丘の斜面で夕焼けに照らされた彼女は
今描いているドローイングの話の途切れめで急にを目を瞑り
キスを求めてきた
彼女の顔をよく見るのは初めてだ
もうキスして戸惑いながらも
抱き合っていたけれど
僕が腕に力を込めて背中を引き寄せると
彼女はますます密着してこたえてきた
美大生の彼女は良家の子女で躾がきびしく
反発する気持ちを抱え
複雑な事情があり今はこの町に住み
三時間かけて学校に通っているという
抱きつくと互いの顔が見えなくなり
初対面の僕たちは安心な気持ちもしたけれど
少しすると淋しくなってきて
また顔を見てみることにした
その顔は
やはり初めて見る顔だった
お見合いのように気取ってほほえんでいる
変な状況だ
だがそれを二人ともが容認しているのはなぜだろう
ここは小さい頃に
鬼ごっこや缶蹴りをした小さな広場のすぐ隣だ
眼下に家々が見え
振り返ればこんもりとした森がある
僕たちはゆっくりと時間をすごすことにした
鼻の頭が冷たくなるまで
手を握り合って遊んでいた
帰り道
僕たちは明日のことを約束する必要はなかった
もう結ばれたも同然だから
会いたければいつでも自然に会えるのだ
そんな強い絆を感じていた
坂道は平地よりむしろ歩きやすかった
振り返りながらゆっくり歩く僕たちには
彼女の愛しい顔をみると
幸せそうな表情だ
一番星!
と彼女が指さした
えっ もう?
と指の先の空に目をやった時
後ろでコンと
鳴く声がした
きつね?
またきてコン
さよならコン
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