2013年4月20日土曜日

蕎麦をすする音

ぬるい場所に冷たい雨が降って
キノコが夜に育ちます
人はもう発狂寸前ですが
むしろそれは正常だと言わねばならぬでしょう

雨はいろんなことを「なかったこと」にして
雨天のため中止という看板が雨に濡れています

かわいいあの子という人が
箱詰めにされサイズを測られ宅急便の荷物になって
濡れた道を運ばれてゆきます
河合その子とは関係ないでしょう
かわいいあの子は私が継続的に好きな人です

夜の帳というのがあると噂された町には
少し前の時代のナウい人びとが往き来して
ちょっとした喧噪です
闇市で売っていそうなラジオも鳴っています

妄想の畑でキノコ雲が夜に育ちます
私は深呼吸して湧き水を飲み干し
鳥の形をしていない鶏肉を炒めます
昆布の揺れる海鳴りに耳を澄まします

老詩人は昨日から日本海の島へわたり
自ら作った詩を朗読し
気分よく酩酊して布団に入り目を瞑りました

ある線路脇のビルの一室では
コンビニの蕎麦が食べられようとしています
その間
世界は
蕎麦をすする音に置き換えられてしまうことも
知らないで

3 件のコメント:

  1. とても心に残る詩です。
    今、キノコを育てているからでしょうか。
    河合その子の件も、鳥の形をしていない鶏肉も、老詩人の現状も、
    きっと本当のことですね。
    詩が、現在進行形で育っていくようで、興味深いです。


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  2. 中村ゆき子2013年4月21日 3:36

    夜に育つきのこ、夜の帳のラジオ、

    鉛のような海の音、

    今までみつからないものがそこにあって

    暗い夜の世界で息づくものがそこにあるよう。

    電車の音、蕎麦をすする音、その音が止んだとき

    ビルの片隅に今まで聞こえなかった声が

    耳打ちするような気がします。

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  3. 私より詩情豊かなコメント! Pollyさん、中村ゆき子さん、ありがとうございます

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