誰にも夜は訪れる
どれだけ明かりを灯しても
ありとあらゆる時計を壊しても
夜は訪れる
闇にすべてが包まれる
日照りで傷ついた傷がいやされる
そして
夜は立ち去る
行かないでと鎖で繋ぎ止めようとしても
横たわる涙の川で通せんぼしようとしても
夜は立ち去る
すべては白日の下に晒され
弱い者は干涸びてゆく
誰にも朝は訪れる
同じように
誰にも夜は訪れる
愛するあの人にも
憎いあの人にも
そして
私とあなたのあいだにも
父と母が建てた小さな家には
部屋が2つあった
一つは居間で
一つは2階の寝室
妹が生まれてやがて
部屋の数は増えた
1階のベランダだったところに
私の部屋ができた
しゃぼんだまを上げたベランダのところで
私は眠った
それからまた月日は過ぎて
父の書斎と私の新しい部屋ができた
私の部屋は2階の西側に作られた
妹には私がもと居た部屋をあてがわれた
それからまたしばらくして
部屋の数は増えた
母の部屋と物置部屋だ
2階の寝室だったところが妹がの部屋となった
私は新築の東側の部屋に移った
彼は側面を磨いている
真剣な目をして
側面は滑らかになって
だんだん光を
反射するようになる
側面を磨きながら
彼にはその磨き上がりが既に見えている
来る日も来る日も
彼はその場所で
側面を磨いている
決して
他の面を磨くことはない
彼が
側面を磨くことに
疑いを持っているかどうかは
誰も知らない
側面を磨き始めると
片時も目を離すことなく
側面を磨いていく
彼は
側面を磨くことと
切っても切れないことになっている
彼は
明日も
あさっても
私が見ていなくても
側面を磨いている
自分の命を人ごととして
清く正しく 生きるんだ
侘び 寂び 哀しみ 素敵な日本で
苦労も 厭わず 苦痛に耐えて 世間に馴染んで
希望を持って 夢を描いて
へこたれずに くよくよせずに
自信を持って 他人にやさしく 自分に厳しく
勇気を持って 挑戦しつづけ
反省しても 後悔せずに
一生懸命 あきらめないで
欺くことなく 正直に
自分の命を人ごととして
生きるんだ
生きた証に 何かを残し
いい気になって 死ねばいい
隙間があったら
緑の草で埋めてしまいましょう
それが星の考え
緊張が続かないように
呪縛はほどいて
すべては水に流しましょう
水は山から川にして
あるいは一度空に持ち上げて
最後は海まで流しましょう
それが星の考え
人は進化し
進化の先端が尖り錆び
朽ちたら新しい芽ばえがあるでしょう
芽は根を張り空に向かい
子孫はその屍をたき火して
暖をとるでしょう
それは
星が
あずかり知らぬこと
でもそれはすぐに
星の考えとなった
「がれき」という言葉について
どれほどのことを考えただろう
がれきとは何か
なぜがれきなのか
昔のがれきと今日のがれきとの差異とはなにか
がれきと名付けられたがれきの気持ちはどんなものか
がれき 瓦礫 ガレキ GAREKI
がれきが語りかけてくるその声に
耳を傾ける
いつまでもがれきであるそのあるがれきは
がれきのなかでも筋金入り
がれきに身分制度はあるのか
参政権はあるのか
学歴や出身地は関係あるのか
芸術や文学に精通しているのか
家族はあるか
がれきに訊いてみる
がれきの表示を確かめる
安全基準を見直し不法投棄を取り締まり
転校移民難民を受け入れる
がれきのぬくもりに顔をうずめる
がれきにまじり
闇夜に考える
詩は終わりにして
がれきになって
うずもれて睡ろうと
せめて今夜は
蛍光灯の明かりは消して
秘密にしようとすると
つい 口走ってしまう
そのくせ
言おうと思っていたことは
忘れてしまう
憶えておきたい大事なことは
つまらないことに押し出されて見えなくなり
忘れてしまいたいことは
シミになってしぶとく居座る
私はあなたが好き
あなたは誰が好き?
訊いてみたかったけれど
あなたは私に
「あんたなんかきらいだ」
と
会うなり
いきなり宣(のたま)った
きょうも新しい日が始まった
きのうまでの自分は消去した
振り返らずに生きるのだ
のうてんきにやるべきことをやっていく
思い出の宝物は燃料にして
季節は一進一退で
入れ替わっていく
人は
おやすみなさい とさっき言って眠ったのに
もう おはよう と言っている
だが その間に
昔むかしの夢を見た
自分が出てこない夢だ
もうずいぶん沢山眠ってしまったものだと
布団から半身起き上がり
目を凝らして暗闇の時計を見ると
まだ1時間しか経っていなかった
頭が痛いので
やることがあったけれど
もう少し眠ることにした
2、3時間眠っておき上がってみると
10分しか経っていなかった
それから約4時間眠って
眠りながら詩を考えた
時間に関する詩だ
起きてメモを取り
それからまた1時間ほど眠った
起き上がると
そこは自分の部屋のベッドだった
書いたはずのメモは
どこにもなかった