2014年3月30日日曜日

森のなかの会社

会社は3階建てで森のなかにある
上空から見ると正方形のタイルのようだ

そこには101人の人が働いているが
その内31人は別の会社に在籍している

建物の外装はコンクリートの打ちっぱなしで
内装もごく簡素であるが
間仕切りはしっかりとしている

1階から3階まで
見通しのよい幅広の階段でつながっていて
1,2階の階段踊り場からは下のフロアの突き当りにある正面の入り口を
ほぼ見渡すことが可能だ

会社にはめったに最終ユーザーたる顧客は来ない
そのためビルには立派な玄関はなく
ビルの正面のガラス扉を開けると
すぐにデスクワークをしている社員たちを見ることができる
当然受付嬢が着席している受付のようなものはない

私がいるフロアは3階だが
3階は大きなコモンスペースが中心に陣取り
それを取り囲むようにワークスペースが配置されている
コモンスペースはフレキシブルにその姿を変え
あるときはイベント会場に
またある時はプレールームに
またあるときは何の変哲もない日常的な会議室となる

建物の柱は皆コンクリートがそのまま露出していて
均等に整然と立っている
すべてのフロアの天井高もまた統一されていて
4メートル50センチメートルである
故に時折いま自分がどのフロアに居るのか
錯覚のため分からなくなることがある

建物の外周は
無人のプロムナードとなっていて
その美しさには誰もが驚愕する
柱の間に見られる風景は
緑を湛えた森と芝生の庭である
道はなく
そこだけが孤島のようであることを誰もが感じる

初夏をまえにしたその日
私は詩人の御徒町凧を招いて3階のコモンスペースで
夜を徹しての詩の朗読会を主催していた
すでに会を終え二人は何人かを伴って
私のワークスペースで思い思いの飲み物を手にしながら
詩についての話をしていた
その時
パイプスペース脇の物置から私を呼ぶ声がして
私は一人そこへ入っていった

中には物干しロープが張られ
私がきのう洗濯した洗濯物が干されていた
柱に取り付けられた配電盤を開けると
そこにはエアコンのスイッチがあり
私はそれを右にひねり
壁から突き出ている通風ダクトから勢い良く吹き出し始めた熱風に
洗濯物を押し当て乾かすことに全神経が集中していった

御徒町凧は階段を降りていった
私は何事もなかったようにもう案内している
「このフロアのこの辺りは提携会社の社員の人たちが仕事をしている」
などど自ら計画し実現したことを説明する
朗読会を終え朝のビルの中から感じられる外の気候は
この上なく爽やかだ
このビルで働く人の男女比は女子が約8割と多い
男は恋愛の誘惑の香りを感じ心がざわめくのが普通だ

社長
と呼ぶ声がした
御徒町凧と私は振り向いた
そこにはなんと
おかちめんこの仮面をかぶった
あの噂の美人秘書が立っていたのだ

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