さっきからソファに坐って寛いでいるあの人は
ここが自分の部屋だと思い込んでいるらしい
煙草を吸い
ツマミを次々と口に運び
ビールを美味しそうに飲む
その態度は
あまりに堂にいっているので
私のほうが他人の家に来ているような錯覚に襲われる
出前でも注文しそうな勢いだ
大きなあくびをした
あの人には
私が居ることが分かっていないのだろうか
わたしは透明人間ではないのに
あの人はあの人の日常をそのまま抱えて
この部屋に来ている
わたしは
わたしの日常をかき集めて
勝負しなければ と思えてくる
そうしないと
私の存在のほうが希薄化してしまう
しかしなぜこんなことになってしまっているのだろう
いくら考えても思い当たるフシがない
いつの間に来たのだろう
なぜ 私は気づかなかったのだろう
第一 私はいま何処にいるのだろう
ソファの後ろのパソコンのところか
いいや
パソコンは付いているが
私が居る気配がない
そのとき
耳鳴りのようにサイレンが鳴った
まただ
と思った瞬間
汗のようなものがタラタラと
床に流れ落ちた
俺が俺がって言ってたら、俺が沢山になっちゃって、俺がいなくなっちゃう小説をおもいだしました。
返信削除この詩の中の「私」がんばって下さい!
匿名さんへ
返信削除コメントありがとうございます。
大きな災害を目の当たりにすると、日々のリアリティのほうが嘘っぽく感じられてきます。そんな感じを、生きている自分と、死者とを対比して書きたいという意図でこの詩を作ってみました。「がんばってください」というメッセージ、確かに生きている「わたし」たちに届きましたよ。