2010年10月28日木曜日

消し忘れた灯(ひ)

街にLEDの明かりが灯る
無数の星
お店の中で揺れるキャンドルの炎
瞳に映る灯
白い歯の表面で輝く光

眼を閉じてみると
そこにもある
金星のチラチラと揺れる紅い光
青白い月光
ピアノの鍵盤に反射する朝日
椅子の背中に乗っている光の粒子

そのなかで
僕が灯した光が
今も
輝いて見える

君にこっそりともした光
君の指で輝く
イミテーションの宝石

2010年10月27日水曜日

月の香

目が覚めていくとき
固まってしまうだろう

季節の風が運んでくる感覚
何回めぐってきたのだろう

今はもういないあのひとの香り
浸みこんでとどまるように祈ったけれど

月のない夜に観た
思い出の中の月はほのかに赤かった

不吉と絶頂の予感が繰り返し
やかんの水が煮えたぎる音だけがして

通奏低音が鼓膜の奥でなっている
自分はどんな譜面の上を進むのか
誰の意思で
いつまで

2010年10月26日火曜日

香里奈

好きなドライフルーツはイチジク
噛むと奥歯で小さな粒が潰れて音がする
その音がたまらない
他にないその音
その歯ざわりも

田舎のスマートな女
革のジャケットがよく似合う
細くまっすぐな脚
前髪から覗くロマンティックな瞳
形のいいくちびる

そんな香里奈にも
太刀打ちできないライバルがいる

小峰だ

2010年10月25日月曜日

気づくともういない

気づくと
イヤホンをして
きみが坂をのぼってくる
リズムよく大胆な歩幅で
僕を見つけたからだろう

僕もきみに向かって歩き出す
早くきみの体に触れたいから
きみはイヤホンを外して笑顔を投げてくる

春の日差しを感じた
バスが騒音をまき散らして登ってきたけれど
僕たちの前を通りすぎると
もう僕たちはいなくなっているのさ

紅茶にスプーンが入れられて
くるくるかき回す
真昼の喫茶店にたばこの煙が漂い
誰かが入ってくる音がする
すると
もうそこに
僕たちはいないのさ

2010年10月24日日曜日

自分への伝言

泣く泣く僕も空を見る
というフレーズが
空に消えて行く

消えて
なくなってしまえ

いらないものから逆に見捨てられ
しがみつく

何々のように
と比喩を言って受け流すのは
止めにしたら

まとまる筈ないよ
デスクトップは狭いんだから
それに何世代も前の年代物

大事にしたってたかが知れている
広い空にならすてられる

やり直した人生の失敗作だって
これからの未来だって

いきてていいよ

いつか旅先で見つけた花
いきてていいよ
いきてていい
いきてていいよを
いきてていいよを
いきていよいよ
いきていよいよ
いきていきて
いきてえいきてえ

生きてていいよ
生きてていい
生きていい世を
生きていい夜を
生きていよいよ
生きて居よ居よ
生きて生きて
生きてえィきてえ

2010年10月23日土曜日

とてもいいわ

(とてもいいわ

そう言われて
舞い上がった

(とても素敵

あっ、また、ほめられた
ナマでこう言われるのはいい

短いヒトコトなのに
地球だって持ち上がりそうだ

(なんでもできるね

そんなことないけど
そんな気さえしてくる

(ひとりでなんでもできるよ
(あなたひとりで

2010年10月22日金曜日

花びら

小峰が大事にしている花
ベランダで咲いている綺麗な花
いつだったかてんとう虫が茎を登っていった
きっとその細い足に
水の流れを感じていたのだろう

小峰は別の流れを感じていた
花びらを染める鮮やかな色の流れだ
茎を伝わるうちに
見る見る変化していくその色は
花托に到達すると同時に
その花びらの色となる

そんなことは理科の時間には
習わなかったけど
小峰はそう信じていた

何かを思い
合わせて握られた手のひらの中で
息づいていた
小峰の思い

しっとりと熱い
愛のような 
愛でない なにかのような

2010年10月21日木曜日

不足

きょうは指たちがやる気ない
キーボードを叩いても
愚痴ばかりしか出てこない
ビタミンが不足しているのか

月の光に訊いてみたら
反対に叱られた

何をいってるの!
ビタミンじゃないわ
愛情が欠乏しているのよ
愛錠で補いなさい

ところで
それがどこで売っているのか
月の光も
どこ吹く風で
教えてくれない

誰に電話したら
教えてくれるのかな

2010年10月20日水曜日

帰宅

帰り道の不真面目な月
きょうはその位置で合っているのか

腕を振って歩くことが
力をくれる
車の音が遠ざかる
家は暖かく
何気なく迎えてくれるだろう
テレビが笑わせてくれたり

すぐ脇を
追い越す自転車
倒れろ と念力かける

きょうは つかれた
はりきりすぎた

一歩ごとに近づくドア

一歩ごとに遠のく
やさしい友