2011年6月30日木曜日

三人の男

1

きのうあなたは
三人の男と会った

一人は一緒に住んでいる男
一人は一緒に旅に行く男
もう一人は一緒に泣いてくれる男

どの男が
一番必要なのかは
問題ではない
どの男も必要だから

あなたは
自分の幸福を願う


2

あしたもあなたは
三人の男と会うだろう
一人は昨晩から隣で寝ていた男
一人はあなたに何かを教えようとする男
もう一人はあなたにつきまとう男

どの男が
必要なのかは
問題ではない
どの男も必要だから

そして
どの男も
本当は不要だから





猫派と犬派とがあるようですか、あなたはどちらですか。どうも多くの男は猫のほうがすきなようです。自分が犬だからでしょうか。猫に気ままで自由な姿を投影するのでしょうか。しかし猫の立場も楽なものではありません。時に孤独を感じるからです。自分のわがままな姿勢に恐怖を感じても、だれにも分かってもらえないと思うからです。

2011年6月29日水曜日

思い出の焚き火

きみがなにをしようと
ぼくはここにいる
きみが無視し続けても
待っている

誰かが訪ねてきても
隠れている
足りないものは
買ってきてあげる

忘れられても
大丈夫
思い出したら
ちゃんと居るから

雨の降る日はカッパ着て
日照りの夏は帽子をかぶり
嵐の夜はロウソク用意して
きみを待っている

きみがいない日は
多少寛いで
バッテリーを充電して
備えている

ぼくはきみが好きだから
好きな限りは待っている
花屋があれば花束を買い
きみの思い出で焚き火しながら



人の思いって炎のようではないですか。いつまでも燃え尽きない思いは、無限に続くようです。きっと再生可能エネルギーが使われているのでしょう。もんじゅは止まっていますが、私たちは、いつでも思いを動かし始めることができます。

2011年6月28日火曜日

痛きもちいい暮らし

みんなで作った
みんなの社会
みんなの手柄
みんなの責任

追いかけなくても
獲物が獲れる
罠をしかけて
楽チン暮し

人を束ねて
こっそりくすね
バレたら別の
場所で継続

想定外と
言い訳言って
想定してる
自己保身

未来は暗い
我慢が必要
だんだん慣れて
心地よく

人の悪口
みんなで言わせ
疲れた頃に
やっつける

死なない程度に
痛めつけても
元気だしてと
金出さず

権力持つ者
巧妙に
持たざるものを
踏みにじる

踏みにじられて
気持ちいい
ちょうどそこが
こってたの



どどいつというのがありますが、風刺というのは世論の負け戦みたいな感じがします。しかし負け続けても蔓延って、草の根のような強さを発揮します。韻律は、人の心に定着するために言葉が手に入れた武器なのかもしれませんね。生物兵器よりも強く、人体に無害な、しかも個人が権力に対抗できる・・・

2011年6月27日月曜日

未来のイメージ

未来の話をしませんか
と あなたがやってきた
梅雨の晴れ間の日曜日

私たちに未来はあるの?
少し意地悪だけど
きいてみた

あなたはそれには答えずに
滴のついた古びた窓から
外の木々を見やった

私には
未来は
陽の光と一緒に差し込んで来るもののように思えた

子どものころ
将来を心配し希望を語ろうとしない大人たちの傍らで
私は空を見上げ
木々は急き立てられる私の心を
なだめていた

2011年6月26日日曜日

傷口

痛みを
手で覆い
心で覆うと
どこに痛みがあるのか
分からなくなってくる

ひょっとして
きのう喧嘩した
あの場所に
あの場所の床に
落ちているのかもしれない

月の光が差してきたのは
その夜

干からびた痛みは
絆創膏に吸い取られ
息づいていた

絆創膏から
こぼれ落ちた痛みは
膚に焼き付けられ
すべやかな傷口となって
恋人の唇に愛されるのかもしれない

2011年6月25日土曜日

遠い海

鏡の野の水たまりに
月のかけら落ちて
みゅーと泣くの 誰

堤防の端っこで
あのこがなくしてしまった
紐に括ってあったもの 何

風に訊いてみたいけど
湿気混じりて
おまけに潮の香りするの 何処

疑問符型の鍵で
あなたのハートは解き放たれるの
返事が来るの 何時

問いが生まれ
答えと出会えねまま
消えて行くの 何時でも

2011年6月24日金曜日

つれづれ草紙

雪が、ふりだした。
消しゴムのカスを
極彩色の鳥が
啄んでいる
錆びた水が
海を目指して流れてゆく

トンネルで立ち往生している
フォークソング
いつかまた会えるねと約束するだろう未来

チャーシュー麺が
冷めながら呼んでいる

いい加減な速度で
生きるのはやめようよ

2011年6月23日木曜日

あなたはなにもとわないのに

すきなひとは
きらいなひとより
しまつがわるい

きになってしようがないから
ほおっておけないし
くっつきすぎて
きらわれるのがこわいから

あなたのことをかんがえると
ねむれないよるが
わたしをあせらせる

あなたのことをかんがえていないとき
わたしはへいおんに
くらしている

あなたは
わたしの
いちばんおおきな
むずかしいもんだい

あなたはなにもとわないのに
わたしはこたえばかりかんがえている

2011年6月22日水曜日

本心

君の言うことは正しいけど厳しすぎると
文句を言ったね
厳しすぎるけど正しいと思いながら

ちょうどいい

帯に短かし たすきにながし と
思っているね
ちょうどいいと思っているんだね

いい馬

人の恋を邪魔すると
馬に蹴られて死ぬそうだ
いい馬だといいね

ずるい

ずるいね
ずるくないようにみせて
そのことまで忘れてしまうなんて

悪い癖

いい気になるのは悪い癖(くせ)
陰気になるのはもっと悪い癖
癖だと思っているのはさらに悪い癖

2011年6月21日火曜日

天空のラプソディ

夕飯。空豆の天ぷら。あと、おそばでござる。

夕飯。空豆の天ぷら。あと、おそばでござる。
夕飯。空豆の天ぷら。あと、おそばでござる。

夕飯。空豆の天ぷら。あと、おそばでござる。


夕飯。天ぷらの空。ござるあとで豆、おそば。

夕飯。天ぷらの空。ござるあとで豆、おそば。

おそば、飯のあと夕空。豆。ござる天ぷらで。

おそば、飯のあと夕空。豆。ござる天ぷらで。

天、夕空の豆。おそばで、らぷるとあござ飯。

あござ、天空の豆。おそばでぷらる飯。と夕。

ばお、空で夕。天ざる。おとご豆あの飯らぷ。

ぷら飯。天でお豆。空ござと、ある。夕そばで

らぷそで天空。豆とる夕、あの飯。おばござ。

2011年6月20日月曜日

投稿列車

投稿列車に乗って
まだ見たこともない街へ行ってみたい
嗅いだことのない香りを手に入れ
感じたことのない陶酔に浸りたい

大きなリスクは覚悟の上だ
夢を差し出して
わらしべ長者を真似て
もっと大きなものを手に入れるのだ

誰もが無理だというもの
手に入れた瞬間に自分をも見失ってしまうだろう

投稿列車がやってくる
駅にではない
今夜
ここに

きみは飛び込めるかな
なにも持たず
誰にも告げずに

明日はもうない
記憶さえ残らない
知ってるだろうか
今夜限りだということ

2011年6月19日日曜日

木枠の外へ

木枠にはめられた硝子向こうに
うるさいほどの緑が息づいているが
静かなこの地に聞こえているのは
鳥や葉擦れの音ばかり

木枠にはめられた生き方など
もう嫌だと心はか細く叫ぶが
雑事にかき消されて鎮まってしまう

木枠のむこうには
破天荒な娘が
新しい人生を始めようと躍起になっているのだが
足を鎖で繋がれていて飛び出すことができず
それで自分を傷つけてしまう

一瞬
木枠が外れ
鎖がほどけたすきに
手を繋いで逃げ出そうとしたが
静けさがそれを遮った

その饒舌を
誰も気づかなかった
ただ私だけが
木枠にはめてそれをみていた

2011年6月18日土曜日

モコモコの根っこ

モコモコの木の元へ
電車に乗って

雲が
モコモコ
とどまっているな

気持ちは昂ぶっているようなのに
お腹はモコモコ
ベーコンが乗った粗悪なパンを
食べたから

カノジョは
きょうも
ほっぺに笑顔を
モコモコくっつけて
客を迎えているんだろう

車窓に緑が流れて
ひそひそ声が
長靴の話をしてた

雨の日に長靴の話か

モコモコ
首がこって痛いんだ
取り替えがきかない
ものばかり

2011年6月17日金曜日

ベイビートーク

コンビニでも売っている小さな幸せを買って
部屋に帰るベイビー

きょうもヤナこと我慢して
よく働いたぜベイビー

週末は誕生日記念の旅行に
あの人と行くんだじゅらんで予約したベイビー

お肌のケアが最近ちょっと気になるんだ
ハダラボとDFSで買ったランコム使っているんだベイビー

誰かの幸せの木馬にうまく飛び乗ってもいいかな
それじゃ虚しいだろうな悩むベイビー

自分のやりたいことやれるようにしたい
けどなにしたらいいのかずっと悩むだけベイビー

サラリーマンがツマミとビールをのんでるけど
サラリーマントークやめてほしいよベイビー

緩やかに話す素敵な人が笑顔を振りまいて
近づいてきたよ大丈夫かベイビー

苦しい思いを結晶にしていつまでも持っていたいんだ
涙なんかどうでもいいんだベイビー

2011年6月16日木曜日

レコードに寄り添う

そうさ
そうさ
そうさ

いいのさ
いいのさ
いいのさ

前向きにいきることに
疲れても
なにも感じずにいたほうが楽だと
思えてきても

誰かに嘘をつかれて
傷ついても

うまくいかず
またゼロからやり直しになっても

いいのさ
いいのさ
いいのさ

大事なものを失っても
笑顔の作り方忘れても

いいのさ
いいのさ

私はあの人を
嫌いにならないだろう

はっきりと目醒めたこころが
旅立って行こうとしているのか

欠けてゆく月を追い

そうさ
いいのさ

スクラッチノイズが懐かしい
レコードに寄り添う

2011年6月15日水曜日

生きている価値

生きている価値がないと
思っているんだね

たぶん
そんなことないよ

理由

うまくいかないことがあって
落ち込んでいるんだね

落ち込んだのが理由だと
分かったんだね

暗い

暗い人が
暗さの良さを考えているね

本当に暗いんだね

前置き

良くも悪くも
って前置きしたね

話すのが面倒なんだろうね

変なところで

暗い人がラジオを聴いているね

あっ 笑った

変なところで
笑ったね

暗い人

暗い人が暗い道を歩いていくよ

でも
暗すぎて
本当に暗い人かどうか
わからないね

2011年6月14日火曜日

カラ電車

電車ごっこして
あのこ と あいつ
ひっつけた

ぼくは運転手
後ろは見ない

気づいたら
一人

お客も居ない
カラ電車

君まつカフェで

君まつカフェで
日がな一日中
シャンソン聴こえてくる
別世界のお話

工務店が吊り下げたランプ均等に
インテリア設計通り

君まつカフェに
待ち人来るはずもなく
約束していないから
わびしくすするカプチーノ

我一人カフェ
我は何もの

唄に詠われた
海の子でも赤鬼でもなく
ニヒルな渡り鳥

であるはずもないだろう
笑えないジョークつくる
ケーキ屋の息子であれば

2011年6月13日月曜日

中途半端な影法師

中途半端なサイズの私たち
中途半端に生きなければならない
原子核から宇宙の果てに伸びる
中途半端な幅の道を
中途半端な気分で進むだけ

中途半端な帽子を被った男と女は
相手のことを正反対だと思っているが二人とも同じ人間
優しさと残酷さの間を揺れてみても
中途半端に収まるだけ

中途半端な情熱を抱えて
中途半端な坂を上る
中途半端な坂を下る
中途半端な目的地
中途半端な時期に知り合った
異性の友だち

いつも中途半端に
開けっぱなしのドアを
ゆるりと通り抜けて
中途半端な欲望を
陰干ししにいこう

曇り空に
太陽が隠れている
中途半端な影法師が
一帯に
うようよあふれかえっている

2011年6月12日日曜日

猫のしっぽにつかまって

猫のしっぽにつかまって
いちもくさんに
さあ逃げろ
追っ手がくるぞ
けむに巻け

鳥のクチバシ鼻に付け
おっとり刀で
駆けつけろ
片道切符だ
お気の毒

小僧のフンドシ旗にして
居留守をつかい
やりすごせ
月のない夜に
攻めてゆけ

携帯電話を二台もち
アンドロイドを
助っ人に
無料通話で
けしかけろ

なにかありそう夏の宵
ユーストDJ
かなりマメ
クレームダンジュ
デモ行進

2011年6月11日土曜日

百日紅(さるすべり)

今夜はお化けが出ます
間違いありません
妖怪ともいいます
幽霊の仲間です~あまり仲良くないけど

知らないうちに現れるのが通例
よく知っている誰かと話をしていると
その人がいつの間にかお化けだったりするのです
そんな感じ

だから注意しないと
結構長い時間、お化けと話してしまったということに
なるのです

お化けはいい奴でも悪い奴でもありません
相手の心のありように染まりやすい
だから自然に馴染むのかもしれません

私はお化けのカノジョと付き合っています
最初はお化けだと気がつきませんでした
あるとき〜ある合コンで
何人かで話をしているとその中に混じっていました
その夜
カノジョを送って行くことになったのですが
やっと辿り着くとそこは私の部屋でした
その時はそれが自然におもえたのです
そのことが変だとどこかに引っかかっていたのですが
その謎が溶けたのは
三日前の三日月の夜でした

カノジョが三日月を見ている姿が
お化けだったのです
それできょうも
街にお化けが出るという情報を聞いたのです

お化けと付き合うと
色んなことがどうでもよくなります
私はどうでもいいというのが魅力で
カノジョと付き合っています

私の周りから
友だちがドンドン消えて行きます

いつか
私もお化けになって
未知の感覚を手に入れたい
日常のしがらみからとき放たれたとき
無類の喜びが手に入ると思うのです
それで幸せになれると思うのです

きょう
カノジョは百日紅の木になっています
すべやかな肌に
私は頬を擦りつけるのです

2011年6月10日金曜日

愛するカレ

愛しているわ
少しだけ

とっても好きよ
その帽子

いつも一緒にいて欲しい
お金を払う時だけは

クルマで海に連れてって
愛するカレがまってるの

2011年6月9日木曜日

いま

みにくいアヒルの子は
白鳥になれて よかったね

私はみにくいまま
おとなになってしまった

とりえのない人間
飛ぶこともできず
仲間からも疎まれ
一人で部屋にいる

空の彼方に群れて消えていく美しい鳥を見上げては
きょうも大きく溜息を吐く
お寺の鐘が人生を弔おうとしている

自分の下にあるものだけが
自分の友だち

地面の草とか
影とか
零した涙
瓶の蓋
タバコの包装紙

でも
こんな私にだって
愛をくれた人がいた

優しいことばをかけ
握手してくれた人がいた

愛の代償を返す力はないかもしれないが
どうにかしてなにかを返そうと思う

働きの悪い脳みそを励まし
チャンスをうかがいながら
計画を考える


いま
生きている

ページビュー合計 8,190 詩☆未来創作

日本 
 7,662
アメリカ合衆国
 303
マレーシア
 119
カナダ 
 23
オランダ
 18
ドイツ
 14
シンガポール  
 8
ウクライナ 
 7
イギリス
 6
ハンガリー      
 6
2010年8月31日から2011年6月9までの集計です。読んでくださった方、ありがとうございます。

2011年6月8日水曜日

すこし

少し泣いた

少し悲しくて
少し泣いた


少し笑った

少しおかしくて
少し笑った


少し怒った

少しいらいらして
少し怒った


少し蹴っ飛ばした

少し好きになったので
あなたを蹴っ飛ばした

2011年6月7日火曜日

よろめく

私はまたまたよろめくよ
あなたが私を狙ったから

優しい言葉だけじゃなくって
鋭い目で見つめてきたから

手を握ると思ったタイミングで
別の人の話を始めたから

まだまだいきなり倒れこむよ
あなたを目がけて

笑顔同士のにらめっこ
自然な感じで出来たから

もう考えるのはよそうと思っていたことを
あなたがしゃべり始めたから

空では雲が流れていた
眩しそうにあなたは見上げ
私はあなたの形の良い鼻と
眉毛のラインとをじっくりと見ていた

スキなところを憶えておくよ
別れたあとで理由がつかめるように

嫌いになれるように

2011年6月6日月曜日

騙していたんだ

あなたは私を騙していたんだね
でも
私もあなたを騙してたんだ

一緒にいたくて
騙されてないふりを
していたんだ

2011年6月5日日曜日

秘密じゃない

あなたの秘密を
教えてくれるんだね

それ
もう秘密じゃなくなったね

私を縛る鎖になったのかな

2011年6月4日土曜日

あなたは私を見つめて

どんな目にあっても
体は汚れない
洗えばきれいになっていく

いつか映画で見た
美しい水車小屋の
朽ちかかった板と柱の
ホコリを払い
あなたの心は住んでいる

風が木々を揺する音
水が岸にぶつかり渦巻く音
鳥がさえずりに来る
永遠の会話を
遠くの耳で聴いている

すべてを
緑色のものが覆ってしまいそう
雲は時々やってきて
それを心配そうに見守る

嵐の日も
月が眩しすぎる夜も
季節替わりが訪れる時も
緑は着々と
この星のこの地を覆おうとしていた

あなたは
いま
動こうとしない

そんなことが何回あっただろう

あなたは
音叉をトンとたたいて
過去と
これからくるだろう未来の
チューニングをしようと試みる
その
試み自体が
私には
美しい絵のように見えている

誰も言葉を発するものが
いないかのようだ

わたしが
何かの拍子で振り向いた時も
あなたはただ私を見つめて
立っていただけだった

2011年6月3日金曜日

白い肌

トンチンカンなことばかり
当の本人大真面目
いつもあたふたしてるけど
ある蓋どれも開けたまま
恋もするけど嫌われて
いることさえも気がつかず

トボトボ帰る狭い道
シャワーの匂い色っぽい
傘のある日は雨降らず
貸したものみな返らない
陰口悪口おだてられ
いい気になって落ち込む日

お金を払い店を出て
割り勘のはず切り出せず
綿のある場所スカスカで
上でベッドの軋む音
煙がいつも寄ってくる
閉めても閉めても開けられて

ある蓋どれも閉まらない
温め足らず食べられず
賞味期限は五年前
仏の顔も霞む目で
見るもの君の白い肌

2011年6月2日木曜日

私は夢見て…

私は古い家

建物なので
あなたのところへゆくことはかなわい
ただ思いをこめて念じるだけだ
私の隣には古い寺があり
今時はツツジの香りが立ち込めている
掃き清められた庭は
どこから見ても美しい
ツツジの香りの良さを
あなたに届けたい
そう願って私は念じる
あなたがやってくるように
ところで
私には
一人の男が住んでいる
私を手入れし磨き上げているうちに
若い一人の娘が
やってくるようになり
すぐに男と結ばれた
娘は海からやって来たのだ
娘は私に触れてうっとりとさまよい
冷たい木の表面で熱を冷ましながら
眠った
私の木肌はツヤを増し月光と愛を交わした
寒い朝には
男と娘は
寝床の中でいつまでも夢見ていた
私も夢を見た

私も
私を包む者たちも
静かに聞き耳を立てていた
男と娘は
無口になって
思いを巡らせた
その行く手に
私は佇み手招きをした
男と娘は
私の中にいた
娘が海へ
帰っているとき以外は
私の中にいた

2011年6月1日水曜日

躊躇いびとの終幕

そろそろ色んなことが終わる
梅雨雲と一緒に彼方に消えてゆく

あとには 見る限り
何も残っていないようだ

木に咲いた小さな花が
枝を揺すっているだけだ

着せ替え人形のような
あなたの姿は
しばらく漂っていたけれど
いつの間にか手頃な人を見つけて
手を取って歩いて行ってしまった

ここにいるはずの私は
語るのをやめると
ボロボロと崩れ
見る影もない

語り手がいなくなると
物語はなかったことのように
気配さえ見当たらず
オロオロと躊躇いびとが
茶を濁すだけ