2013年9月15日日曜日

ぼろぼろのズボン


ぼろぼろになったズボンを
捨てることができない
自分を捨ててしまうようで

自分はこんなに
ぼろぼろではないけれど
ズボンを捨ててしまったら
こんどは
自分がぼろぼろになる

いままで生きてきて
ぼくはズボンを捨てたことはなかった
ズボンは
いつのまにか
新しいズボンをはいて
ぼくの前に立っていた

ぼくは
いつも
ぼろぼろになるまえのズボンをはいて
外に出かけていった

また
ズボンはいつも
ぼくの帰りを待っていた
自分の場所に折り目正しく腰を下ろして

そして
いつの日からか
ズボンはぼくを
ぼくはズボンを
ふだん
気に留めなくなった

そんなとき
ズボンはスカートに恋をして
ぼくも
そのスカートの女の子に恋をした

僕たちはよく
駅や街灯のベンチに腰掛けて
話をした
家に帰ると
ぼくはすぐに
ズボンを脱いだ

ズボンが邪魔だったから
一人暮らしを始めたぼくは
スカートの女の子がスカートをふわりと脱いで
やさしく畳んでおくのがすきだった

そんな時も
ぼくはズボンを勢いよく脱ぎ捨てた

そして
ある日
ズボンは
ぼろぼろになっていた

ぼくは
一人の部屋で
ズボンを見た
ズボンは
思い出を刻んでいた
ぼくと一緒に
あのスカートの女の子と
写真に写っていた

日差しを浴びて
きっと徐々に色あせて
ほつれていった

ぼろぼろのズボン
ぼくは
捨てない
捨てることができない
何度目覚めても
新しくなっていないズボンと
ぼくはいつ
さよならすべきなのだろう

1 件のコメント:

  1. 中村ゆき子2013年9月16日 1:43

    ボクはいつものように
    彼の帰りを折り目正しく待っていた。
    夜になっても彼は帰らず明け方帰ってきた。
    そんな日が何回かあり、ボクはなんだか
    寂しくなっていった。
    そのうち彼は今風のお洒落なズボンを履くようになって、ボクは部屋の隅っこに追いやられていった。
    どれくらい時が過ぎたのか、気がつけば、ボクを優しそうな女の人が両手で持っていて一瞬、フッと目が合った。
    そして彼女は写真たてに目をやった後、ボクを薄暗い箱の中にそっと重ね蓋をした。
    しばらくして、がさがさと蓋を開けながら、彼女は
    「あなたのお気に入りでしょう?」
    と言って優しくボクを懐かしい引き出しに入れてくれた。
    色褪せているけど、しならない間にほつれたところも綺麗に縫っていてくれた。
    彼は
    「このズボン、思い出があるんだ。ありがとう。」
    そう言いながらボクを擦ってくれた。
    ・・ボクはその一言だけでとても嬉しかった。

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