古い友だちが訪ねてきそうな日
二度と帰らない旅支度をしている
古いカバンに 持っていきたいものを出したり入れたりして
どんよりと曇った空の隙間から
濃い青色の空が覗いている
あの辺りから
虹がかかるだろうか
今日は特別な日らしい
何処かに置き忘れ
置き忘れたことさえ忘れていた日記帳が
突如あっけらかんと出現して
続きを書けと促してくる
続きなんて書ける筈ないのに
あしたになれば
この世界に私の痕跡はないだろう
その逆に
私の胸には深い傷が刻まれているだろう
小さい頃に見た柘榴の裂け目の鮮やかさに似た
そしてその傷の痛みのために
私のカラダは軽くなっていくだろう
友だちはそのことを察してやってくるのだろうか
古い友だち
どこからやってくるのだろう
今頃
近くの駅に着いただろうか
木の机の上で腕組みして
きょうは色々なことを考えている
不思議といつものような堂々巡りはせずに
一方通行で進んでいく思考
私には
色々なことが分からない
花火を見ている気分になってしまう
色々なことは何を意味しているのだろう
問いがいっぱいの頭の中に
もういいよ という声が通り過ぎる
そのせいで
私は深く考えるのをやめる
静かな町に
太陽が巡っていく
風は遠近法の中で通り過ぎ
思いは井戸水のように
汲み上げれば美しく輝き
私が外へと踏み出し歩き始めるとき
私は静止し
私以外のものが
動き始める
私が存在しなかったときと同じように