あの場所に何もかも置いてきたまま
あの場所のことを忘れていた
あの場所に少しずつ埃が降り積もり
少しずつゴムの張力はなくなり
生々しい思い出も少しずつ風化した
あの場所を知る人はいなくなり
あの場所からつながっていた糸も切れた
あの場所を守る人は年老いて
何かをする意欲はなくなった
あの場所は黙って
世間から遠ざかってゆくのを受け入れ
小声で悲鳴を上げるだけだった
ある日
きのうからきょうになろうとする頃
私の内側にあの場所が現れ
狭い階段の先に古い畳の続きの部屋が見えた
長い間私はその場所のことを忘れていた
だがそこは私の部屋だった
愛する人とのつらい思い出も置いてあった
私にどうしろというのだろう
その場所の地図もなければ行き方も分からない
あの場所は幻ではないのだろうか
そう思えば思うほど
あの場所は扉を開けて
私の心の穴にその口をポッカリと重ねて
すべてを飲み込もうとした
そして
飲み込んだあとにあの場所は消え
もう誰も
思い出すことさえできないのだ
思い出したくないのか
返信削除忘れたくないのか
あの場所はもう思い出せなくなっても
心に刻まれてるだろうね。
いつかは「あの場所」が
懐かしいと思える日が来ればいいな。