大きらいなひとのことが
いつまでも わすれられない
好きな人の顔が
思い出せないというのに
忘れそうになるたびに
思い出してしまう
忘れそうになるたび
メールがくる
好きな人は
メールをくれないのに
大きらいなひとと出会った日
台風の後の夕空が
燃えているようだった
きっと
私の顔も真っ赤に染められていたに違いない
好きな人と最後にわかれたのは
きのう
私がきょうも思い出すのは
社長が帰ってきた
煙草の匂いも帰ってきた
古い皺だらけの財布をポケットに
おみやげの冷凍ピザを持って
専務は部屋でお出迎え
僕はピザを受け取り電子レンジへ
妹は部屋で漫画描いてる
社長は着替えて晩酌の準備
焼いたタラコを専務が持ってくる
ビールの瓶と一緒にお盆に載せて
自分が偉いんだと
つい勘違いしてしまう
右と左を間違えて
シャツがうまく着られない
うつ病らしく生きるのだ
誰も待ってはいなくとも
朝日の時間に夕日が出て
生活必需のノルマをこなしつつ
きみの大事な誇りはとうに
埃だらけ
曇った空気を胸にいっぱい吸い込んで
自分のなかの何か
余裕はないけどゆっくりと
芽吹くのをまっている
世間は春で浮かれているし
*
桜なんかきらいだ
とっくに飽き飽きした
桜の花から逃げて
北上したり南下したり
だけどそれは現実ではなく
ことばだけのこと
ミルクも賞味期限を知らぬ間に過ぎて
流しのステンレスに広がりたい
何もかもが壊されるため
理由を待っている
捨て去る勇気さえ手に入らず
何が必要か
迷い慣れても また
忘れて繰り返し
みんな自分のことで頭がいっぱい
それが憲法に成れば
反発するかな
世間の風は世間の噂を作って
ぬるい春を作っていく
みんな自分のことで胸もいっぱい
さくらがさいたと
さわいでる
さわいでいると
ひろめてる
さくらのしたで
さがしてる
ほんとのしあわせ
そこにない
さくらがちると
さがしてる
つぎにさくばしょ
さがしてる
さくらのはなは
すぐにちる
ひとのいのちは
いつちるの
さくらはなにも
おもわない
ひとがかってに
おもうだけ
束ねた髪を振り子のように
揺らして歩く
月夜の道を
束ねた髪の振り子を見つめ
一緒に揺れる
リズムをとって
束ねた髪が
かすかに香る
あなたはあまい
果物のよう
宙に浮かんで
実っている
あなたはあまい
果物のよう
滝に向かう道
雨上がりの草が
半ズボンの足に
かゆみを移してくる
何か不満があるのか
ただ遊んでほしいのか
湿った空気でもさわやかだ
早足で歩き始めたら
心臓がリズムを合わせて来た
気持ちはずっと
躯の中にとどまっていて変わらない
滝の音が近づき
好きな「きみ」の鼓動が
香りとともに脈打ち
息が上がっていく
滝壺近くの草は
夜になっても
シャワーを浴びている
私がシャワーを浴びたのは朝
そして
二人で浴びていたのは
この世には
裏切りも むごいこともあると
あなたはいつか教えてくれました
そのおかげで
私は美しいものを愛でることができるように
なりました
でも
そのことは
だれにもいいません
自分自身にさえ
もう語りかけることは
しないのです
そのせいで
咲き誇る夜桜の下
あなたにそっと感謝する気持ちを
小石のように堀に投げ入れることも
できるのです
(友だちの夜桜の組写真によせて)
花見をしてる間に
かわいい子どもが死にました
花見をしてる間に
なにもかもがなくなってしまいました
花見をしてる間に
騒がなければいけなくなりました
花見をしてる間に
恋人は共有されました
花見をしてる間に
ムラ社会が成熟しました
花見をしてる間に
太郎を眠らせることに失敗しました
花見をしてる間に
次郎は亡命しました
花見をしてる間に
多くの人が死にました
花見をしてる間に
死者が息を吹き返すでしょう
たのしそうで
たのしくない
あぶなそうで
あぶなくない
うまくいきそうで
うまくいかない
ただしそうで
ただしくない
あらわれそうで
あらわれない
きらわれそうで
きらわれない
おわりそうで
おわらない
そのはんたいも
そのまたはんたいも
ありそうで
なさそうで
混乱してる
自分が見てる
自転車で行くんだ
夕暮れの街
休憩室でインスタントのうどんを食べてから
埠頭の横を駆け抜けて
商店街の坂道を下り
バスを追い越して
大好きなあのひとは
私のことは忘れてと
明け方の夢の中に
わざわざ言いにきた
忘れはしない
憶えたままどこへでも
行ってやる
山際の公園に来ると
すっかり暗くなった夜空に
無数の星が現れて
巡っていた