2012年12月4日火曜日

円形の駐車場

中腹に円形の駐車場があり
自殺者がよく訪れる
やや下にある砂利が敷き詰められている
広大な四角い駐車場は
開業以来満車になったことがない

人々が駐車場を訪れる理由は
四角い駐車場の国道側にできた施設を
訪れるためだが
フェスティバルが行われる日などは
誘導員が数百名も出て
駐車スペースに車を導いている

円形の駐車場への道は
行き違えないほど狭く
看板も立っていない
到着すると外周の道を回りながら
駐車スペースを探すことになるが
その道沿いにあるスペースは限られていて
13台停まるのがやっとだ
この駐車場には13台しか停まれない

ある夜
彼がやってきたときには既に6台が停まっていた
彼は外周を回りながら停車位置を選ぼうとしていた

駐車位置は円形に配置されているので
その内側には駐車できず
ただの芝生の広場になっている
6時の方向から入り右回りにぬ12を過ぎ
5時の位置に来たとき
1時の方向の車の中に母と子がいるのが視えた
母は子供と無理心中しようとしていたが
子供はビー玉が一つ床に落ちて見つからなくなったと
シートの下をしきりに覗き込んでいた

6時の方向の車には
やはり別の母と子が乗っていたが
この母は
子供を刺し殺すタイミングを計っていた
刺し殺した後
車ごと置き去りにして
逃げ帰ろうと考えていた

彼は円周をもう一周して
4時の位置に車を停めた

死へ向かう密度がこれほど高い場所に来たのは
初めてだった

下の駐車場は
きのうの雨でぬかるんでいる
ここは
木の上の月の景色が見渡せる場所
誰も円の中心へと入っていくことはない
一握りの人同士ががにらみあい
その行状を見届けられる唯一の場所

1 件のコメント:

  1. 中村ゆき子2012年12月5日 9:54

    木の上の月の魔法を期待して、ここに来てしまうのだろうか?
    その光が絶望の光に見えるか、新たな希望の光に見えるのか。
    さあ?ところで13台目は何時の方向に停めるのか?

    返信削除