葉が風に揺られて
夜のあいだに降った雨の滴が
地面へと落ちていく
家がいつ建ったのか
彼は見ていなかったが
その窓の外には巨木があり
秋にはドングリの実を屋根に降らし
枕に顔を埋ずめながら
いつも遠くにそれを聴いたいた
秋は深まるたびに
彼を冬へといざなった
何回の季節替わりを
いったい憶えていることだろう
彼は滴のことも知らない
それはほとんど音を立てずに
地面に達し
土に浸みていったから
彼の学校は住宅街を10分ほど歩いたところにある
彼の部屋の机が
いつどこで作られ
彼がどういう経緯(いきさつ)で使うことになったのか
彼が知らないうちに
その机は廃棄物となり
どこかへと運ばれていってしまった
この机を
彼に使わせた彼の父さえ
もうこの世にはその姿がない
滴は
土に浸みたのちに
どうなったのか
だれか知っているだろうか
空に上り
雨となって降り注いで
またここに訪れているのだろうか
木の机の上に
リンゴ印のコンピューターを置き
彼は今 何かを書いている
ペン差しには鉛筆もあるが
彼はキーを叩いている
その音が
ほかのどの音にも喩(たと)えようがないことに
すこしだけ
いら立ちながら
いら立ちながら
彼は滴のことは知らないけど、落ち葉が湿っていたことは知ってるだろう
返信削除滴はたくさんの思い出とともにた大地に吸い込まれていったから
大地に耳をあてると懐かしい音がきこえるよ
ちょうど今叩いているキーボードような
サクサクした音が