2013年9月20日金曜日

泣いている私たち

目の高さを合わせて
見つめあったら恥ずかしい
笑っちゃう
高さを合わせただけなのに

それとも
あなたが
普段とちがうこと
思っているの?

そう
私も
あなたと同じ
普段とちがう
特別なことを
思ってる

他人から見れば
他愛ないこと

そう
私たちから見ても
他愛ないほど
あたりまえで
特別なこと
でも一番大事なこと

力が入ってしまって
おかしいね

笑ったけれど
変だな
泣いている
私たち

2013年9月19日木曜日

私に何ができるのか

私に何ができるのか
私には分からないことを
あの人は知っている

だが
私はあの人のことは
何も知らない
あの人が
私のことを
知っていること以外
私は何も知らない

あの人は誰?
あの人に訊いても
教えてくれない

水銀灯が
閃いて消えた
あの人も
影を残して
消えてしまった

2013年9月18日水曜日

デュラスの声


会ったことはないが
デュラスの声なら聴いたことがある

波打ち際に立ち
心を躍らせることも
感傷に浸ることもせず
波や
遠くを往き来するさまざまな舟や 飛び交う鳥を
見るともなく見ている

昼間の月が空に
特別扱いで
太陽の光を反射して
舟のように浮かんでいる

初秋の海
私は
特別扱いしてもらえるだろうか

人には様々な生き方があるが
いつもそのことを忘れてしまう
砂浜から滑やかな膚をもつ小石を拾い
指の腹で撫でてみる

波は
微動だにせず
打ち寄せてくる
靴を濡らして
私の中まで濡らして

2013年9月17日火曜日

ぶら下がり健康器


ぶら下がり健康器
というネーミングはどうかと思う
多機能のものが人気で
彼女はそれを買い
気が向くたびにぶら下がり
また背当て板を斜めに付け替えて
筋力トレーニングやストレッチもした
彼女には夢があったから

滑車には緑色の紐
(明るい色だ)
紐には持ち手が付いていて
交互に引き合うエクササイズもできる

人は邪魔な器具だと言うけれど
彼女はここに引っ越してきたとき
真っ先に購入したのだ

薄暗くなった部屋で
香を焚き
小さい暗い明かりを灯して
彼女はぶら下がった

ぶら下がり健康器
というネーミングはどうかと思う
そこに
彼女がぶら下がるのは
お似合いだ という人がいるなら
それは酷な話だと思う


*私はぶら下がり健康器が好きだ。今使っているタイプはガタガタいうが、衝撃を逃がしていることが分かる。そうして自らは安定しているのだろう。
*何度も「首吊り』の夢を見てきた。このブログを始めた3年前は毎日のように見ていて、見ないと「何かが足りない」と思うほどだった。最近はたまに夢のなかで首を吊る。それはなぜなのか。考えたこともあったが、あまりに回数が多かったので、ただうんざりしている。
*中学生の頃、自殺することを良く考えていた。自殺したかった訳ではないとおもう。生きるに値する人生、というものに自信がなかったのだろう。しかしそれは不遜なことだ。そんな不遜なことを、命を預かる私はなぜ考えたのだろう、と、今なら思うだろうが、でも大して自信はない。

2013年9月16日月曜日

牡蠣を食べに


アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていく

私はふだん都会で仕事をして生活しているから
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくことは
特別なことだ

アイドルは
自分が歌ってヒットしたあの歌を
歌ってくれる
伴奏なしで聴いたのは初めてだ

この歌をアイドルのナマの口から聴くことができるとは
まだ生きていて本当に良かった
アイドルは
みごとなハンドルさばきで
車を道の駅の駐車場へ入れた

エンジンを切って外に出ると
潮風とともに
波の音も聞こえてきたような気がしたが
それは錯覚だった

アイドルは
お手洗いに行き
私はアイドルの歌を口ずさんで
手すりにもたれて展望デッキから海を眺めて
目を細めて
何度となくテレビや映画で見たあの表情を作って
悦に入ろうとしたが
それはできなかった

アイドルは昨日の夜
私の部屋にやって来て
私のパンツの色を褒めて
体を揺らして
よろこびを表現した
そしてすぐに白いワンピを
ソファの上に放り投げた

白い鳥が
私の上を飛んで
風に引き戻されて方向を変えた

気づくと
アイドルは私の手を
後ろから握って
いい香りの髪の毛を私の首筋にあててきた

アイドルは
仕事に戻らなくては行けない
私はそんな無粋なことを思った

牡蠣が待っている
牡蠣が頭から遠ざかっていく
牡蠣を食べたら
殻を残して
部屋に帰るのだ

部屋には
私が収まるべき空間がある
アイドルは
私の手をとって
車へと向かう

私は
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくのだ




*昨日の物語風の一筆書きの詩の評判が良かったので、それに気を良くしてきょうも書きました。
*おもしろいのかどうか、わかりません。

2013年9月15日日曜日

ぼろぼろのズボン


ぼろぼろになったズボンを
捨てることができない
自分を捨ててしまうようで

自分はこんなに
ぼろぼろではないけれど
ズボンを捨ててしまったら
こんどは
自分がぼろぼろになる

いままで生きてきて
ぼくはズボンを捨てたことはなかった
ズボンは
いつのまにか
新しいズボンをはいて
ぼくの前に立っていた

ぼくは
いつも
ぼろぼろになるまえのズボンをはいて
外に出かけていった

また
ズボンはいつも
ぼくの帰りを待っていた
自分の場所に折り目正しく腰を下ろして

そして
いつの日からか
ズボンはぼくを
ぼくはズボンを
ふだん
気に留めなくなった

そんなとき
ズボンはスカートに恋をして
ぼくも
そのスカートの女の子に恋をした

僕たちはよく
駅や街灯のベンチに腰掛けて
話をした
家に帰ると
ぼくはすぐに
ズボンを脱いだ

ズボンが邪魔だったから
一人暮らしを始めたぼくは
スカートの女の子がスカートをふわりと脱いで
やさしく畳んでおくのがすきだった

そんな時も
ぼくはズボンを勢いよく脱ぎ捨てた

そして
ある日
ズボンは
ぼろぼろになっていた

ぼくは
一人の部屋で
ズボンを見た
ズボンは
思い出を刻んでいた
ぼくと一緒に
あのスカートの女の子と
写真に写っていた

日差しを浴びて
きっと徐々に色あせて
ほつれていった

ぼろぼろのズボン
ぼくは
捨てない
捨てることができない
何度目覚めても
新しくなっていないズボンと
ぼくはいつ
さよならすべきなのだろう

2013年9月14日土曜日

いかすすいか


すましがおて
いすにおわすが
わすれものは
ないですか

あいすいません
すいかと
すいかと
すいかを
わすれもうした

いかがいたしますか
かいすうけんで
とりにいかれては
いかれた
いかがわしいすいかは
かえしましたし
とりにいかせる
かいがいしいしもべもいませんし
かいすうけんを
さあ

すいません
とりにいかせていただきまして
かえりましたら
すいかと
いかすすいかを
おわたしに
さんじょういたします
はい


*スイカ JR東日本が発売し、今はほぼ全国で使える交通系のプリペイドカード
*西瓜 夏が旬の大きな実の果物。泥棒する者がいる。
*酸イカ 酢漬けのイカ。酢漬けイカという呼び名も。

参考作品

詩 未 来 創 作: 酢飯が、バコーン

2013年9月13日金曜日

歩き出したとき


道に小石とつぶれた空き缶が落ちている
空き缶と小石は仲間だ
そこに夕暮れの薄闇がやって来て
遠くで街灯が点いた

塀がある場所を
たまにひとがゆき過ぎる
塀の中で育っているキンモクセイの木が
花をつけて
その香りを放ち始める

電車の駅に
鈴虫がかくれて鳴きだした

頬にあたる風が
間もなくぬくもりを恋しがるようになるだろう

初めて好きなひとの手を握ると
すこししっとりとしていて青い香りがして
それはとうもろこしをもいだ時の感触と似ていた

それはまた
雷雨が過ぎたあとの
家の前の道を歩き出したときのようだった

2013年9月12日木曜日

嫌な人

自分を守る人。とにかく自分を守る人。自分がかわいい。自分だけ良ければいい。自分が守られれば、おこぼれを分け与えてあげよう。
手柄は全部自分。他人の持ちものにも手を延ばす。都合の悪いことは聞いていないことに。そのうち本当に聴こえなくなり、見えなくなり。
あっさり他人を犠牲にして、嘘はつき放題。たまにお涙頂戴トークを滔々と述べその陰に身を隠す。
そうなった理由は用意してある。言い訳は自分のため。自分で自分をいい人だと思うため。そしていつもいつでも自分はいいひとだ。ほれぼれする。かっこいい。ありがとう。

2013年9月11日水曜日

紙に

イラスト 一之瀬仁美




ある朝
机の上に
1枚の紙が置いてあった

どこからやって来たのだろう

その不思議な紙に
ぼくは生まれて初めて
一篇の詩を書いた

それから
どれだけの紙に
詩を書いてきただろう

パソコンを消して
紙に向かう