2013年5月31日金曜日

囚人列車は私だけをのせて


坂道の途中
石垣の割れ目に根を張って咲いている白い花
きみは私より
清くたくましい

私はきみの横を通り過ぎて
言い訳をしにいく

わずかな給料の余力を使い果たして手に入れた
言い訳に添えるお詫びの品を脇に抱えて

電車とバスと徒歩で1時間
休日の太陽を背中に受けて
背中を丸めて歩いていく

私はなんて小さい人間なんだ
電車のつり革に手錠をかけられ
囚人列車は私だけをのせて
トンネルに入っていく




2013年5月30日木曜日

女三人 それはだれ?


もんもんもんもん もんもんもん
空がふやけた 霧雨だ

もんもんもんもん もんもももん
女三人旅に出た

もんもももんもん もももんもん
へのへのもへじが笑ってる

ろんろんろんろん ろんろろろ
ろろろろろんろろ 誰ですか

ろんろろろんろん ろろんろろん
ろろろろろろろ ももんがです

2013年5月29日水曜日

愛について


あなたが病んでいる時
私はその重さと釣り合う雲

あなたは長閑な雲の様を眺めて
ふと足を止め
深呼吸をしてみたくなる

私が痛みに耐えている時
あなたはそれを打ち消すリズム

私は歌いながら体を揺すり
痛みの鼓動を逆手に取って
快楽に変える

あなたが悲しい時
私は空の器

あなたは私に何も期待しないまま
私の言葉を受け入れ
信じもしないまま
言葉のベッドで眠ってしまう

空には星が瞬き
地には心地よい夜の闇が
訪れているだろう


2013年5月28日火曜日

ナポリタンとサイダー

学食にはいつも幽霊がたむろしている
昼飯時の混み合う時間帯には
生きている人間と死んでいる人間がダブって存在しごった返してしまうので
なにかの〈るつぼ〉となっているが
先ほどから彼が何の〈るつぼ〉か
的確な言葉を思い出そうとしているがいっこうに思いだせない
     その間にも
     詩は進行する
     いつか言い表したあの言葉!
行ったり来たり
行ったり来たり
である

飛行機が遅れたため
東京からこの大阪の大学にやって来る電車の車中で
彼には既に目的の四分の一が達成できないことが分かっていた

それで少し焦ってはいた
大学のある駅で降りると
駅の出口は大学からは一番遠い位置に位置していたので
さらに彼は駅の出口から一番遠い車輌に乗っていたので
     最悪だ〜! と
我が身の不幸を嘆かずにはいられず
だからつい足早に投げやりに歩き始めた

十四(しいすう)という名の駅にあるその大学の学食は地下にあり
二階までの吹き抜けの構造になっている
食堂の周囲には内階段から繋がる渡り廊下があり
さらに螺旋階段を通じで二階の廊下に繋がっていた

彼はエレベーターホールから学食へ行くエレベーターに乗ろうとしていたが
何階に行けばいいのか分からず混乱していた
いくら考えても分からない
答えが見出せない
そのうち上へ行くエレベーターがやってきて
彼は乗り込みB1ボタンを押した

エレベーターから降りると
そこは学食より1メートルほど下の床だったので
五段分の半端な階段を上り
上り過ぎたので一段下がり
奥のカウンターに近づいていった

ナポリタンとサイダー

おそらくこれが
きょう彼が初めて人間に発した言葉だった

そして
その声はいつまでも木霊していた
まるで彼を責めるように
まるで彼を愛するように

夕方の学食で
彼がいなくなった後
幽霊たちがお酒をチビチビやりながら
その彼の声を繰り返し歌っていた

ナポリタンとサイダー
ナポリタンとサイダー

2013年5月27日月曜日

初心者として


死者が来て
するめを炙っている
そのよこで
柱時計が時を刻んでいる

カチ カチ カチ カチ ・・・

時を刻む音が
板張りの床に響くたびに
心臓はリズムを乱されそうになる

お隣さんで赤児がなきだした
ラジオからは流行り歌
たぶん間違えずに律儀に歌い終えてくれるだろう

私は目を閉じて
あなたとのことを考えていたが
いろんなことが入れ替わり立ち替わり心を占領しようとするので
ついにあきらめて放っておくことにした

いつものことだ
日が暮れて暗くなり
公務員が帰路につく
あるいは酔って飲み屋のはしごに出かける

きょうという日は
はじめてのことだ

毎日その日を初心者として
生きなければならない
私は声を上げ
おどけて助けを呼ぶしかないだろう
死んだあの人に

2013年5月26日日曜日

男子だけ全員集合!


男子だけ全員集合!

そう号令が掛かったので
私はそこへ行って
腰を下ろした

女子はどこかで
何かをしているのだろう
なにか秘密めいたことなのだろうか

でも きっと
いつかまた
女子と一緒になれるだろう

そんなことを思った日から
あっという間に
長い長い年月が過ぎ
私はずいぶん歳をとった

男子だけ全員集合!

そして またもや
号令が飛び交う
私は号令の声がする方へ行き
腰を下ろした

膝小僧を抱えて
あの時と同じように

未来創作から電子ブックが出版


このブログから2冊の電子ブックが発売されました。日記のように好き勝手に綴ってきたので、本人がいちばん驚いているのではないでしょうか。掲載にあたり、推敲をきちんといたしました。Kindleのアプリでお読みいただけます。どうぞよろしくお願いいたします。




2013年5月25日土曜日


葉が風に揺られて
夜のあいだに降った雨の滴が
地面へと落ちていく

家がいつ建ったのか
彼は見ていなかったが
その窓の外には巨木があり
秋にはドングリの実を屋根に降らし
枕に顔を埋ずめながら
いつも遠くにそれを聴いたいた

秋は深まるたびに
彼を冬へといざなった
何回の季節替わりを
いったい憶えていることだろう

彼は滴のことも知らない
それはほとんど音を立てずに
地面に達し
土に浸みていったから

彼の学校は住宅街を10分ほど歩いたところにある

彼の部屋の机が
いつどこで作られ
彼がどういう経緯(いきさつ)で使うことになったのか
彼が知らないうちに
その机は廃棄物となり
どこかへと運ばれていってしまった

この机を
彼に使わせた彼の父さえ
もうこの世にはその姿がない

滴は
土に浸みたのちに
どうなったのか
だれか知っているだろうか

空に上り
雨となって降り注いで
またここに訪れているのだろうか

木の机の上に
リンゴ印のコンピューターを置き
彼は今 何かを書いている
ペン差しには鉛筆もあるが
彼はキーを叩いている

その音が
ほかのどの音にも喩(たと)えようがないことに
すこしだけ
いら立ちながら

2013年5月24日金曜日

5月24日


やさしい夜の風
この夜を清める月の光
鳴ることなく黙っている電話

部屋の中で時を行き来する思い
群衆にまぎれこみしかし交わることのない人びと
四角くそびえるビル

鉄路を行く汽車
ちらちらと瞬く波
誰も載せていないベッド

丸くなった鉛筆の先
街角で待っている人
5月24日
二度と訪れない今日の日

80,001、これからも

ページビューの合計が80000を超えました。
日記のような一筆書きの詩を
こんなに沢山、長きにわたり見てくださってありがとうございます。
思いがけなく、すばらしいパブリッシャーとの出会いがあり、ここから電子書籍も生まれました。
これからも、いや、これからは、もっと楽しんでいただけるよう意識してやっていきたいと思います。
どうぞこれからもよろしくおねがいいたします。

2013年5月23日木曜日

おとなの罠

吹きすさぶ風
揺れているものは何?

いつからああして
揺れているのだろう

人知れず
夕闇に飲み込まれてゆく
ゆれているもの

降り始めた
冷たい雨
湿っているものは何?

きょうも湿り
明日には乾いて
笑っていられるのだろうか

夜に湿るもの
じっとりと
言い訳をいわないのが
おとなの約束?
それとも

おとなの罠?

鍵穴


したいことがない訳ではない
したいことを無視している訳でもない
したくないことばかりが山を成して行く手を塞ぎ
しなければならないことが張り巡らされ
したいけれどできないことが礫となって飛んで来る

歩くこともままならない
止まれば砂塵に襲われ
逃げればスコールが付いて回り
叫べば雷鳴に打ち消され
黙れば静寂に呑み込まれる

したいことがない訳ではない
ここから抜け出て
したいことをしなければ
しなければと思わずにしなければ

したいことは
向こうに行っても
死体とならずに
生きているだろうか

不安が影を伸ばし
くっきりした輪郭を作る
そのなかの光る一点に
鍵穴がある

2013年5月22日水曜日

心の隙間


心の隙間に何もない
心の隙間を埋めるもの
売っていたなら買ってこい
心の隙間を埋めたいが
そうは問屋がおろさない

心の隙間が軋んでる
心の隙間を癒すもの
どこかで奪って盗ってこい
心が泣くのをとめたいが
ますます侘しさつのってく

心の隙間がつんざける
心の裂け目を縫うミシン
知らん顔して手に入れろ
心を取り繕いたいが
心は空に消えていく

2013年5月21日火曜日

ルビールビー

ルビールビー
白い日々
ルビールビー
君の夢
ルビールビー
無限へと
ルビールビー
回ってる
ルビールビー
夢の中

もう何度もやっているのに

もう何度もやっているのに
いつも新しいことだと感じられるのは
毎回新規のファイルが生成されるからだろうか
長く生きていると
部屋中ファイルだらけになり
足の踏み場もなくなるから
時々ごっそり処分しなければならない

だか
処分の時を見極めるのは
難しい
気づいた時にはすでに考えすぎているから
さらに考えすぎればすぎるほど難しくなっていく

愛は執着し
片道切符は帰ることを邪魔して
捨て身で挑んでくる

大事なものたち
生まれ変わり新しい衣装を纏い
私の感じやすい部分を慰めて欲しい

見えない星の光ほどのかすかな眼差しで
見返して視線を結ぶから

2013年5月20日月曜日

欲ばりチキンちゃんへ

欲ばりチキンちゃん

自分が得することばかり考えていると
損をすることが分かったから
他人のことも考えることにしたけど
ちょっと待って
やっぱりそれは自分が得するためじゃない?

怖がりチキンちゃん

広い世界に出ていきたいのに
広い世界がとても怖くて
他人のせいにして気を紛らわしているけど
ちょっと待って
広い世界はキミの頭の中には収まらないよ

見ない振りのチキンちゃん

窓ガラスに付いた雨の滴も
狭い道を歩いている見知らぬ人も
母乳を吸わせる母親の顔も
いまここにあるもの
キミと同じかけがえのなさで存在しているよ


2013年5月19日日曜日

私はここに


何を訊いてみたいのか分からない
ただ私はここにいて
感じるままに過ごしている
風を見て飛び立つ鳥のように

何をすればいいのか
訊かれると
分からなくなる
本当にしたいことは
もう
とうにやっていたから

だから私はここにやって来たのだ
よく分からないけど
たぶん

余計なことは考えないでいい
余計なことを考えないでもいいことも
考えないでいい
そう思い
着慣れた服を着て
出かけてゆく
いつもの道を歩いて

気がつくと
いつも来るこの場所に
立っていた
何もも持たずに
当り前のような顔をして
立っていた

2013年5月18日土曜日

ありえないことは


ありえないことは
ありえないはずだとしんじていたが
ありえないことは
あっというまに
ありえることにかわる

かわってしまったありえないことは
もうありえないことではなくなり
ありえることになってしまっているので
ひとびとはあたふたしたり
あきらめたり
うらみごとをいう

ありえないことは
もうこのよにはいないので
あのよから
こどもをみまもっている

ありえないことのこどももまた
ありえることに
りっぱにそだつだろう

2013年5月17日金曜日

幸せの味


白い砂山の上の月
婆ちゃんと見たのは
いつのことだったんだろう
夜の明るさを知ったあのとき

あたたかい風をまだ頬が憶えている

きょうも仕事を終え
混雑したハイテンションの陰気な電車の箱の中に自ら飛び込んで玄関に帰り着き鉄のドアを開けて椅子に倒れ込むとしばらく心は幼い頃に飛んでいた

立ち上がり
冷蔵庫から卵を取り出し
冷や飯の上で割った

婆ちゃんは戦争で大事な人を失くし
涙と血の味がする卵かけご飯を
幸せと不幸を思いながら噛みしめては
喉に搔き込んだと言っていた

私の卵かけご飯は
ただ幸せの味がしているけれど

2013年5月16日木曜日

戦乱の大地へ


木の実を採る
そこに実がなっていれば
木いちごを栗を
柿や梨を採る
そして土を堀り芋を取る
魚を蟹を岩魚を鮭を捕まえる
海苔を若布を集める
黍(きび)や粟や葱やゴーヤを採る
山羊の乳を搾り
椰子のジュースを飲む

生まれた場所の
生まれた季節の香りが
帰趨本能に囁きかけ
粗末な崩壊しかけた家に
私を呼び戻すが
そこには既に家はなく
何事も見る影がない

いや
多くの血と涙が流されて
見たいものは痛み
見られることを嫌っている

誰かがここにいたはずだ
愛すべき誰かが
目を輝かせて何かの夢を語り
それは希い望みとなって
私を生かすのに一役買ってきた

きょうも人びとは
戦争の代わりにテロを
テロの代わりに金儲けをやっている
またはテロや戦争や
核戦争の計画をしている

自然がが与えてくれるものを
我が物顔で人工化して
新たな争いをする機会を待っている

子に母乳を与えながら
あなたは何を狙っている?
その子が生き延びる世の中は
どんな色の花が咲き乱れ
どんな生き物たちの血が流されている?

私は言葉で問う相手を見つけられず
言葉を捨てて
生まれた場所
戦乱の大地へと
問いかけに戻ってゆく

2013年5月15日水曜日

和やかな息


禿げた頭に産毛のように白い毛が生えているが
そこに陽の光たちが集まって
昔ながらの遊びをしている

禿げた頭は
誰のものか?
それは問題ではなく むしろ
あとどのくらいそれが続くのか
頭の主はそのことに気づいているのか
そのことの方が問題だ

なぜって
そこには
永遠 や 幸せ や
よく歌や占いの中にでてくるものたちがが
あふれているから

ははあ
それには
とうの本人は
気づいていないらしい

知らせてあげようかな

禿げた頭のそのひとは
でも いったい何をしているんだろう
犬を散歩させるみたいに
他者をよろこばせることばかりに熱心なようにみえる

それがわかって
私もいま
和やかな息をしているようだ



未来創作をごらんの方へ


いつも、ありがとうございます。
私は去年の6月ごろから、原子力災害で苦しむ福島県に何度も出向き、私が詩を書くことで、なにかできることがないか、役に立てないか、いつも考えていました。そんな中、福島の写真家の花の写真に毎日詩を付け始め、その活動は被災した方を招いてのコンサートへと発展しました。作曲・ピアニストの谷川賢作さんに出演をお願いして、1月に、花と詩と音楽のコンサートを開催しました。そんなご縁から、賢作さんと、花をモチーフとした歌を作ることになり、何度もやり取りをして、ここにようやく「ここは花の島」が完成しました。皆様にご報告するとともに、多くの方に歌っていただけますよう、ご紹介させていただきます。楽譜もご必要な方にお渡ししています。

マツザキヨシユキ


ここは花の島  作曲・谷川賢作  作詞・マツザキヨシユキ

一枚の花びらを
日差しに透かして見てる
それはいつかあなたと見た
朝焼けの海

一枚の花びらを
指先に置いて見てる
それはいま生まれたあの子の
こわれそうなてのひら

大切なもの守りたいと
願ってここにいる
ここは 美しい島 
花の島

季節は巡り
春も夏も
歌ってる 美しい島


一枚の花びらを
唇に当ててみてる
それはきょう初めて知った
あこがれの恋

一枚の花びらを
風にあそばせてみてる
それはなぜ やさしく誘うの
透き通った涙よ

大切なひと守りたいと
願ってここにいる
ここは 美しい島
花の島

季節は巡り
秋も冬も
呼びかける 美しい島

ここは花の島
美しい島
Lu・・・

2013年5月14日火曜日

だいじなひとをめぐる詩


だいじなひとが
死んでしまったらどうしよう

朝 小鳥のさえずりが
遠くから聴こえていた

ベッドから半身 起き上がると
喉のあたり
涙が溜まっていて
いまにもあふれようとしていた

明るい外の景色から
カーテン越しに
日の光が入ってきていた

だいじなひとが
死んでしまったらどうしよう

取り返しのつかないことをして
おとなに叱られた記憶が
回り始める

起きて
だいじなひとのことを考えなければ と
急いで机の前に座った

あの日から
もうずいぶん歳月が流れ
だいじなひとは
もう いなくなっていた

2013年5月13日月曜日

やっぱり 草加


仮想 かどうか 
うかうか するな
やっぱり そうか
仮装 火 土か
やっぱり 草加
家相 華道家
火葬 過度 羽化
鵜 飼うか 擦る 菜
やっぱ 理想家
や! パリ 僧か

2013年5月12日日曜日

爽やかな仕事

仕事が私を探していた
そんな風にして出会った仕事だ

だから私はこの仕事を
ただ一生懸命やる
ただそれだけのことだ

爽やかな気分でいられるのは
困難がないからではない
嫌な人間に会わなくてすむからでもない

爽やかでいよ! と
仕事が私をそうさせているからだ

2013年5月11日土曜日

イカしたたこ焼き

たこ焼きに絡み合うソースは自慢の逸品
マヨネーズとかつお節に合わせて
イカした踊りは
阿波踊りを彷彿とさせるいやらしさ
蛸はますます出ていきにくくなり
肉にタッチ交代の要請メール
そこに明石からイカした蛸さま登場
あわや淡路の泡となるのか
元いた蛸の運命やいかに

2013年5月10日金曜日

永遠に解決しない


夏の日の陽炎の彼方に
立っている人がいる

黒い人影だ
一人
いや二人

いや一人や二人ではない
何十人 何百人
いや
いつのまにかそれはひとつの群れをなして
何千人
数えきれない群衆
こちらに歩いて来る

見つけなければよかった

錯覚だろうか
錯覚であってほしい
暑さのせいで 私は
オカシクなってしまったのだ

群衆はどよめいて左右に揺れながら
乾いた土を大きく舞い上げている
土?
そんなものあっただろうか
舗装された道の脇にはビルや家が建ち並んでいる

顔が見えない
姿を見ることができない
群衆の中からたまに
人影が立ち上がるだけだ

唸り声とも叫び声とも
経を読む声ともつかぬ音が
車輪や足音に混じって聴こえて来る

女の子が壊れかけた人形の片腕を
無造作に握り
ぶらぶら振りながら群衆の影の中に沈んだ

あれは私が知っている少女だろうか

まだ太陽は高いのに
背後から夕日が射して
長い影が揺れ始めた

何のために
向かってくるのか
問いかけることはできない
心の中で叫び訊いてみるが
おかまいなしだ

時間は普通に流れているのだろうか
道ばたの草花が
風に抗って揺れているのが分かる

群衆は近づいてきているはずなのに
いつまでたっても影のままだ

もう長い時間が経ったようでもあるが
まだ一瞬が過ぎただけのようにも思える

私の日常生活はたしかに私の周りに存在している

鳩が背後で戯(おど)けたように鳴く
私は鳩は嫌いだ

私はこの出来事を誰かに話すのだろうか
それとも
すぐに忘れてしまうのだろうか
意味が分からない出来事

過ぎ去る訳でも
遠ざかる訳でも
襲ってくる訳でもないこのできごと

その渦中にいて
友人たちは
何かに熱中しているのだろうか
私の一大事は
何事もない一コマのように
永遠に解決しないでいるというのに



2013年5月9日木曜日

戦争に行った

首がもげたぬいぐるみの胴体が
野原に転がっていました
だれも触ろうとする者はいません
ただ
雨 虫 植物 空気 霧 土埃 光の粒子だけが
触れました

そこに一緒に留まろうとするもの
去ろうとするもの
みな 
触れた経験を持って
思っていました

持ち主は
戦争に行ったのだと

2013年5月8日水曜日

その人の居る場所


アパートの一室
箪笥の横
畳の上
錦糸の布に包まれ
白い器の中で眠る人

ああ もう「人」ではないのでしたね
でも
その人の名前は
よく憶えているし
その人によく似た人が
たまに ここを訪れ
布の中身を見たいとごねている

アパートの一室
箪笥の前に布団を敷いて
その人のそばで眠るまた別のその人
その包みを
土に埋めたいという

私は
穏やかなその話を
何度となくきいた
そして包みは
土に埋められることもなく
今も箪笥の横においてある

そして

遊び飽きた
オモチャの木馬みたいに
夕方の日差しのシャワーを浴びている

2013年5月7日火曜日

ブランコがひとりでに


ブランコがひとりでに揺れて
夕日が長い影を作ると
どこかに閉じ込められていたあの子が
やって来る

歳のはなれた姉の手を引いて

姉は悪い男に犯されてから
誰とも恋をすることができなくなった
恋の真似事をして
恋の気分を味わおうと何度も試みたけれど
それはいつもただの激しいセックスに溺れ
傷つくだけだった

だから
歳のはなれたミルクの匂いのする妹とは
気兼ねなくつきあえたのだろう

ブランコがキーキーと
音を立てる
諦めかけた悲鳴のように
か細いまま 叫び続けている

風も吹いていないのに
木の葉がしきりに
裏表になるのを繰り返している
何かの警告だろうか

ブランコがひとりでに止まり
夜が来て
もうここには誰の悲鳴も聞こえない

2013年5月6日月曜日

ゲルニカの画が

ゲルニカの画がモダンにアレンジされて
踊っている楽しげな人びとと馬たちの宴会だ
首がもげ血しぶきをあげる人はいない
黒 白 赤のよどみのない世界
泣く人の涙は巨大な黒い宝石
振り下ろす斧はホームランバッターのバット
ゲルニカの画の毒は抜かれてデザインされ
都会的なリビングの壁紙の前
誰も殺し合わない誰も告げ口しない憎しみさえも生まれない
ただゲルニカの記憶がうっすらと揺れDNAを活性化している
ゲルニカの画がモダンにアレンジされて
新しい恐怖を生む準備はもうできた
パブロピカソはハフロチカトと変わりない
くだらないだじゃれは風化しない
風化するのは風化しないもの以外のもの
ゲルニカの画がモダンにアレンジされて
沢山製造されて

2013年5月5日日曜日

ご破算の方法


偽物を彼は好む
そしてそれが本物だという
私は
マイナス×マイナスの掛け算の
答えを知った時のあの衝撃を思い出す

最後にゼロを掛ければ答えはゼロになる
これは使えると思った
そのご破算の方法も

2013年5月4日土曜日

夕焼け、夕焼け


夕焼け、夕焼け と唱えて
夕焼け色のベールが掛かる
釉薬は溶け沁み込み抱きしめる

夕焼け、夕焼け
言い訳 分け隔て

勇敢な戦士が
呆気なく命を落とす
命は舞い上がるか
地に沁み入るか消え去るか

夕焼け、夕焼け
今はない野原の夕焼け
廃棄物置き場の風に舞う埃
言い訳 捨て台詞
無神経

真紅の炎が
傍らに佇んでいるが
見つけられない人

夕焼けは 空を旋回して
遠ざかってゆく

夕焼け、夕焼け
ボールペンでスケッチした
夕焼け いい加減な紙の上
線の集合体

私に似合っている夕焼け
油の匂いがして
ダマになっている
もがき苦しんでいる

2013年5月3日金曜日

ブロッコリーの森の上

ブロッコリーみたいじゃない? 森。

TAKAはロープウエーから眼下を動いていく森に
私の視線を促して言う

ブロッコリーって、ぴったしじゃん?
おれ、前にここ、乗ったとき思った。
ブロッコリーみたいって、ぴったしだって。
うまくない?

うん、うまいうまい。いいね。
そうだよね、ブロッコリー。

ブロッコリー。たしかに、ブロッコリーに見える。

似ている。
ブロッコリーの森。
マヨネーズかけたくなったりしない?

車内ではこの観光地の歴史を説明している。
TAKAはくつろいで無邪気に口をあけて下を見ている。
私もだ。

あんね、降りたら、海の浜に行こう。海水浴場。
近くに食堂もあるから。

うん。どのくらい?

ブロッコリー、サラダにあるかな?
とも言おうとしてやめた。
だってサービス良すぎじゃん。

30分ぐらい。

ブロッコリーの森の上、
ロープウエーは通り過ぎ、
私たちの「時」もまた通り過ぎた。

2013年5月2日木曜日

初夏の夜に
見上げた窓に人の気配がある
閑静な住宅地のその家の住人は
そこで何かいい構想を巡らせている

落ち着いて仕事に取り組めること
私が長年ずっと求めて来たものが
ここにある

親は景色の中に我が子の気配を感じ
無言の幸せを噛みしめる

私は親ではない
子であるだけだ


駅に向かって歩くと
窓の中で
人影が動いた

振り向いて
我が事は前を向かねばと悟って



2013年5月1日水曜日

ぼくの経済圏

その日
ぼくの経済圏はぼく一人
食べたものが栄養となり
ぼくを明日も生き延びさせる

あの日
ぼくの経済圏は自宅そばの街並
桃色レンジャーが握手して
キャンディーくれた

ある日
ぼくの経済圏は日本国内
ニートが誤って偽札を製造しちゃって
一枚くれた

またある日
ぼくの経済圏は銀河系
まぶたを閉じて宇宙を見通し
近視の治療を試みる

いつか
ぼくの経済圏は掌の上
きみの作り話が小さな世界を
作っている