2012年12月28日金曜日

フェダーの部分だけをはずして

マイクロホンミキサーのフェダーの部分だけをはずして仕舞おうとしていたので
私は文句を言った
そこまで分解すると次回使うときにあちこちを探し回って組み立てなければならない
石庭を通って機材を運び入れている連中は
若い割には皆達者な仕事師ではあるが
たまに意味不明の行動をとる

和風の平屋建築の奥に機材室があり
出張の仕事を終えるとそこに格納することになる

私はその会社の社長をしているが仕舞うことにかけては
右に出るものがいないと自負するほど
手際よく美しく仕舞う

番頭に当たる男はスタッフの中では唯一私より年上の技術者だ
不器用で粗相が絶えないのであまり信望がないが
創業時からの大事な人間なので
悪い見本としながらも重用している

彼には6才の息子がいる

私は高校時代
足を怪我して運動会に出られなかった苦い思い出がある
またほとんど出席しなかった幾つかの授業の教科書を紛失し
単位取得に必要な時間数も計算できないでいた
中には必修科目もあり
卒業も危ぶまれた

石庭は先祖から受け継いだものだが
先祖の影はない
私は小さいころから当主として
この庭と家を守ってきた
父は南米にばかり行き通しで
母は大人しい心配性の女性だったので
ほぼ母屋のリビングとキッチンと寝室で暮らし
仕事にはタッチしなかった

その日
私は期限が来て会社を辞めることになっていた
だが
いつもの同じように
撤収してきた機材が長閑な庭を通って
機材室に運ばれていた
やがて機材室に大きな錠前が掛けられた

縁側に穏やかな日差しが当たっている
猫が鈴を鳴らした
青空の向こうに熱線を放つ爆弾が落ちたのはその時だった

1 件のコメント:

  1. 中村ゆき子2012年12月29日 0:08

    予期せぬ爆弾で気付かされた現実。
    機材は撤収され、機材室に格納し施錠されたけど、あなたは何故機材を自分でしまわなかったのか。せっかく自身でやって来たのに、あと少しのところでフェダーとは別の何かがはずれてしまったのか。
    人生のデッドラインなんて、きっと猫がシャリンと鈴を鳴らすようなもの。

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