飛び降りる
空から
空であった場所から
四角く光る場所を目がけて
飛び降りる
今いる場所から
空であった場所から
四角く光る場所を目がけて
飛び降りる
飛び降りると書き付けた「今」から
今いた場所から
空であった場所から
四角く光る場所を目がけて
一人で 飛び降りる
一人ではないと錯覚した「時」から
飛び降りると書き付けた「今」から
今いた場所から
空であった場所から
飛び降りる
一人で
まだない空白へ
空白という空へ
誰もまだいない
いったことのないなつかしい場所へ
一人ではないと錯覚した「時」から
飛び降りると書き付けた「今」から
今いた場所から
空であった場所から
四角く光る場所を目がけて
いつか空になるその場所へ
ここは誰の庭?
迷い込んでごめんなさい
でもいま
私はひとり
この庭を楽しんでいる
庭は私のために揺れて
歌って
包んでくれる
芝生に足を投げ出して
花の香りを深呼吸する
やがて日が暮れて
月の光が庭を照らし
泉が囁き続けている
遠くから声が聞こえてくるが
本当なのかわからない
ここは誰の庭?
迷い込んだまま
私はずっとここにいる
不思議なことに
人影はいつまでたっても見かけることがない
自分の影さえまぶたの淵まで探してみても
見つけることができない
無数ってありますか
無数ってどのくらい?
無数の…っていうとき
そこに無数はありますか
たくさんの より多いのでしょうね
いっぱいの よりもっといっぱいなのでしょうね
無数の
たくさんの
いっぱいの
全部合わせても足りないほどの…
…そのあとに入る単語は
無?
無限や永遠が
眺めている 無?
無と一はどちらが多いですか
一ってどのくらい?
全部と同じくらいですか
全部より少ないですか
橋から橋をわたり
島から島をわたる
人は道をゆき
鳥は空をゆき
魚は海をゆく
人は服をまとい
月はつきまとい
星は欲しがっている
欲は干上がっている
陽はまたのぼり
またはまた閉じられる
ランプの灯はすぐに消え
シマシマの服を囚人がまとい
月々のものをパパが運ぶ
山また山を越え
谷また谷を下り
島から島を巡る
人であれば
あられもない
ヒトガタ
である人
自分では悪口いうくせに
ひとに言われるとすぐおこる
なにもないふるさとのまちに
きんいろの秋の日差しが降り注いでいます
いつかはなかえようとした約束も
私をかばってくれた優しい友だちも
もうどこかにいってしまいました
金木犀の香りが今年も
時のしおりを挟み入れてきます
私はどうやって生きて行けばいいのでしょうか
考える必要がなくなりました
西の屋根に日が沈んで
残り火がどこかでちろちろと燃えています
心だけもたれて
立っている
自分にもたれて
立っている
木のようだ
風に葉っぱがゆれる
繊毛が光を指揮している
片膝を曲げて
唇をきゅっと締めて
息を凝らしている
自分では気づかずに
いつからかも気づかずに
心だけもたれて
立っている
自分にもたれて
立っている
遠くに海鳴りの聴こえる部屋
夕日が楽しげにやってくる部屋
家族が消えてしまった部屋
いるのは私だけ
でも私はいないも同じ
息を潜めて
笑いあったあの時の写真を
くり返し引きちぎる
いるのは私だけ
でも
いつでもいなくなるのも私
でも
いるのは私だけ
あるのは愛だけ
聞き飽きた陳腐なアイで包まれているアイだけ
包んでいるのもアイだけ
遠くに海鳴りが消えていく部屋
夕日が楽しげに帰っていく部屋
家族が消えさらない部屋 部屋
ジャムを塗ったところが
坂道に変わってゆく
そのとき
パンは海に
パンの耳は屋根の内側になる
白かった小麦粉は
海の青色に変わり
もう海になっている
ジャムを塗ったパンは
もう消え去ろうとしている
記憶の片隅に片足を残しているだけだ
エアコンから吹いてくる風は
むせぶほどの潮の香り
ラジオから聴こえてくる音楽は
海鳥の鳴き声となる
私は消え
私のいた空間は
景色で満たされて
不幸どころか
幸せさえ感じない
3人の女性が
橋の上に立っている
こんもりとした常緑樹の緑が向こうから見守っている
そこに水が流れているのか
私の立つ場所からは見ることができない
3人の女性は
橋の上から橋の向こうを見ている
見ながら何かをひそひそと話している
楽しい話ではないだろう
誰かがどうにかなってしまった話だろうか
川の流れを見ながら
この世に生きる辛さを嘆いているのだろうか
3人の女性は
若い娘と友人とその母だろうか
それとも娘と母と老婆だろうか
後ろ姿しか見えないので判別することができない
いつからそこに立っているのだろう
背の低い古びた街並はどんよりと暮れはじめ
橋の上を行き交う人も
やがて夕闇に呑まれるだろう
3人の女性は
その橋の上でかつて見知らぬ男が発狂して
おおきな荷物を川に投げ入れたことを
憶えているだろう
それはこんな季節のこんな時間帯だった
3人の女性は
疑いをもちはじめている
ひょっとしたら存在するのは自分だけで
あとの2人は誰かの幻想なのではないかと
私たちは外からはただ1人にしか
見えないのではないのかと
そして
やがて見ている私のことに気づく
私はこの場を立ち去らなければならない
私は立ち入ってはいけないのだ
3人のいる世界に入ってはいけないのだ
だが3人の女性は
私に近づいてくる
その躯だけを置き去りにして
あの橋の上の欄干から手を離して
私の中に
入ってきた
Girls on the bridge,1901 Edvard Munch