薄暗い夕方に
窓の向こうの花壇の向こうの
松の木の向こうの芝生の向こうに
水仙の葉っぱがざわめきながら揺れていた
その仲間に入ることができないと
悔しがっていたのは ぼく
母と妹の気配を隣室に感じながら
いつも何かを見つめていた中2の春のこと
今あの場所はもうない
あの窓は壊され庭は整地され誰かの家が立てられた
玄関の扉はぼくたちにお別れを言っただろうか
聴こえないほど小さな声で
路上に駐車した預かりの車の中から
切り取られたどんよりした雲を見ていると
ミルクセーキを思い出す
牛乳と卵はいまも変わりなくスパーで売られているが
雲は変わってないだろうか
四カ月を遠い異国で過ごし
住み慣れたここに戻ってくると
ここは
なにも変わっていなかった
私は 何かに
だまされているのだろうか
私は私に質問することができない
何かのバリアに弾かれるのは
忘れてしまった約束の
仕返しなのだろう
0 件のコメント:
コメントを投稿