下の方で火がチロチロと燃えて
煤(すす)の匂いが立ち込めている
あの大火がまだ続いているのだ ✴︎
消し止められたものだと思っていた
もう忘れ去られたのだと高を括っていた
だがあの人の哀しい願いごとのように
その火は
いつまでも消え去ることはなかった
あの人は白黒写真のなかで笑っている
時代が繊細な色模様に彩られ
ノイズさえ音楽になったとき
あの人の叫び声は
人々が気づかぬ時に蒼空の彼方から
空に吊るされた高い高いブランコのように
やってきてはまた彼方目指して消えていった
それでも
時代の漆喰の壁に打ち付けられた〈?〉の形のねじ釘は
夕日にただあやしく光って
コトバでないものを語りかけてくる
その問いに私は頷いて
やはり
答えのコトバをもつことはなかった
——吉野弘さんを追悼して
✴︎酒田大火(さかた たいか)。1976年(昭和51年)10月29日に、吉野弘さんの郷里である山形県酒田市で発生した。
コトバでないものってなんだろう
返信削除生き方や愛仕方?
顔を付き合わせていては見えない
高い高い空に吊るしたブランコからなら
影に隠れてる本質が見えるのかもしれないですね
ご冥福を御祈り致します