2013年6月4日火曜日

冷たい何かを舐めながら


オフィスには半分ほどの従業員が残っていた
きょうはベースの照明を点けない日なので
夕日のオレンジ色の強い光線が開け放たれたブラインドの向こうから
遠慮なく差し込み
フロアは雑然とした影絵の世界となっている

白い薄手のブラウスを着た女子社員Kの胸は
ブラジャーのレース模様のふくらみまで
透かして夕日と反対側に影まで作っている
そわそわした男子社員は横目でそれを盗み見て
ごくりと喉の音を立てた

セクションの長の女性は
高学歴の才媛だがまっとうな恋人が作れず
妻子持ちの取締役部長の影の女を務めている
それは公然の秘密というのだと誰かから聞いたが
彼女自身はもう誰かに知られても仕方ないと思っている

新卒で入社し4年目を迎えたR嬢は
この4年間で5人の男子社員と関係を持ったが
喫煙室でそのうちの何人かと偶然一緒になると
その度に
何人もの男に求められてセックスする妄想を巡らせ
秘かにエクスタシーを覚えている

夕日はやがてくれてゆき
それぞれの机の上にデスクライトのLEDの冷たい光と
モニターの画面が輝き始める

私にはそれが不吉なものに見えてしまう
例えば死者たちをあやつり
この世を滅ぼす指令を映し出す光に
あるいは
世の人の心をかき乱し野獣へと変身させる光に

私は冷たい滑らかな何かを舐めながら
舌先でそう思う

1 件のコメント:

  1. 中村ゆき子2013年6月5日 9:07

    何気ない日常の中、ふと気づくときがある、私は自分の意思で動いていないと。
    直射する光、滲む月のあかり、何かを変えてしまいそうな夕日、それらにぐるぐる巻きにされる瞬間、
    私は自分の殻を剥ぎ取りその光の中に溶け込んでしまいたい衝動にかられる
    ひんやりとざらざらしたものに舐められながら。

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