2012年11月30日金曜日

チキン 大丈夫?

苦し紛れの言い訳で
さらに苦しくなりました

癒しを求めて休みすぎ
歩くだけでも辛くなり

トクをしようと東奔西走
かえってお金が消えていく

役にたとうと張りきると
自分の役に立ちません

好きなあの子を追いかけて
きらいなあの子に捕まった

楽しい計画立てたけど
しんみりうなだれたい気分

2012年11月29日木曜日

青春みたいに胸を弾ませて

自分の体にしがみつかないと
生きて
行けないんだね
アルパカちゃん

とある
寒い日に
アルパカちゃんは
裸になって
考えていた

いつも途中で
こんがらかって
やめてしまうのは
前の
ハンパな
カレシと一緒

アルパカちゃんは
縛られるのも
ぎゅっと押さえつけられるのも
じらされるのも
嫌いではない
だけど
相手に仕返しをしたくなる

公園の池の湧き水のそばで
アルパカちゃんは
自分のことを考えながら
いつの間にか
他人のことばかりを
考えていることに気づいて
「おえっ」と言った

きょうは
古い家に帰る
電車を乗り継いで
夕日の方向へ
走っていく

青春みたいに
胸を弾ませて
アノときみたいに
息をハーハー言わせて

2012年11月28日水曜日

あなたが現れるたびに

あなたが現れるたびに
私はくだらぬ言い訳をして
あなたに赦してもらおうとする

あなたが立ち去るたびに
私はその背中を見送り
またあなたがやってくることを願う

あなたと会えない日が続き
私は自分らしさを取り戻そうと
あなたのことを忘れようとする

100万円あげる

電子書籍として実験的に連載開始しました

2012年11月27日火曜日

黒ネコちゃん

軽くなっていく黒ネコちゃん
冷たい場所を見つけて
浅くて早い呼吸をしています

もう好物も食べません
赤い舌と喉の奥まで
惜しげもなく晒したままです

さっそうと雀に飛びついた姿は
もう瞼の奥に残るばかり

黒ネコちゃん
妹が連れてきた偉そうなネコ
さらば
妹はまだ帰らぬが
先に行っても誰も怒りはしない

よくやった
さあ
どこにでも行け
塀の向こうでも
その向こうの屋根の向こうでも

福永令三さんの訃報に接し

児童文学の作家、福永令三さんの訃報に接した。福永さんとはいろんなことを一緒にやらせていただいた。福永さんの新作の本のシリーズを出版すること。そして新人の児童文学作家を発掘し、世に送り出すこと。とても時間がかかる根気のいる仕事をご一緒にさせていだだいた。何度も熱海のお宅に伺って、ケーキを食べながら思いをめぐらせ、お話をした。福永さんが読者からのファンレターを宝物のように大事にしまっているのをみせていただいたことを思い出す。あのすばらしい笑顔。最初の待ち合わせのために送られてきたご自分の写真。私に詩を教えるために書き込みを入れて送ってくださった詩集。奥様のやさしい声まで。何度も私のやっていた出版社にも足を運んでいただいた。つぎつぎと思い出される。そして、私の出版社がなくなるときに電話で交わしたわずかな言葉。83年の生涯が幸せであったことを祈ります。当時の仲間たちと、あの坂を上ってまた会いに行きたい。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%8F%E6%B0%B8%E4%BB%A4%E4%B8%89

2012年11月26日月曜日

ソファに座ったまま

ソファに座ったまま
やっちゃおうというのか
窮屈で強く凭れたりして
いつもと違うのもいいけれど
僕たち初めてだよ

きみは縛られた写真をチラッと見せたりして
なかなか挑発もうまいね
飢えたワンちゃんみたいに
まっしぐらさ

アロマキャンドルを幾つか灯して
古いイタリア映画点けっぱなしにして
ぼくに服を捲り上げさせるなんて
ブラが結び目の解けないギフト包装みたいで
割いちゃいたくなる
それも当然狙いだね

きみの声はなんてかわいいんだ
甘え上手なのは
匿さないんだ

ソファが湿り気を帯びて
舌が絡み合う音も
初めてのようだ

深い息を吸って
きみはなにかのチャンスを狙っているのか
途方に呉れる遠い道のりを
駆け上がっていくんだ
これから

カーテンを閉ざして
二人だけになろう
実況中継はやめて
誰かにまかせておけばいいね

2012年11月25日日曜日

けつまくりたまえ

けつまくりなさいよ
けつまくりたまえ
つまりまくるけつ
きみつかみ
かみつかずつつみいれ
つかみかからずつつがなく
つみつくらず
もちもつきもうそつきもせず
つらくなくつらくあたらず
つみれなべつつにつきいれ
なべしきにつつみこむことなく
きみ
けつまくりみなけつまくり
つっぱらずつづけてつんのめることつつしみ
つきすすんでつつしみつつけつまくりなさいよ
けつまくりたまえ
けつまつまで
けつまくりたまえ

シマシマお尻

うきうき浮世
飽き飽き秋よ

シマシマお尻
ますます祭り

ふわふわ服は
わくわく和服

むんむん蒸れる
るんるんするの?

「死のうとしたときに」に中村ゆき子さんから寄せられたコメント

あなたはどこの崖の上にたっているのですか?

私の、家の近くに101才の老人が一人でくらしています。
畑の中のプレハブで。呼び鈴がきこえないのでアルミのドアにはけん玉の木の玉がつってある。
元気ですかと訪ねると、「猫ちゃんと一緒に楽しく暮らしております」と答えた。
老人は野良猫にエサをやって可愛がっています。
ある夏の大雨の日、プレハブの家は水に浸かってしまい、おじいさんは息子夫婦の元へ引き取られていきました。
その後もアルミのドアの前には、からのエサいれと一緒に野良猫が・・・・

この話の続きをあなたに聞いてもらいたいのです。、だから私が行くまで空でも眺めながら待っていてほしいのです。


※マツザキより これはブログの読者、中村ゆき子さんから、先日11/23の詩に対して寄せられたコメントです。中村さん、ありがとうございます。皆さんに読んでいただきたくて、そのまま転載させていただきました。

2012年11月24日土曜日

あれからどうだった

夢の途中で何度も起きた
いつのまにかうたた寝してしまう夢を見ていた

サンダルを突っかけて
近所の川まで写真を撮りに行った
帰り道に
いそいそとカメラを持って川まで歩いたことを思い出しながら

お茶漬けにお湯を注いで
マイナスを掛け算した

予約タイマーで
昨日の番組を予約したのは
今日になってからだった

テレビをつけると
カーター大統領が演説している
あさっての飲み会に誘われていることを思い出した

カメラを持って出かけよう
しばらく会っていない友だちと
あれからどうだった?
という話をしよう

2012年11月23日金曜日

死のうとしたときに

死のうとしたときに
ふと違うアイディアが浮かび
引き返そうとした人

映画の主人公みたい
気取って
崖の上に立つ

苦しいことが晴れた空に蒸発する
というのは勝手な幻想
じりじりと心を焦がすだけだから

突風にあおられて
髪の毛が乱される
懐かしい香りが
鼻の奥を突いて
背中をなでてくる

時は流れているので
頭の中で続けられる描写は追いつかず
自然とあきらめてはまた始める

エンディングテーマが流れ始めた
なかなかいい曲だ
この曲にふさわしいラストシーンに
視界のすべてが巻き込まれてゆき
フェードアウト

2012年11月22日木曜日

入っています

お財布の中に
小銭が少し入っています
お財布が
隠しているものは
なんでしょうか

セーターの中に
おとなが一人入っています
なぜ入って
いるのでしょうか
ほかに取替えは利かないのでしょうか

熊の中に
サーモンが一匹入りました
サーモンは
なにを
考えていたのでしょう

子供の中に
お姫様が一人入っています
大人になったら
出られなく
なるのでしょうか

毛虫の中に
蝶の子どもが
入っていますか
おたまじゃくしに
きいたら
教えてくれるでしょか

ツクバネの実に
落下傘部隊が入っています
競争したら
どちらが
負けるのでしょうか

2012年11月21日水曜日

小さな声で話すのは

小さな声で話すのは
秘密のようにしたいから
恥ずかしそうに話すのは
あなたをくすぐってみたいから

やましいことはありません
やましいこともしたいけど

2012年11月20日火曜日

クレマチス

去年のきょうから一年が経ちました
一年前のきょうも同じ11月20日でした
11月20日はやわらかい日差しで
きょうのこの辺りを明るくしています
分け隔てなく日陰以外を照らしています

地震で壊れた街は新しい建物が建ち未来都市が姿を現そうとしています
ビルの間の青空を雲が流れて行きます

ランチタイムに人びとがレストランに大挙して訪れ
壮年の旅人たちはゆったりすることを楽しんでいます
地ビールを喉を鳴らして
満足そうな表情を満面にたたえています

時間は流れているのでしょうか
今が永遠のようにその辺に佇んでいます

スマホを覗き込めば友達たちが会話をしようと仕掛けてきます
手にした端末で心がつなげられ
実際の居場所より近くに居るようです
何が実際なのか
チラと考えたりします

来年のきょうは人びとは何をしているでしょうか
あの人やこの人やその人は
今と同じことをしているでしょうか
いや
多分していないし
しているのだと流れる雲のように考えます

コーヒーを飲み終えた人が
店を出て
次の居場所に移動して
さっきまで一緒にいた人のことを忘れてゆきます

だがまた思い出すこともあるでしょう
思い出さない人は
忘れていますが
思い出したときには
忘れていたことに気づくでしょう
思い出された人は
どこで何を思っているでしょう

誰も何も何かを答えてくれません
誰も何も答えようとしません

新聞の紙面に記者は他人事を記しています
新聞はこの日に置いていきましょう
明日には明日の新聞が配られるので
溜まりすぎないようにした方がよさそうです

まあそんなところです
私もバスに乗らなくてはなりません

2012年11月19日月曜日

ベタベタ

彼女は
おでんとユッケを食べて
好きな酒を呑む
フォーにパクチーをどっさり入れてツルツルたべる
ライフスタイルは自分のもの
人に迷惑はかからないと思っている

『さようでございます』

欠点を巧く隠して
着飾って世間を渡って行く
晴れの日のためには準備も完璧にして

欠点を隠していることは
爽やかでかっこいい
そのうち隠していたことも忘れて
笑顔を振りまいている

『そのようなことはございません』

(((o(*゚▽゚*)o)))
彼女はたまに絵文字で会話をする
寒くなってきたら
暖かいお茶を何倍も飲む
実際の歳より若くてお洒落

余裕のあるときは
口数すくなくベタベタ
彼氏にものをいう

2012年11月18日日曜日

どのこかな

ちくりちくり
愛の裏返し
ひとでなし
ねちねち
くるくる
ぴったり
ぎゅうぎゅう
とろりんこん
さかなかな
かなかな泣き虫
どのこかな

2012年11月17日土曜日

抱きとめもせず 寄り添いもせず




あなたが 光なら
私は 空にたなびく 雲でありたい

抱きとめもせず
寄り添いもせず
ただ
なんとなく
近い存在でありたい

それがかなわいなら
かなわない理由は気にもとめずに
勇気だけを頼りに
さまよいたい

行き着くところは分かっているから

そこは
あなたが眠る場所

そこに
たどり着いた時にも
私はただ  なんとんく
あなたの近い存在でありたい

2012年11月16日金曜日

11月16日

白黒の兎がドアから出ていく後ろ姿を見ながら
懐かしさと悲しさの差がいまだにわからないと
ぼんやりと遠いお花畑をスローモーションで思った

知ることはすべてできない
そのことはもちろん知っていたが
知らないことがすべてであると
夕日に浮かんだ雲に打ち明けられた時

懐かしさの向こうから悲しみが
滝を崩して
勢いよくこの身を打ちにきた

寝入り鼻に
目醒めていく11月の未明
逆立ちした朝焼が夕焼けに変身し
酔った人の夢が電車の中で迷い
降りる駅を探している

まだ絶望という文字はやってきていない

2012年11月15日木曜日

そう、あなたには詩がある

うたた寝をしてしまって目覚めたあなた
そう、あなたには詩がある

こてんぱんにやっつけられて疲れて眠ってしまったあなた
そう、あなたには詩がある

首が痛くて頭も痛くなってきたあなた
そう、あなたには詩がある

明日食べるものがなくて凍えているあなた
そう、あなたには詩がある

手術を終えてやっと退院したあなた
そう、あなたには詩がある

銀行に騙されて首をくくろうとしているあなた
そう、あなたには詩がある

暴力を受けて体も心も傷ついて逃げ出してきたあなた
そう、あなたには詩がある

友だちに裏切らればかにされて悔しさを噛み締めているあなた
そう、あなたには詩がある

ふる里の家を失ったあなた
そう、あなたには詩がある

家族を目の前で傷めつけられて悲しんでいるあなた
そう、あなたには詩がある

取り立て屋に終われ税務署に催促され電気も止められたあなた
そう、あなたには詩がある

もう何もないと絶望しているあなた
そう、あなたには詩がある

まだ何も経験していないのに何もかも嫌になってしまったあなた
そう、あなたには詩がある

弱みに付け込まれていいようにされっ放しのあなた
そう、あなたには詩がある

大事に育てたものが奪われて絶望しているあなた
そう、あなたには詩がある

木馬から転げ落ちて以来いいことがないあなた
そう、あなたには詩がある

泣いてばかりいるあなた
そう、あなたには詩がある

死のうとして生きていくことをやめようとしているあなた 
そう、あなたには詩がある

何をやっても上手くいかないあなた
そう、あなたには詩がある

憂鬱で体もだるく心のどこかが張り詰めているあなた
そう、あなたには詩がある

真面目にやってきて不真面目な人にしてやられたあなた
そう、あなたには詩がある

ずっと閉じ込められてずっと我慢してずっと愚痴を言っているあなた
そう、あなたには詩がある

寒い公園のそばで幽霊と一緒に夜を過ごして眠れないあなた
そう、あなたには詩がある

毎日が同じ繰り返しで時間が無駄に過ぎていくだけのあなた
そう、あなたには詩がある

誰がなんと言おうが言うまいが
そう、あなたには詩がある

そう、あなたには詩がある

2012年11月14日水曜日

二人だけの舞踏会

わたしはあなたになりすまし
みたいものみなみてしまう
あなたはわたしになりすまし
したいことみなしてしまう
わたしはあなたになりすまし
さらにわたしになりすます
あなたはわたしになりすまし
さらにあなたになりすます
そうしてふたりはたくさんの
かめんをかぶりぶとうかい

2012年11月13日火曜日

アルパカのぬいぐるみ

三階建ての二階は
天地がひっくり返っても三階建ての二階なので
彼女は安心してそこにいることができる

ずっとそこにいることもできるが
安住の地は別のところにあると信じているので
彼女の眼はいつも何かを探しているような感じになる

明け方または夕方に
雨が降っていると
道は泥水を跳ね上げる
それが泥の水であるかは
明確な証拠はないが
だれもその説明を求めないので
それはそうであるということにいておいて
差支えはなさそうだ

頼りないものを頼りにしなければ
世間はわたっていけないので
せめて頼りになるものを拵(こしら)えて縋(すが)りたくなる

水の上に魚が跳ねた
彼女は一緒に跳ね上がってみた
アルパカのぬいぐるみを落としそうになってまで
衝動のままに
跳ねる必要があったのだろうか

2012年11月12日月曜日

破れた靴下

破れた靴下を履いているんだ
大事な靴下なんだ

それは
100円ショップで買ったから
お金がないときにやっと買ったから

破れた靴下は
あしたさよなら

君の体で
僕のクツを磨いて ピカピカにして
ゴミ箱に入って他のゴミと一緒に
ゴミ捨て場に行ってください

破れた靴下は
きょうでお別れ
君のことは忘れない
君はゴミになって燃やされて
僕のことは忘れるだろう

忘れてくれていい
感謝こそすれ
恨みはしないから





2012年11月11日日曜日

長い廊下の先には

長い廊下の先には教室があります
途中には料理屋の客間や
新館と旧館の段差に作られた「7段階段」
女子更衣室
「女中部屋」と和室の客間
映画の舞台にもなった「土曜日の実験室」
上の方にに肖像画が沢山掛かっている
モーツアルトが学んだという音楽室
その入り口には「鮫島教諭」と記されたブレートが貼られています

小雨が降り始めた門から母が入ってきて
入り口脇の「コモンスペース」でミニライブをしていたふたりの詩人に
お金の入った封筒を渡そうとしました
私はそれをやっと静止して母を
教室へ連れて行くことにしたのです
そこは北京大学です

そのころ
印刷会社の夫妻はベンツのワゴン車で
丘の上の温泉の高級旅館に向かっていました
信号のつながりが悪く
ちよっとイライラしながら
しばらくして見えてきたのは
北京大学でした

私は長い廊下を印刷会社の社長と歩きながら
その先に何があるのか想像していました

その教室には
もうすでにこの世にはいない「女学生」たちが
一様に不満気な顔押して
黒板の方を向いていました
「ラオシー」と呼ばれる先生は中国人のはずですが
中国語が上手く話せないのです

まあまあまあまあ と言いながら
にぎやかな漫才師が入って来ました
漫才師はこの場を
放送の尺に合わせて何とかまとめてしまう自信があるようです

夕闇がいつの間にか窓の外で待っていました
ガラス窓を開ければ
妖怪のような口を開けて
彼らは入ってくるでしょう
出口を探すでもなく
ただ生ぬるく成り果てて
登場人物たちを腐敗させてしまうのです

2012年11月10日土曜日

11日111月


11

どこかから賛美歌が風に乗って

大きな池のある公園を通り過ぎ

駅前の鳩のいるベンチの前の小さな広場に

聴こえてきたような気がしたその日


その穏やかな日の午後2

そのひとは黄色いラインの電車に乗って

心の闇を見せに行く


白く入り組んだ瀟洒な建物の

まあるい噴水の音が聞こえそうな

植え込みの向こうの窓に

ちらりとそのひとの姿を見ることができる


午後3

何人かと面談をして

会釈を繰り返しているうちに

心の目はおでこからはみ出して

でんでん虫のツノのように頭上に突き出していた


買ったばかりの白いスマートフォンで

電話をしなくては

私がここにいることを確かめなくては


そうして

白い糸にがんじがらめに巻かれた自分の様子を

デジタルカメラで撮影して

タイムラインに上げなくては


日暮れのオレンジ色の太陽が

ビルの向こうに落ちる前に

闇を消毒して

目を閉じてもなにも踏んでしまわないように

下の方を片付けよう


手を揉んで

リズムを掴む

心臓の鼓動と呼吸と瞬きと

言葉の早さを合わせるのだ

2012年11月9日金曜日

社長、あなたへの復讐

社長、私の気持ちがわかりませんか
あなたは
確かに私に優しいし
世界中のいろんな所に連れて行ってくれて
綺麗な景色や雄大な絶景や誰もいない海や
サバンナの草原も見せてくれました
きっと私一人では行くことが出来なかった場所

そしてあなたは私を愛してくれたし
いまも愛していると思う
だけど
ちょっと強い言葉になるけれど
あなたは勘違いしていると思う
バカにしているとおもう
人の気持ちや真面目なお勤めや一般人の考えることを

あなたは長財布にいっぱいお金やカードを入れている上
マイルやスタンプカードも細かく集めていて
無駄遣いもしないし節約もするけれど
小市民の楽しみを理解して古着も着るしB級グルメも食べるけど
女の子の好みもつぶさに調べて
私をびっくりさせるけど
私は不満がどんどん溜まっていっていることが
理解できないのですね

社長
あなたの会社はとてもうまくいっていて
業界からの期待も大きいけれど
あなたは仕事も一生懸命やるし
私のためにもたくさん時間を割いてくれるけど
私は不満なのです
あなたがなんでも上手くやってしまうところに
するするとすり抜けてしまうところに

あなたは友だちも大事にして
昔のサークルの友だちとはいまも釣りをしたり
飲みに行ったりしていますよね
そして決まってその帰り道に
私にメールをくれて
おみやげを持ってきてくれます

そんなことしなくていいのに
嬉しいけれど
無理しているように見える
上手く伝わるかどうかわかりませんが
もっと正直に
凄くやりたいことだけやってほしいのです
細かいことはいいから

社長 あなたは
私が不満を持っていることに耐えられないでしょう
私はよく分かっています
それも贅沢な不満です
でも
それだけに私にも始末が悪いと察してください

あなたは
じゃあ どうすればいいのだ と すぐ言って
それを解決しようとするでしょう
でも 解決しないで欲しいのです
私に不満を持ったまま
いさせてはもらえないでしょうか
きっとあなたにとっては我慢ならないでしょうね

そう言うと あなたは
我慢してもいいし 我慢するより
我慢しなくていいようにする と
言うでしょう

いいえ
私は 不満を持っていたいのです
その不満を持ったまま
あなたと付き合いたいのです
あなたが その 私の不満に
耐えて欲しいのです
耐えてでも 私を愛してくれるなら
私は いまより
もっと幸せに
不安な気持ちが薄れて
あなたと 初めて深い話が
不器用でもこころの通った話が
できると思うのです

だめですか
無理でしょうか
無理しないでください
いいえ
無理してください

理不尽な私の願いを
私と一緒に
抱いてください

私は 社長 あなたに
復讐をしたいのです
勘違いして
私を釘付けにして 身動きが取れない女にした
あなたに復讐を

2012年11月8日木曜日

暗黙と沈黙の上に

誰からも許可をもらわないまま
生きている「私」

勝手に生きていて
いいものだろうか

なんとなく勢いで生きているが

時に想念の強い波動に溺れそうになったりするが

暗黙と沈黙の上に布団を敷いて
今日も眠りにつくだろう

2012年11月7日水曜日

ある 日の 午後

あひるが 手のひらのパンを食べるよ

あひるは
くちばしは黄色くて
軟かい木のおもちゃのよう

手のひらに握っていたスマホは
私を呼んでくれないから
机の上に放置してきた

それと一緒に
きのうまでのわだかまりも

あひるの くちばしが震えて
パンを喉の奥へと送っている

あひるは 食べる時
手を使わない
あひるは 直接 地面に置いてある

脚の上に置いてある
アヒル形の あひるが
直接 パンを食べている
ある 日の 午後

2012年11月6日火曜日

この国の人


丈夫できれいなお家を造りました

外国から舟で運んできたデザインのいい上等な家具と

カーテンとベッドと布団も食器も買いました

いい音のするスピーカーとアンプも揃えました

カラーコーディネートやガーデニングを学び

見えない部分まできれいにしました

この国のいいものに

よその国のいいものを組み合わせて

上手に調和させていきました

 

ある人は

そこまでお金をかけることができないから

機能的で快適な家を造りました

そしてその場所を一生懸命掃除しました

自分の家のない人も

大概 部屋を借りて

生活をよくしようと頑張りました

 

道は整備され鉄道は敷かれ

電気と下水道が整備され

インフラが充実して行きました

ときには無駄なものも造りましたが

必要と思われるものを先回りしてどんどん造っていきました

そして最後に造るものがなくなってしまいました

 

それでも

隙間を見つけては

造り続けていこうとしました

しまいには 造っては壊し

造るために壊し

訳も分からず 更新して

見捨てられたものだけが

古びて行きました

 

造る力は有り余っているのに

造るべきものがなく

とうとうお金も回らなくなってしまいました

しかし権力者は

お金を着服し続けました

我儘に 好き放題に

お金の力でお金を集めました

 

この国を旅しに訪れた

旅人は思いました

 

この国はなんと美しく行き届いていていることか

いいものが

溢れかえっている様子に

驚きながら

この国の人の泣きそうな顔を眺めていました




2012年11月5日月曜日

死にたい

死にたい
というのが彼女の声に出さない口癖

死んでしまった方が楽だろうか

確信が持てないのは
死んだことがないから

死ぬと
体から魂が離れて
楽になるというが

眩しい光やお花畑のいい香り
懐かしい人や風景に出会える
生活のためにいやな仕事をする必要もなくなる

しかし
楽したいから死ぬのかというと
ちょっとちがう
そんなに楽をしたいわけではない

世間の建前では
人の命は大事なものだ
尊厳や夢よりも上位だ
何千何万人の不都合よりも
うず高く積まれた札束よりもだ

生きている価値のない人間でさえ
価値ある人間と同じく
殺すことはできない
死ぬ価値がある人さえ
殺すことはできないのだ

老人になって
世間が賞賛する仕事を初めてしてしまうことがある
それが棚ぼたや偶然でも
そういうことがあると
本人も自信をもち
生きていてよかったと満足する

楽したい
死にたいと
ずっと思っていたとしても
それはご破算となり
生きることの快楽に執着する

さて
白鳥と鶴は別の鳥だっただろうか
鶴のことを白鳥の一つと
勘違いしていた男は
自分と他人の区別もできずに
考えている

彼女はさっきから朝焼けの天空の下で
茫然としている

生きている価値がある人と
死ぬ価値がある人を混同しているのは
誰だい?

2012年11月4日日曜日

明かりの見えない森のなかに

明かりの見えない森のなかに
投げ出され放置された人

昨日までは毎日宴会をして
いい酒を飲んでいた

身ぐるみ剥がれて猿ぐつわをされ
縛り上げられた人

昨日までは笛を吹いて
威張っていた

苦しさの極限にいる人
絶望に覆われた視界
ただ明日を夢みるばかり
昨日に帰ることはできない
明日の日がくれば
明後日になにを思う
腐りかけた豆乳が冷蔵庫で待っている

2012年11月3日土曜日

5角形の白い扉

私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。

逃げ込んだ家は郊外の小高い丘に続く緩やかな坂道の途中の
低い崖の上にあり道路を挟んで向かい側に空き地があった。
その空き地は駐車スペースに利用できたので、いつも何台かの車が停まっていた。
昨日降った雨で駐車スペースはすこしぬかるんでいた。
晩秋らしく枯れた夏草が無秩序に生えていた。

家の扉は「5角形の白い扉」で、目の高さに明かり取りのくもりガラスが埋め込まれていた。

80年代生まれの女、Rと私はフローリングに置かれたベッドの上でむさぼり寝ていた。着の身着のままでここにやってきたので、彼女は昼間のままの服装で、下だけ脱いでいた。何かの気配で目を覚まし、危機が迫っていることを察して目を見合わせた。
今まで眠っていたと思えぬほど凛々しい表情で、互いの動きも素早かった。

私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。
次の瞬間、私たちは身を縮めて豆粒になり、そこに飛び込んだ。
その瞬間、遠くでドアを叩く音がした。

ドアを開ければ放射能が入ってくることは間違いない。それを伏せておいて、刺客はドアを叩いて、やがては、壊して入ってくるのだ。

刺客が入ってきた時、私たちはすで裏をかいてに駐車場に来ていた。素早く車に飛び乗って走り去らなければならない。
彼女はすでに飛び乗って態勢を低くしている。
私は一気にかけ出して乗り込むと、キーを挿してエンジンを入れ、アクセルを踏み込んだ。

追っ手は追って来なかった。

2012年11月2日金曜日

世の中に弾かれて

世の中に弾かれて
自分から出ていった

スピードに乗れなくて
脇道に入っていった

言い訳をしたくなくて
黙って座っていた

争いが嫌いなので
花の種を配った

青空が好きなので
雲と一緒に消えていった

2012年11月1日木曜日

その愛は

その愛は伝わりすぎる
いつまでも胸の中に
とどまっていることができない

その愛は激しすぎる
いますぐに縄を解かないと
引きずられて怪我をする

その愛は強すぎる
すべてを巻き込んで
吹き荒れて撒き散らす

その愛は死ぬことがない
あなたが死んでも
生きて愛し続ける

その愛は眩しすぎる
その愛は伝わりすぎる

生きる 雑念

生きていても
死んでしまっても
人に迷惑がかかるから
ただ慣性の法則に従うのだと
理屈をこねくり回して
毎日をやり過ごしているが
食欲を始めとしていろんな欲求が湧いてくるので
頭や体の働きもそれに任せて生き延びている

嬉しいことも
悲しいことも
楽しいことも
いらいらすることも
辛いことも
どうでもいいことも
毎日やってくる

知人や友人たちは
どうしているのだろう

長年仕事をしてきた人たちは
それなりに形になって
周囲に認められ 尊敬もされ
稼ぎや蓄積もあるだろう

あと1本糸が切れたら
自分は奈落の底へと落ちる
その一本にすがって
不安に揺れている

もし死んだら
生まれ変わるだろうか
それとも知らないうちに
誰かの人生を引き継いで
その命をやっていくのだろうか

神様に知らされることもなく
何の記録も遺らない状態で

意識が舟だとしたら
私は漕ぎ手なのだろうか

明日はやって来るものではなく
静止している風景なのだろうか