2013年12月31日火曜日

あなたへ

暗くて寒い部屋
胸のところで缶ジュースみたいに
絶望を握りしめて
息を潜めているあなた
私は
あなたのことばかり
考えています

あなたにも
うれしさにみちあふれた
日々がありましたね

私にもありました

不器用なあなたは
大事なことを
いつも後回しにしないと
その大事さが分からなかった

幸せを放っておいて
人の幸せを願うという贅沢を
たくさんして
そんなに不幸に浸かってしまった

今度はあなたが
幸せになる番です
幸せをつかんだ人の
真似をしても
悪いことはないのです

私もそうしたいと
思っています

2013年12月30日月曜日

たとえられた風

海の向こうから
潮風の香りの手紙がとどく
はりがねの形の平仮名が
洒落た置き物のような漢字をつないで
ほどけぬように
カタカナでとめてある

あなたの見慣れたイニシャルは
渡り鳥が羽を休める場所
私もなんどか
あなたにとまって
羽を休めた

そんなこともあった

地球の違う場所では
朝と昼と夕方と夜とが
それぞれの場所を覆っていて
みな
違う言葉で挨拶をしたりするが
黙っている場合もある

そういう私も
いま黙って
手紙が来るのを待っている

手紙というたとえをまとった
なつかしい
春の風が

2013年12月29日日曜日

てにしたしゅんかんに

てにしたしゅんかんに
あわくきえてしまうものがある
てにしなければよかったと
くいてももうおそい

ずっとてにしたかったものなのに
ずっとおいもとめてきたものなのに

どうしてそれは
きえてしまうのか
てにしては
いけないものだったのか

ほんとうはわたしは
きづいている
わたしがそれを
ほしいとねがうちからが
わたしには
いちばんだいじなものだったと

それがこころにあったとき
わたしのこころは
つよかった

みたされることをまちこがれる
つよいおもいで
わたしはいつもみたされていた
わたしとともにいた
だいじなじかん

2013年12月28日土曜日

初めて知るだろう

あなたの前ではずんでいた白い鞠
私がポケットに隠し持っていた光るパイプ

あなたの髪が匂い立つ真昼のスコール
私の胸で渦巻く怪鳥の羽ばたき

あなたのものと
私のものを
一緒くたにして
たき付けに
くべてしまえ
その穴に
その竃の火に

やがて湯がたぎるだろう
湯に その辺の生命をそのまま投げ入れて
私たちは夜の間中
魔除けのダンス

やがて明け方の太陽が
夕焼け空を背景にしていると
初めて知るだろう
初めて知っただろう

2013年12月27日金曜日

日々の扉

もう気づくことはない
そんなふうに 思うことはなくても
毎日が新しいことの連続だった日々は
いつのまにか別世界を描いた絵のようだ

もう誤ることはない
そんなふうに 考えはしなくても
いつも間違った道に迷い込んでいたあの頃は
かさぶたとなってすでに消えた傷口のようだ

もう「いいひと」にはならない
そんなふうに 決意しなくても
すぐに人を信じてしまう性格は
皮膚に刻まれた曲がった笑い皺のようだ

もう私は私から抜け出したい
そんなふうに 望みはしなくても
そう願った日々の重い扉は
とっくに開け放たれていて出入りは自由だ

2013年12月26日木曜日

なみは

なみはさらう
りくちのものを
そのてにしたものを
うむをいわさず
ひきつれて

なみはつつむ
うつくしいもの
そうでないもの
おんどやいろさえ
同化して

なみは話す
太古と未知のはなし
いみのない繰りごと
その声がこきゅうと
まざりあったあとも

なみはしる
せつなのかがやき
むごんのよげん
なみだがかくまった
ちいさなこえも

なみはあそぶ
ほしとゆきをうずまいて
あさとよるを
ひとつにして
ふところに深海をかかえて

なみはありつづける
わたしがせかいから
しょうめつしても

2013年12月25日水曜日

見知らぬだれかが

心がつかれたら
重荷をいったん脇に置いて
ひと息つきましょう

ぎすぎすした衣を脱いで
日向ぼっこでも
してみましょう

好きな人と過ごした
きらめく日々を
思い出してみましょう

無垢な魂の
わがまま勝手な力を
体の芯に感じてみましょう

そして
あなたのように
心がつかれたひとのことを
見知らぬだれかが
どこかで
心配して祈りを捧げているのだと
信じてみましょう

それは全く
本当のことなのだから

2013年12月24日火曜日

気取らない幸せ

幸せをそっちのけにしておいて
それに気づかない人が多い

そしてそれに気づいたときには
もうその幸せはそこにない

メーテルリンクさんが教えてくれたのは
まだ学校に行く前のこと

ルビー色の気取ったカクテルが   いま
気取らない幸せを教えてくれた

もう学校も出て街をふらついている私に
君の居場所はそこではない   と

2013年12月23日月曜日

ケーキの入った箱を

ケーキの入った箱を
落としてしまいました
やっと手に入れた
大事なケーキ

ケーキは箱の中で
大けがしてしまったでしょう

私の顔からは
笑みがきえました
そのかわりに
涙がとまりません

あなたを守れなくて
ごめんね

強くなりたいと
願った夜

2013年12月22日日曜日

私の中に

泥水の中に落ちた
大事なもの
私の手を引いてくれたから

我に返った

太陽の光を跳ね返して
眩しかった

私の
大事なもの
泥水の中で
輝いていた

泥水の中から
私は
拾い上げた
泥でよごれてしまったけれど
それは
もっと大事なことを
話してくれた
私の中に
残った
その 輝き

2013年12月21日土曜日

記憶

あなたの顔は
なつかしい村

私はそこで
暮らしてた

泉の水で喉を潤し
水鏡でいい顔を作った

防風林をかき分け
砂浜に転がり遊んだ

小高い山に登り
しっとりした驟雨を浴びた

洞窟を覗き込み
コウモリのねぐらを見つけた


あなたの声は
到来(アリバダ)の知らせ

波打ち際に
一万の亀たちが上陸した

月は姿を隠し
影は命を満たした

私はあなたを縛り
あなたは一切の夜の記憶をほどいた

2013年12月20日金曜日

少年


みんなのまえでうたった暗い歌
聴かせたくない人がいた
強いものの陰に隠れ
弱い者をみていた弱い自分
寂しさのうえに横たわり
夢の中で遠くまで出かけた
自分の中の宇宙が自分を介して
外の宇宙と相談している
木の机に刻まれていた知らない人の名前
人差し指が覚えているそのなつかしい人

2013年12月19日木曜日

少し背伸びを

白い椅子に
空気が座っている
ほおづえをついて
私の話を聴いている

もうだいぶ長い時間が過ぎた
私は
さっきとまた同じ話をしている

空気が
あくびした
私は席を立って
改札口へ向かった

カードをかざすと
そこから数字が抜かれて
小さくなった

肩をすぼめていた私は
すこし
背伸びをしてみた

2013年12月18日水曜日

きいろいくまさん

きいろいくまさん
わらっているよ
ひとりぼっちで
ソファーにすわって

きいろいくまさん
なかないでね
わたしもひとり
ゆうごはんはパン

きいろいくまさん
どこかにいこう
だれもこれない
かなたのさとへ

きいろいくまさん
つかれてねむる
わたしもねむる
ほしぞらがいっしょ

2013年12月17日火曜日

ほしいもの

いま食べるための
ひときれのパン
いま喉を潤すための水
いま伝えなければならないことを知らせるコトバ
それをささえる勇気

私はほしい
パンでなくてもいい
水でなくても
コトバでなくても
勇気さえなくてもいい

いま
私がここに生きていくために
必要なもの

それがあれば
宇宙からの問いを
問いのまま受け入れることの大事さを
忘れることはない

流れる水さえ
止めることができる
一枚の写真に収まってしまったように
宗教画の一部となってしまったように
私は風景の一部に
積極的に加担する

黄金比のポーズさえキメて

2013年12月16日月曜日

きょうのぼく

いきているかちがない
しんだほうがましなぼく
しぬかちもない
いきているほうが
なみかぜがたたないぼく

いのちをつながない
かくんやいえもつがない
たちきるぼく

わるいせけんには
だまされてばかり
いいひとをまもれない
むりょくなぼく

ごみのかちもない
にさんかたんそをはいしゅつするぼく

はやくつちとまじって
しょくぶつになりたい
あわれでみにくいぼく

しょくぱんをたべるとき
おいしいとかんじる
そのことをだれかに
プレゼントしたい
きょうのぼく

2013年12月15日日曜日

しにゆくひとは

きょうは、谷川俊太郎さんの誕生日。毎年それを祝い詩を書くのですが、
この詩は違います。


しにゆくひとは


しにゆくひとは
すんでいる
にごりすぎて
すみわたる

みなもになにかをなげいれても
なみはたたず
なにもかもをしまいこむだけ

おともきこえてこない
この世でノイズを聴きすぎたので
もう音はたたない
ただかすかな色彩が
ゆうぐれて
漂ってくる

しにゆくひとは
方向音痴になっていく
三半規管も不要であるから
回路を切ったのだろう

走馬灯のようなおもいでが
走馬灯のように回る
意味が重なってしつこくなっても
意味は無意味に行きついたので
自由だ

しにゆく人が
死にゆきつくまで
あとどのくらい時間があるのか
答える神様はいない

死にゆく人は
死にゆく人になりきり
世間をつんざいて
血潮で線を描く

道に喩えることができる
無粋な比喩は
苦いくすりのように
何かに効き目がある

とは
言えないだろう

2013年12月14日土曜日

奇跡というもの

奇跡は何食わぬ顔をして
あんパンを食べている
ところで
そのあんはうぐいす色であった

奇跡はハッとして
帽子に手をやった
鳥のフンかとおもいきや
なんと金貨だった

奇跡は青空に
軌跡を描いて
行くべき道を
教えてくれたこともある

奇跡なんか起きたことがない
と言っている人がいるが
なんと滑稽なのだろう
気づかないなんて


☆蛇足

(奇跡はあまりに
ありがたがられるので
ありふれた格好で
ドアががたっと開くの待っている

ドアが開いたら
やさしい日差しが
あるいは
微かな風邪が
頬に触れるだろう

そのとき・・・・)

2013年12月13日金曜日

ほしいものができたら

ほしいものができた
買うことはできない
ほしいもののことを
ずっと考えている
ほしいものは変わらずに
そこにある
私は少しずす変わっていっていて
ほしいものは
気配を変えない
落ち着いている
瞑想しているのだろうか
あるいは眠っているのか
私の瞼は重たくなってくる
私はその場所から姿を消す
夢のなかでは
知り合いの女が
腹から血を流してもがいている
近くにその元恋人が立って
真っ二つに割れたiPadで
病院を検索していたがその過程で
ほしいものをみつけ
そちらに夢中になってしまっているようだ
私は女に
大丈夫だからと言って
女のことを気遣いつつ
助けたいと願った
私はこの女をほしいと思うと同時に
ほしいものリストに追加した

2013年12月12日木曜日

あなたがこのよにうまれて

あなたがこのよにうまれて
よろこんだひとはいたが
かなしんだひとはいなかった

あなたがかなしみのなかにいるとき
くうきはバリアをつくって
あなたをまもろうとした

あなたがこのよにうまれて
やがてあなたはめをひらき
うつくしいものをみた
いいかおりをかいだ

それはあなただけのものだ
いま
まちにながれはじめたおんがくも
よくきいてみるといい
それは
あなたのためだけに
かなでられている
おんがくだ



わたしはおもっている

2013年12月11日水曜日

花をだいていた女の子

はなをだいていた
おんなのこ
いつのまにか
じぶんも
おはなになっていました
みんながくちぐちに
きれいだと
いいました

はなをだいていた
おんなのこ
かれていく
おはなも
だいじにしました
みんながくちぐちに
あわれだと
いいあいました

はなをだいていた
おんなのこ
じぶんは
きれいじゃないと
ないていました
みんなはくちをつぐんで
ひとことも
こえをかけませんでした

はなをだいていた
おんなのこ
かれしが
きれいだよと
まいにちきすをしました
みんなはくちぐちに
おにあいだと
いいました

はなをだいていた
おんなのこ
はなの
たねを
まきました
みんなはどんなはなが
さくのか
めをとじてかんがえました

2013年12月10日火曜日

だからとにかく

こそこそと
みちのはじをあるけば
どろみずにはまり
こえをたてずに
ちかづくとちゅうで
ころんでたおれ

みようとすれば
そこにはもうなく
さわったときには
やけどしたっけ

のぼっていくと
みちはなく
くだっていけば
がけからおちた

わたしはさいきんこんなぐあい
だからとにかく
だいじょうぶ

2013年12月9日月曜日

本物

コンサートが終わり
一つの家族が薄暗い道を歩いている
命のかたまり

音楽はしつけ糸
靴はクッション
まとったユニクロのウルトラライトダウンは
隠し事を欺く

足取りは恋心の成れの果て
夜の星空は
寒い風に散る涙を映した偽物

2013年12月8日日曜日

ゆらゆらゆれて

ゆらゆら
ゆれています
ふらふら
しています
うごくもののうえ
かわりゆくかたち
うまれてくるもの
きえさってゆくもの
ゆらゆら
ゆれています
ふらふら
しています

ゆらゆらゆれる
しんきろうのまどから
みわたします
せかいは
やはりゆらゆらゆれて
そこにたつ
ひとはふらふらしています

ふらふらしながら
どこかに
たよるものがないか
めをまわしてさがしています

2013年12月7日土曜日

鉛筆で

私の考えは
鉛筆で書く
文字を書き間違えるように
考えもよく間違えるから

私の思いは鉛筆で書く
書き終わった途端に変わるから
きらいな人も好きな人に変わるから

私の未来は鉛筆で書く
あなたが消して書き直せるように
未来は独り占めできないだろうから





絵 一之瀬仁美

2013年12月6日金曜日

いつまでもここに

いつまでも
ここにすわっていたい
この席に

いまは
駅前の
クリスマスのイルミネーションを借景に
珈琲の香りが漂い
ほどよく賑わっている
今ふうのカフェだが
まわりのひとが
すべていなくなり
たてものに蜘蛛の巣が張り巡らされ
壁は剥げ落ち窓は割れ
寒風が吹きこんでも
街が廃墟となり
行き交うひとが皆無となっても
私は
この席に
すわっていたい

私の思いは
強く不変であるに違いない
私はいたい場所に
いたい
それが私の抵抗だから
それが私がいる意味だから

2013年12月5日木曜日

あやまち




あやまちをくりかえし
いきてきた
いきてきたといま書いたのも
またあやまち

あやまちにあやまちをかさね
あやまちの塔が建つ

あやまちの塔を自ら破壊して
あやまちの道をひきかえして
あやまちの川のほとり
誤って正しいことを
水にながす

あやまちで
日が暮れて
あやまちの夢にめをさまし
誤った名を呼んで
ふたたび眠る

あやまちをくりかえし
いきつづける
くらしをよくしようとする
だがくらしはよくならない
すべてがあやまちだから

あやまちの躯を
正しいもので染め
正しさというもので染め
中身も
ねこそぎ入れ替えなければ

それでも
あやまちをおかすだろうが
あやまちには
気づかなくなるだろう


2013年12月4日水曜日

みらいのために

だれかのために
はたらいて
なにかのために
しんでいく
そんなじんせい
ありました

すきなだれかに
のせられて
しぼりとられて
わらわれて
ちいさなゆめは
きえるもの

やさしいひとを
ふみだいに
とおくをながめた
ひとがいた
こわれたふみだい
もえるごみ

ながいものには
まかれつつ
いやなおもいは
ひとまかせ
おやまのたいしょう
ごきげんよう

わるいはなしは
わすれましょう
おとくなはなしは
おぼえとこう
やったもんがち
おらがむら

きれいなものに
かこまれて
よごれたものは
しらんぷり
じぶんのよごれは
きづけない

2013年12月3日火曜日

無題の日々



行くところがないから
行きたくない方角を避けて歩いた

落ち着く場所がないから
好きな本を開いては
その中に入っていった

愛するひとがいないから
すれ違うひとが「そのひと」かどうか
確かめながら歩いた

守りたいひとはいたが
その力はないから
ただ守られていた

神様は見えなかったが
神様はきっと
視線を合わせるのが苦手なのだ

と 思うことにした

2013年12月2日月曜日

そんなこともあった



まいにち生きているのが、つらくて、あなたは、もう死ぬ価値さえない、という
生きている価値は、たぶん、もうとっくの昔にあなたのこころから、消失したというのだろうか

白く頼りない翼の鳥が、寒々とした冬のくもり空を、裁ちばさみのように切り裂いていくのを、あなたは、不意に見てしまい、
ああ。わたしも、世の中を切り裂いて死んでいくことができたなら、と、あるいは、生きていくことができたなら、と唱えながら
放課後の校舎で、誰かが書いた「生きる」という詩を読んだことがあったな、と、ありありとその景色や色彩まで、思い浮かべた

その名前は枝に残った枯れ葉
弄ぶものはいない だが弄ばれている
それは 行きずりに誰かが触れたから。その影を踏んだから…
音が交じってグラウンドノイズができあがるときに、それに隠れて
あなたの吐いた息が、あなたの命を吹き消した

そんなこともあった

2013年12月1日日曜日

取扱い説明書

この容れ物
不便なこと この上ない
もっと
いいものがたくさん容れられるようにしたいが
どうしたらいいのか
説明書がない

多くの人が
知恵を出し合って
取扱い方法を考えたり教えたり
話し合ったりしているが
いまだに
明快な答えはないようだ

造ったひとが
ちゃんと取り扱い説明書を
残すべきだったといえるだろう

不親切なことをすると
きっと
バチが当たると思う
それがたとえ神様でも