2011年3月26日土曜日

ソファに坐って寛いでいる人

さっきからソファに坐って寛いでいるあの人は
ここが自分の部屋だと思い込んでいるらしい

煙草を吸い
ツマミを次々と口に運び
ビールを美味しそうに飲む
その態度は
あまりに堂にいっているので
私のほうが他人の家に来ているような錯覚に襲われる
出前でも注文しそうな勢いだ

大きなあくびをした

あの人には
私が居ることが分かっていないのだろうか

わたしは透明人間ではないのに
あの人はあの人の日常をそのまま抱えて
この部屋に来ている

わたしは
わたしの日常をかき集めて
勝負しなければ と思えてくる
そうしないと
私の存在のほうが希薄化してしまう

しかしなぜこんなことになってしまっているのだろう
いくら考えても思い当たるフシがない
いつの間に来たのだろう
なぜ 私は気づかなかったのだろう
第一 私はいま何処にいるのだろう
ソファの後ろのパソコンのところか

いいや
パソコンは付いているが
私が居る気配がない

そのとき
耳鳴りのようにサイレンが鳴った
まただ
と思った瞬間 
汗のようなものがタラタラと
床に流れ落ちた

2 件のコメント:

  1. 俺が俺がって言ってたら、俺が沢山になっちゃって、俺がいなくなっちゃう小説をおもいだしました。
    この詩の中の「私」がんばって下さい!

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  2. 匿名さんへ
    コメントありがとうございます。
    大きな災害を目の当たりにすると、日々のリアリティのほうが嘘っぽく感じられてきます。そんな感じを、生きている自分と、死者とを対比して書きたいという意図でこの詩を作ってみました。「がんばってください」というメッセージ、確かに生きている「わたし」たちに届きましたよ。

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