優しい笑顔に武器を隠して
いっせいに砲撃しようと狙っている
きみを愛するものから引き離したものに向けて
きみは甘い吐息の毒よりも効き目があると信じるその砲弾を
打ちこもうとしている
きみの甘い吐息の毒をかすめて
砲弾は飛んでゆくだろう
きみを愛するものから引き離したものに向けて
甘い吐息の毒を微かにまとって
優しい笑顔に武器を隠して
きみは得意になっている
それはきみの素晴しいところだ
砲弾など何の役にも立たないことを
疑おうとはしない
そのしなやかな腰に張った帆や
衝撃を吸収する肉体のほうが
どれほど敵を殲滅するのに役立つことか
きみは頓着ない
優しい笑顔に武器を隠して
いっせいに砲撃しようと狙っている
時は文字盤の上で刻む
きみの時は少しずれているのか
たまに早くなったり
止まってみえるのだけれど
頭のてっぺんからつま先まで好きなひとが
疑いの眼差しで私を見ている
私にはちゃんとした理由があるから と
私は自分を落ち着かせようとしている
初めて同じ部屋で寝た夜のことを
私は思っているが
君はどうやって帰ろうか
考えている
君の胸と私の胸とを合わせて
背中を両方の手のひらで
激しく撫でて愛してるよと伝えた
いま車を運転してきた君の
助手席で
私は君をつなぎとめるために
色々と画策した
ロービーで君を待っていると
君が来ないのではないかという不安が
私をいらだたせる
私は悪いことをしているかもしれない
無理やり君にいうことをきかせようとしている
だが君は来ない
降りだした雨の向こうに
走り去ってしまうのか
そんな
悲劇的な画が
私にはに似合っていると
君は私の悲壮な出来事を楽しみながら言いそうだ
私は君を信用などしていない
だだ好きなだけだ
君は私を好きではない
ただ無理やり繋ぎ止めて欲しいだけだ
二人の間に
理解し難い謎が
透明な丸い水晶球のように落ちている
その魅力に囚われてしまったことだけ
私達は一緒だった
ゆうひがオレンジいろにひかりながら
しずんでゆきます
わたしのかおを
したから
てらそうとしています
わたしは
ちきゅうにいると
ちいさいから
わたしは
したからなにかをされることに
なれていません
わたしのなかまたちも
みなちいさいから
ここでいきていくことには
くろうしています
たとえば
やまやビルやいえのやねや
そこいらじゅうにはえているきや
でんしゃのつりこうこくだって
わたしをみおろしているのです
わたしはみおろされることになれているから
したからみあげられると
おちつきません
わたしはうえからよぶこえに
「はい!」とおおきくへんじをして
じめんをふんで
かけてゆきたいのです
窓がガタガタ気が狂ったように
鳴ります
カーテンを開けると
異様に明るい列車がゆっくり走っていくのが
見えます
そのせいで
街の様子はかき消されて見えなかったのでしょう
記憶の中で
明るい列車が走る姿がリピートされます
私は明るい列車です
すでに人間ではありません
明るい列車になって
夜の線路を
海の方へ走ってゆきます
途中に山もトンネルもあるでしょう
窓がガタガタいっていますが
なんの どこの窓なのか 分かりません
私は腕を伸ばそうと
胃袋から肋骨を突き抜けて出します
指先に胃液と未消化のものが付着しています
私の計器は狂っています
後ろからもう一人の私がやってきて
なだめようとしましたが
背骨の方から腕を突っ込んだので
もうグチャグチャです
電車はねじれた線路の上を行きます
ねじれているからこそ
まっすぐ走れるのです
斜めに陽が差してきました
どこから始まっているのかわからない
透明な巻物です
そのフィルムに巻かれて
映画が上映され始めました
それを見始めたのも
また私のようです
私の視覚がそう言っていますから
あの場所に何もかも置いてきたまま
あの場所のことを忘れていた
あの場所に少しずつ埃が降り積もり
少しずつゴムの張力はなくなり
生々しい思い出も少しずつ風化した
あの場所を知る人はいなくなり
あの場所からつながっていた糸も切れた
あの場所を守る人は年老いて
何かをする意欲はなくなった
あの場所は黙って
世間から遠ざかってゆくのを受け入れ
小声で悲鳴を上げるだけだった
ある日
きのうからきょうになろうとする頃
私の内側にあの場所が現れ
狭い階段の先に古い畳の続きの部屋が見えた
長い間私はその場所のことを忘れていた
だがそこは私の部屋だった
愛する人とのつらい思い出も置いてあった
私にどうしろというのだろう
その場所の地図もなければ行き方も分からない
あの場所は幻ではないのだろうか
そう思えば思うほど
あの場所は扉を開けて
私の心の穴にその口をポッカリと重ねて
すべてを飲み込もうとした
そして
飲み込んだあとにあの場所は消え
もう誰も
思い出すことさえできないのだ
よそいきのふくのせい?
きみのかたが
とがってる
きみはくちびるもとがらして
かわいいえがおを
ふりまいてる
もったいないよ
ぼくにだけ
みせてよ
そのえがお
とがらしたくちびる
とがったかた
きみはやさしい
すてきなひと
おこったかおも
みてみたい
ねえ
おこったかおを
してみて
ぼくにだけ
こっちをむいて
なにもしらない
おとうさん
なんでもしってる
おかあさん
ふたりをみてる
ぼくとねこ
それをみている
まどのえだ
死にたくなるような日々の数々も
日差しに暖められて起こされた沈みゆく朝も
絶望を一人で抱えたような顔して
さまよっている午後も
かたときも離れずきみを守ってきたもの
それがどこから来たのか
きみはしらないまま生きている
轟音とともにきみの脇を走り去ってゆくダンプ
カミソリの刃がスッと血の線を引く
きょうは記念日
きみと私がきょうを生き抜いた
アイスコーヒーが喉から沁みて
全身を一つにまとめようとする
星屑が見えないところで箒ではかれている
光の粒がまぶたの裏に集まってくる
それを水の流れが眺めている
私は息を止めて
命の在り処をたしかめようとする
あの
なんでもない
ゆめの続きに
戻ることができない
あの
なんでもない
意味のない風景の
一コマに戻りたい
あの
なにも思わなかった
忘れてばかりの日々に
帰るように
あの
命とおなじ重さだった体に
帰るように
あの
なんでもない
ゆめの続きに
戻りたい
前も後ろもない
流れない時間の
真ん中へ
入っていきたい