う時間帯には
生きている人間と死んでいる人間がダブって存在しごった返してしまうので
なにかの〈るつぼ〉となっているが
先ほどから彼が何の〈るつぼ〉か
的確な言葉を思い出そうとしているがいっこうに思いだせない
その間にも
詩は進行する
いつか言い表したあの言葉!
行ったり来たり
行ったり来たり
である
飛行機が遅れたため
東京からこの大阪の大学にやって来る電車の車中で
彼には既に目的の四分の一が達成できないことが分かっていた
それで少し焦ってはいた
大学のある駅で降りると
駅の出口は大学からは一番遠い位置に位置していたので
さらに彼は駅の出口から一番遠い車輌に乗っていたので
最悪だ〜! と
我が身の不幸を嘆かずにはいられず
だからつい足早に投げやりに歩き始めた
十四(しいすう)という名の駅にあるその大学の学食は地下にあり
二階までの吹き抜けの構造になっている
食堂の周囲には内階段から繋がる渡り廊下があり
さらに螺旋階段を通じで二階の廊下に繋がっていた
彼はエレベーターホールから学食へ行くエレベーターに乗ろうとしていたが
何階に行けばいいのか分からず混乱していた
いくら考えても分からない
答えが見出せない
そのうち上へ行くエレベーターがやってきて
彼は乗り込みB1ボタンを押した
エレベーターから降りると
そこは学食より1メートルほど下の床だったので
五段分の半端な階段を上り
上り過ぎたので一段下がり
奥のカウンターに近づいていった
ナポリタンとサイダー
おそらくこれが
きょう彼が初めて人間に発した言葉だった
そして
その声はいつまでも木霊していた
まるで彼を責めるように
まるで彼を愛するように
夕方の学食で
彼がいなくなった後
幽霊たちがお酒をチビチビやりながら
その彼の声を繰り返し歌っていた
ナポリタンとサイダー
ナポリタンとサイダー
結局、彼はわざわざ東京から大阪の大学まで
返信削除なにしに来たの?
「ナポリタンとサイダー」 って言わなかった人が、生きてる人間だってことか。
日常と非日常 、潜在と顕在をいったり来たり、死んだ人の言葉もまじわって詩のある空間がつくられていくんだね。