2011年4月30日土曜日

ライムの香り

寝ているあいだに
あなたのからだに
何度も波がやってきて
連れ去ろうとしたので
目覚めたとき
あなたは疲れきっていた

こんなこと一度や二度ではないだろう

リビングのテーブルについたあなたは
無理やり笑ってくれたけど
ぼくはどうしたらいいのか
わからなかった

昼になって
あなたの手は
火に鍋をかけて
カボチャを煮
イワシを割いて小麦粉をまぶし
料理を作り始めた

大きなワイングラスに
金色の液体を注ぎ
ライムを絞って
さし出した

その一連の動きが
あらかじめ
決められていた
何かの美しい物語のように
僕の目の前にあった

ライムの香り
あなたの手から香ってきた
氷の上で
絞られたライムが見つめていた

2011年4月29日金曜日

竈(かまど)の火

不幸の手紙を自分に出した
なぜか節目に送られてくる手紙
その手紙をそのまま書き写し
自分に出すのだ

私に届いた私が書いた不幸の手紙は
あなたの幸せの役に立つだろう
不幸の手紙はあなたの幸せのために考えられたものだから
私はあなたが幸せになるのを見届けて
どこかに去っていく

居なくなった私は
もう不幸の手紙を書くことはない
ただ残された多くの出せなかった手紙が
あなたの家の竈の火を燃やし
食事の鍋をあたためるだろう

わたしはやっている

詩を生むよりも
生活や仕事を大事にしなきゃと
思っているんだね

両方やれるんじゃないかな
わたしは
やっているよ

そこに置いて

暗い顔をして
雨上がりの
緑の
木々を見ているね

暗い気持ちを
そこに
置いて行きたいと
思っているんだね

2011年4月28日木曜日

あしたにはきえている

死への道をまっしぐらだよ
もう詩は書かない
書けないんだ

読む人に
未来を信じさせなきゃならないから
嘘でも
役に立たなきゃ価値がないんだ

価値がないのを
知っていて
取り繕うのは駄目なんだ

下手な詩が
下手な書き手から
見放され
道ずれを求めてやってきたんだ

ついさっきのことだ
追い返すことはできなかったよ

深呼吸して
生き延びようとするように
死んでいくよ

相似形なのかな
分からないけど

悔しさは繰り返しやってくるだろう
いいところもあったから
あきらめがつかなかった

神様に指導して欲しかったよ
いまからでも見守っておくれ

文字は仲間だったな
最後まで
看取ってくれよ
よろしく

寝入るように
言葉ともお別れ
役に立っておくれ

希望を与え
やさしくいてくれ

2011年4月27日水曜日

ゆっくりやればいいんだ

ゆっくりやればいいんだ
ゆっくりやればいい

ゆっくりやればいいんだ
ゆっくり
ゆっくり

ゆっくり


慌ててやってもいい具合にいかないんだ
慌ててやってもいい具合にいかない

いい具合にいかない
慌ててやっても

やっても
やっても


どうにもならない一筋縄では
一筋縄では

どうにもならないんだ
慌ててやっても

ゆっくりやればいいんだ
慌ててやっても
一筋縄ではいかないんだ
どうにもならないんだ
いい具合にいかないんだ
いかないんだ
慌ててやっても
どうにもならないんだ
一筋縄では
いい具合にいかないんだ
ゆっくりやればいい

ゆっくりやればいいんだ

ゆっくり
ゆっくり

2011年4月26日火曜日

野山の野と山の間

のこのこと
やってきた私は

しめしめと
待ち構えていたあなたに
みすみすつかまった

やれやれと
帽子で顔を覆う人をしりめに
私たちは
幸せだった

トントン拍子にことは進み
しんしんと更けた静かな夜に
私たちはミシミシとベッドをきしませて
朝まで眠らなかった

だれもがそれぞれの思いを抱えて
スースー寝息をたてて眠っていただろう

私たちの時間は濃厚で
薄まる気配さえなかった

星の光のなかで
シクシクと泣く姿は見えなかった
恋人はなくなく去っていった

そうして
あなたと私は自然に結ばれた
自然は私たちによって
イキイキと薫ったのだ

2011年4月25日月曜日

彼は朝立っていった

彼は朝
立っていった

彼女は
立っていった彼を
包み込み
やさしさで満たす存在だった

彼は
出ていった
それから
立っていった

立っていってから
彼女は
彼を追っていった

彼は
追い抜かれる心配でいっぱいだった
胸がいっぱいだった

彼女は追い抜かず
すこし
あとからいった

彼は彼女に
いった
愛してると
すきだと

彼女も彼が好きだった
だから彼にいった
いかないでと

いくなら
一緒にいこうと

だが
彼は
朝立って
いった

それが
彼のいいところだわ

彼女は思った

2011年4月24日日曜日

ソナチネの木

ソナチネの木というのが
この世のどこに
あるだろうか

その枝には
解説されていない
いくつもの物語が
葉のように茂っている

葉のように
というのは
どれも
木の枝に付くのに
ちょうどいい大きさだから

それゆえ
どこからか風が吹いてきても
軽く受け流して
ただちょっと揺れたり
震えたりするだけなのだ

もっとも古い葉は
もう千年以上も前に生まれ
そこに付いているという

ソナチネの木にも
季節というものはやってくる
やってきては
過ぎてゆく

季節変わりに
物語の葉たちはその様相を変える

ぐんとおおきくなるもの
誰かに摘み取られてしまうもの
誰かの解説にあずかって消え去るもの
季節とともに旅立っていくものたちがいるからだ

ソナチネの木が
いつからそこにあるのかは
だれも知らない
いつ生まれたのか
どうやってそこに運ばれたのか

いや
その木の存在さえ
見ることができない者さえいる

だが
ソナチネの木は
いまも
多くの葉をたたえ
日々小さな変化をしていく

4月も終わりに差し掛かったいま
夏に向けて
その葉を青々と空にかかげている



2011年4月7日
岸田衿子さんの詩の永遠と
魂の冥福を祈り

2011年4月23日土曜日

雨の日の詩

23時36分
パソコンの前

外で
雨の音がしている

手元で
キーボードのキーの音がしている

モニターに
「詩に愛はあるか☆未来創作」というタイトルが表示されており
その下の白地のウインドウに
迷いがちに文字が表示され
文字の下に点線のアンダーラインが現れては消えていく
(消すためには変換候補のある箇所は
一旦青い地が背景に現れ文字は白色となる)

その様子を見ながら
私は
さっきから消去してしまった
いくつもの書きかけの詩のことを
考えている

きょうは特に多くの詩を消去した

消去された詩の中には
きょうは頭の中から消去したい『あなた』のことが記されている
(消去したのだが、むしろ『あなた』のことばかりが
また言葉になって出てこようとする)

『あなた』のことは書かないぞ
←もう書いているじゃないか
消してやる
←脅してる

話題をかえよう
「それはさておき」と言えばなんとかなるものだと
芝居のセリフで聞いたことがある

それはさておき。


きょうは雨が降っている
夕方は天気雨だった

傘をささずに
バス停まで歩いて行くと
ポケットにメールが届いた

『あなた』からだ

それはさておき。


桜は散ってしまった

お好み焼きが
うまく焼けない
それは
私が言いたいことだった

雨の中で
愛を呼び寄せるため


それはさておき

詩なんか
書いていられない

2011年4月22日金曜日

どうしたの?

考えごとをしようと
きょうも波打ち際にきてみたが
海は何も教えてくれない

木製のデッキの階段にこしかけて
砂浜と海をみる
大きな雲が
ゆっくりながされている

私もながされているのだろう

コンビニで買った
ドリップコーヒーのカップは
もう空だ

私のこと
誰も見ていない

私だけ。



いなくなった人が
どこかにいるような気がしてくる

ドアを開けて
帰ってくるだろう

どうしたの?
と怪訝そうに訊ねて

2011年4月21日木曜日

空の渚に

ドカンがドカンと響いた
夜間に
きみというあなたがやって来た
きみというのはあなたの名前だ

あなたは
わたしの
穴の空いたタオルをみて
穴の空いていないタワシをわたしに渡した

わたしはタワシを
タオルの穴からすかしてみてみた
すると
タオルに空いた穴が
あながち悪いものではないことがわかり
代わりにまっさらなタオルを買うのは罪ぶかいことのように
思われてきた

きみはわたしにタワシの話しをし始めた

わたしは仕方なくその話を聞いていたが
その話は長くそのうち飽きてしまったので
いつの間にか眠ってしまった

またもやドカンがドカンと響いた
きみというあなたは帰っていった
タワシもどこかへ行ってしまったのか
みあたらない

ここには
もう誰もいないみたいだ
ただ
波が頭上で
波打っている

そのうち
凪もやってくるだろう
空の渚に

2011年4月20日水曜日

僕の服は潮の香りがする

僕の服は潮の香りがする

靴には砂粒が入っている
耳には波が砕ける音が残っている
防波堤で激しく砕ける波
物語の始まりのようで
終わりのような 砂浜の道

指にはカメラボデイの形が
背中にはあなたの視線を感じる気配が
コンビニで買ったコーヒーの苦さとその熱が
残っている

空には満月から1日たった月が
暗くなった海の手前に立つ
あなたの瞳のうえで光の点となっている

僕の服は潮の香りがする
あなたには
なにが残っているだろうか

2011年4月19日火曜日

ノープランながら応援に

さて、でかけよう
ノープランながら応援に

動きやすくて
ちょっと派手目な色をまとって
靴紐をキュッと結んで

雨にぬれてもヘッチャラっていう感じで
スタスタ歩いて

地下鉄を乗り換えて
人ごみの中を分け入って

むかし藪の中に宝物を探しに
行ったように

音楽を聞きながら
歩いて行こう

知り合いに出会えるかも
面白いことがあるかも

わくわくする気分を持って
お財布 落とさないように気をつけて

ノープランながら応援に
ノープランでもなんとかなるから
応援に行こう

そして
応援し終わったら
家に帰ろう

大きな都会の小さな部屋

終電があれば大丈夫
遅くなっても
あしたは
また ノープランでも

いいえ
明日は プランがあったわ
大事な約束が


(K・Mさんに)

2011年4月18日月曜日

マレーシアの風に吹かれて

マレーシアの風に吹かれて
新しい高層ビル群を見渡して

沈んで行くのは
夕日ではなく
私たちのほうだ

つぶやいいてみる

邪気を払うようだ、な

そう思ってみる

いつも自分が生きていると思っている街から
関係ないと思っていた街へ
マイルを使って
きてみると

そこにあったのは
自分の記憶していたものばかりだった

懐かしい、の、かな

そう思ってみる

高層ビルから
古い家が並ぶこの道まで
すべり台を設置して
来られないかな

楽しいだろうな
子供よりも
大人には

ボウリングの玉を
高層ビル群に向けて
なげるのもいいな

辺りから聴こえる歌を
応援代わりにして

東京よ
何か忘れていないかい

わたしは
マレーシアの風に吹かれて
ちょっと気分がいい

マレーシアの風、なんて
大雑把ないいかただが
これでいい、のだ

そう思ってみる

2011年4月17日日曜日

なんだかわからないけど書きたかったもの


普段は鈍感でもいい
チャンスは一度しか来ないから
その時に力が発揮できればいい
勇気を出して全身全霊で挑戦だ

チャンスを勝ちとったら
自信が湧いてくる
冷静にやるべきことをやっていけば
すべてはよくなっていくだろう


自分のことが嫌いなら
嫌いな自分のために頑張れるはずがない
好きなところを見つけて
そこだけを見つめてあげればいい

好きなことを続けてもなかなか芽が出ない
焦ることはない
世間にない自分に合う方法が見つかるまで
あきらめてはいけない


大きな失敗をしてもいい
もっと大きな失敗が来るかも知れない
人間なんてそんなモノだ
経験済みの先輩が参考になる

失敗したら取り繕わずに
真実の姿を見なければならない
しかしそれにとらわれずに
新しい自分を作っていくのだ


締切りが来たら提出しなければならない
このルールは案外役に立つ
中途半端な自分を許す言い訳にもなる
集中力を高め必死になるための指揮官にもなる

提出した後で提出したもののことを考えるのは
無意味なこともあるが役に立つこともある
しばらくしてから反省すれば客観的な評価ができる
新しいアイディアをそこに見つけることも珍しくはない


作者独白 

いままでずっと日記のように詩を書いてきて、とても勉強になりました。
飽きっぽい自分は、一つの書き方では飽きたらずに、いろいろな方法で書くことを開発できたからです。
また、過去のものを読み返すことで、自分の癖や自分らしさを確認することもできました。(自分らしさは、もちろん肯定できるものばかりではありませんでしたが。)
毎日書くということから新たに編み出された、詩を書くための「発想法」のようなものも、一つや二つではありません。詩を書くとこの効用も副産物として実感できました。
最近、震災によるいままでの社会体制への疑念の潮流から、詩人・アーティストなどの表現者が、日本の社会でなにができるか、自分も書きながら考えることとなりました。そのなかでは、詩の実用性や機能について、簡単にいえは「詩の力」について、どう強化していくかということが避けられないテーマでした。
以前から詩と詩のメディアについて自分なりの理想や野望を持ち、投稿メディアや場をつくってきた自分は、やはり、こうしなければという思いが、段々確かになってきました。
これは感想に過ぎませんが、そんな気持ちを少しでも具現化していければと思っています。

2011年4月16日土曜日

君のTwitterに返事したいのだが

みんなが集まってチャリティをやっている
楽しみながら
社会貢献をしようとする集い
その輪から
弾かれて
節電モードの駅に入り
電車を乗り継いで家に逃げ帰る

弾かれたのは何?

この間まで
作ってきた街のオプションが
停止している
いくらお金をつぎ込んだことか

そのお金はもちろん帰ってこない
こんなものつくらなければよかった

明るすぎる街の姿を思い出す
レクイエムのようにテレビの音が流れている

才能ある若者が
暗い通路の影で
一生懸命
誰かと話している

ジェスチャーしたりして
笑顔を浮かべたりして

その脇を通りすぎていくのは
どこかの詩人が書いた時代の文脈ってやつかな

ぼくは手のひらの小さな画面を覗き込み
指で触れる
こんなこと
一日何回繰り返しているのだろう

そう頭の中で思った
何回も思った

これも
何回目だろう

2011年4月15日金曜日

想定外の計画

瓦礫の山
という慣用表現
瓦礫が積み上がってできた山のこと

瓦礫が見渡すかぎり続いている
瓦礫の道
瓦礫の荒野

一面の
瓦礫の海
そのなかで
小高くなっている
瓦礫の丘
瓦礫の崖

瓦礫の荒野

人が生き埋めになっているかも知れないのは
瓦礫の家
死んでしまった
瓦礫の墓

瓦礫の山から
人を助けるのは
救出劇
これは慣用表現

自然災害は四字熟語

災害報道
報道特別番組
いまはもうない
緊急報道特別番組

普段の体制

瓦礫の下で
テレビを観ている人はいないのだろうか
電気も来ない
電波を信じる?

瓦礫を撤去
閉鎖された遺体安置所
風評被害
出荷制限
避難指示
計画避難

魚を値切る
魚を取らない
稲を作付しない
株主代表訴訟を恐れる
働く場所がない
家族を失った
知人を失った
見つけられない

はやりの言葉が
慣用表現になっていく

想定外
想定外の計画

2011年4月14日木曜日

あの男のように

46歳という年齢は
関係するのだろうか
なにかをするときに

なにかをするときに
本人は年齢を忘れているのだが

忘れたほうがいいことと
憶えておかなければいけないことは
同じ引き出しの中にはないのだが

同じ方向をみて歩いていたと思っていたあなたが
突如怪訝そうな目でわたしを見るのは

わたしが何か不思議な動きをして
憶えていたほうがいいことを忘れ

忘れていたほうがいいことを
思い出しているのが知れてしまうからなのか

しまった  と思ったときにはもう遅く
いつものように連れは遠ざかり

さかりのついた猫が勢いづいて
無謀な喧嘩を挑むのに憧れたまなざしで

深夜にあなたに無謀な計画を打ち明けたあのときの自分を
また呼び込もうとしている

お呼びでないのがセールスポイントの
あの男を慕うように

2011年4月13日水曜日

暗い花

青い空を背景にして
あなたをあおりぎみに撮る

視線を移す度に
波打つ胸

声を発するたびに
波紋が広がり

夕暮れが早まる
ピンチョスをつまむ指

石畳を過ぎる靴音
コットンの開かれたえりから

こぼれてくる香り
生白い稜線

独りで居るのが怖かった時代
不安の列が連なって

見られているふたり
背景にアザミ

アザを見るという名前の
暗い花

2011年4月12日火曜日

二人のあいだに

ティールームのテーブルの上に
あなたはアップルパイのような夢をのせて
銀のナイフとフォークで切り裂いた

わたしはそれを
対面から見ていて
自分のフォークでパイを突き刺し
むしゃむしゃと食べた

窓の外では
花びらが散り始めた桜の木が
立っている

あなたは
願いごとのような砂糖を
スプーンにのせてカップに落とし
グルグルかき混ぜた

わたしはそれを
伏し目がちに眺め
二度咳払いをした

テーブルクロスの荒野が
日差しを受けて眩しく輝き
二人のあいだにあった

2011年4月11日月曜日

ただ、走ってゆけ

今までが明るすぎたんだ
わけもなく騒ぎすぎたんだ
強迫観念に襲われて
ムラ社会の怖さとありがたさを背中に感じて
バブルの時代を通り過ぎ
いろんな「ショック」を乗り越えて
明るく騒ぎ立てただけだったんだ
日常をドラマ化し
人生をマニュアル化し
不安を追いやり
あまり考えず
思想家を追い出し
明るくおしゃれに可愛く生きる
そのことが粋でかっこいいとはやし立てて
根暗はださく
オタクはゆるせることにして
クールジャパンと商標を立て
何だってやり過ごしてきたんだ
わかりにくいものは切り捨て
マイナーはマスが保護するんだということにして
長いものにはこっそり巻かれて
キャッチコピーのような早い話が大好きということにして
みんなでやってきたんだ
その明るさが
どんな明るさだったのか
みんな知っていたことに
気づかないことが
約束だった
気づかないように
表現者を骨抜きにして扱い
ヤバイものには触れないようにしたんだ
ヤバイという言葉さえ骨抜きにして
怖いものを覆い隠してしまった
暗い街に灯る灯りのような笑顔が
町を歩いてゆく
未来を無造作に抱えた子どもたちは
親の手を解いて
ただ走りたくて走ってゆく

2011年4月10日日曜日

6次元にて

美味しいアイスコーヒーを
ありがとう
自然な笑顔が素敵です

本をかき分けて
カウンターの席で
アイスコーヒーを飲んだ

みんなが持ち込んだ
本を販売して
地震の被災者に全額を送る

色紙の看板は
谷川俊太郎さんの筆文字
売り上げを入れる募金箱は
谷川さんが持ってきた古い革のバッグ
ひょっとしたら谷川徹三さんのものかもしれないという

谷川夢佳さんは毎週のように
おじいちゃんの家から本を持ってきて
手伝っているそうだ
その様子が目に浮かぶと
自分も頑張らなければと思う

穂村弘さんは昨日きて
一箱置いて行った
その箱は出されたアイスコーヒーの隣に置かれていて
わたしに語りかけた
わたしはその中から本を買い
募金箱のバッグにいれた

混み合ってきたので
店をでることにした

外に出ると
中が恋しくなった
こんなことは
久しぶりだ

ありがとう
6次元

2011年4月9日土曜日

居場所

黄色い花が咲いた
去年と同じ
いつもの道端に

風が
揺すり
花は今にも折れそう

だが
そこは
花の居場所

その花が
咲くための

その花が
香り
命を継ぐための

わたしの
居場所は何処?

あなたは知っている?

2011年4月8日金曜日

わたしのきつね

寝ずの番
あの 
きつねが
どこかに
いってしまった

トンネルの中で
立ち往生した
電車を見に行ったのか

きつねさん
コン と鳴いて
戻ってきてよ
座布団を用意しておくから

耳をすましても
声は聞こえない

耳をブーメランのように
飛ばして探してみようか

コン

いまのはきつね?
いいえ
隣の家の誰かの咳の音

2011年4月7日木曜日

きえさる

わたしはいなくてもいいひと
いないほうがいいひと

ひつようとしてくれているひともいるが
きらっているひともいる

かみさまにいかされているが
また
かみさまにみすてられてもいる

いきているめんどうが
つみかさなる
とうひしたいおもいが
ながれこんできて
こきゅうができなくなる

きべんのきりくちから
ちがながれて
とまらない

みつめることはできるが
うごくことはできない

とおくのみかづきが
だぶってみえる
わたしのめでは
もうくっきりとみられない

おもいでがあふれて
こぼれだす

へやのゆかが
つかいものにならなくなる

いきていきたいひとが
しにたいひとをひはんする

ひはんにあたいする
とおもう

はるのくうきは
あたたかくて
にんげんのあたまをひやせない

まんかいのさくらとともに
ちるのだけは
さけたいものだ

せめて
つきのでていないよるに
できれば
まちのくらがりで
いっしゅんのひかりをはなち
きえさりたいもの

2011年4月6日水曜日

質問するよりも

どこの誰に
質問したらいいのか
さっきから考えている

校庭のテニスコートの金網のもっと向こうにある
鉄の柱が
気になる
一部を黄色く塗装された仮設の柱

しかし 
その鉄の柱は
答えてくれないだろう



いつのまにか風に流されてきた雲が
マントを着た旅人のように思える

 (青空を見るには少し眩しい
    露出を絞りこまなければ)

その旅人に訊くのは違うだろう
旅人は盗賊のように去っていく

質問する相手を思い描いては
否定する
そのことを繰り返している

校庭では
サッカー部が大きく陣取って
サッカーボールを回している

息を切らしている奴をみていたら
自分の呼吸も引っ張られて苦しくなる



通り雨
ぬるい雨

シャツが濡れて肌に張り付いたが
もう乾いてきた

文通相手に手紙を出して質問してみたらどうか
一瞬頭をよぎったが
そんな高度な手紙が書けるはずがない
それに迷惑だろう



いったい誰が
質問を受け止めてくれるだろう
ネットの占い師?

マクドで
iPhoneで
詩の日記を書く
プレミアムアイスコーヒーを飲む

週末の約束が
ケータイに届く

こんな人間でも
会ってくれる人がいる

 (街とは便利なものだ
  人を酔わせることができる)



自分は何を質問したいのだろう

それは
大事なことではないように
思えてくる



放射能物質が風に乗って
飛んでくる
旅人の頭上を追い越し
雨にまぎれて

柱の黄色のところで
ちょっとたじろいだけれど

プレミアムアイスコーヒーのところまでくると
ジャンプして飛び込み
カップの中で溶けた

質問を
確かに受け止めた

2011年4月5日火曜日

最高指令

原発の必要性を訴えるために
この際
計画停電を効果的にやらなければならない。
産業も病人も生かさず殺さずが方針だ。
多少の犠牲は出てもいい。
悲痛な面持ちでお詫びすればいい。
消費者心理を掴み
ニュースをコントロールして
エキセントリックな人々も利用して
悲劇を演出し
カッコつけたがりの権力者をうまく使いこなし
我々の組織を守らなければならない。
今までそうしてきたように。
我々の必要性を認識させ、
成長しなければ苦労の意味がない。

我々は産業界のエリートだ。
かつて銀行を国民の負担で救ったように
我々も救われるべきだ。
責任をとってやめなければならない者たちは
決して見捨てることはしないから
ここをうまく乗り切って
次のステージで好き好きやってくれ。

具体的には
秘密組織を発足したので情報を集約し
戦略を立て指示をくだす。

事故の影響が幅広いので
撹乱に使う情報と
ヤバイ情報の出し方が勝負だ。
さあ
取りかかれ。
これが最初の作戦だ。

---そうして
いつものように
資料が配られる

2011年4月4日月曜日

あなたのほう

待ち合わせの約束をしたまま
忘れてしまった日

取り返しのつかないことばかりが
思い出される

涙が枯れ果てた夕日のベランダで
傷ついたのは自分ではないことに気づいた

待ち合わせをしたまま
忘れられたのは私のほう

そのことを覚えていたのは
あなたのほうだった

2011年4月3日日曜日

あのコのことはわたしがいちばんよく知っている

あのコはスキ
あのコはキライ
あのコはまあスキかな
あのコはウザい
あのコは超便利
あのコはムカつく
私は?

あのコが店に入って行く
あのコがスマホでメールしてる
あのコがホットペッパーみてる
あのコが買い物してる
あのコがカレシと笑ってる
あのコが猫にお菓子あげてる
私は?

あのコが神社で手を合わせてる
あのコが男に怒鳴られてる
あのコが料理を作っている
あのコが泣けずに唸っている
あのコが友だちを慰めている
あのコが嘘ついて誤魔化してる
私は?

あのコは私の友だち
あのコは私の鏡
あのコは私のライバル
あのコは私の監視者
あのコは私の愚痴を聞いてくれる
あのコは私を遠慮なく叱る
あのコは私
私はあのコと同じ

あのコは私と同じ?

2011年4月2日土曜日

寄付をする人

大きなお金を寄付するとき
彼は幸せな気分ではない
誰かと何かを共感できるとは
思っていない
彼の目的は共感ではないし
ましてや感謝されようなどもど思ったことはないのだ

彼は寄付を済ませたあと
いつでも孤独になる
云い知れぬ寂しさに襲われ
しばらくは黙して悶絶する
彼が得たものは
このような時間なのだ

だが
彼はその孤独こそが
一番大切なものだといつからか知るようになった

引き合う孤独の力が
宇宙を形成し
人は愛について語りさえする 
 
宇宙が彼を包み
彼は自分の考えたことが
記憶という海から溢れ出し
銀河を流れ去っていく様子を見る

もはや
どこに視点があるのか分からなくなる

所在無げな彼のポストに
乱れのない文字で記された
一通の礼状が届き
指先がその冷たさに出逢った


☆ この連は著名な詩の表現を引用しました

2011年4月1日金曜日

古いラジオ

古い男が鳴らなくなったラジオを
修理している

古いラジオが
古い男の
思い出を修復している

いつのまにか
夜明けが窓の外に来ている

ラジオが時報を告げた