私に何ができるのか
私には分からないことを
あの人は知っている
だが
私はあの人のことは
何も知らない
あの人が
私のことを
知っていること以外
私は何も知らない
あの人は誰?
あの人に訊いても
教えてくれない
水銀灯が
閃いて消えた
あの人も
影を残して
消えてしまった
2013年9月19日木曜日
2013年9月18日水曜日
デュラスの声
会ったことはないが
デュラスの声なら聴いたことがある
波打ち際に立ち
心を躍らせることも
感傷に浸ることもせず
波や
遠くを往き来するさまざまな舟や 飛び交う鳥を
見るともなく見ている
昼間の月が空に
特別扱いで
太陽の光を反射して
舟のように浮かんでいる
初秋の海
私は
特別扱いしてもらえるだろうか
人には様々な生き方があるが
いつもそのことを忘れてしまう
砂浜から滑やかな膚をもつ小石を拾い
指の腹で撫でてみる
波は
微動だにせず
打ち寄せてくる
靴を濡らして
私の中まで濡らして
2013年9月17日火曜日
ぶら下がり健康器
ぶら下がり健康器
というネーミングはどうかと思う
多機能のものが人気で
彼女はそれを買い
気が向くたびにぶら下がり
また背当て板を斜めに付け替えて
筋力トレーニングやストレッチもした
彼女には夢があったから
滑車には緑色の紐
(明るい色だ)
紐には持ち手が付いていて
交互に引き合うエクササイズもできる
人は邪魔な器具だと言うけれど
彼女はここに引っ越してきたとき
真っ先に購入したのだ
薄暗くなった部屋で
香を焚き
小さい暗い明かりを灯して
彼女はぶら下がった
ぶら下がり健康器
というネーミングはどうかと思う
そこに
彼女がぶら下がるのは
お似合いだ という人がいるなら
それは酷な話だと思う
*私はぶら下がり健康器が好きだ。今使っているタイプはガタガタいうが、衝撃を逃がしていることが分かる。そうして自らは安定しているのだろう。
*私はぶら下がり健康器が好きだ。今使っているタイプはガタガタいうが、衝撃を逃がしていることが分かる。そうして自らは安定しているのだろう。
*何度も「首吊り』の夢を見てきた。このブログを始めた3年前は毎日のように見ていて、見ないと「何かが足りない」と思うほどだった。最近はたまに夢のなかで首を吊る。それはなぜなのか。考えたこともあったが、あまりに回数が多かったので、ただうんざりしている。
*中学生の頃、自殺することを良く考えていた。自殺したかった訳ではないとおもう。生きるに値する人生、というものに自信がなかったのだろう。しかしそれは不遜なことだ。そんな不遜なことを、命を預かる私はなぜ考えたのだろう、と、今なら思うだろうが、でも大して自信はない。
2013年9月16日月曜日
牡蠣を食べに
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていく
私はふだん都会で仕事をして生活しているから
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくことは
特別なことだ
アイドルは
自分が歌ってヒットしたあの歌を
歌ってくれる
伴奏なしで聴いたのは初めてだ
この歌をアイドルのナマの口から聴くことができるとは
まだ生きていて本当に良かった
アイドルは
みごとなハンドルさばきで
車を道の駅の駐車場へ入れた
エンジンを切って外に出ると
潮風とともに
波の音も聞こえてきたような気がしたが
それは錯覚だった
アイドルは
お手洗いに行き
私はアイドルの歌を口ずさんで
手すりにもたれて展望デッキから海を眺めて
目を細めて
何度となくテレビや映画で見たあの表情を作って
悦に入ろうとしたが
それはできなかった
アイドルは昨日の夜
私の部屋にやって来て
私のパンツの色を褒めて
体を揺らして
よろこびを表現した
そしてすぐに白いワンピを
ソファの上に放り投げた
白い鳥が
私の上を飛んで
風に引き戻されて方向を変えた
気づくと
アイドルは私の手を
後ろから握って
いい香りの髪の毛を私の首筋にあててきた
アイドルは
仕事に戻らなくては行けない
私はそんな無粋なことを思った
牡蠣が待っている
牡蠣が頭から遠ざかっていく
牡蠣を食べたら
殻を残して
部屋に帰るのだ
部屋には
私が収まるべき空間がある
アイドルは
私の手をとって
車へと向かう
私は
アイドルの車に載って
牡蠣を食べに
港町を幾つも縫って走っていくのだ
*昨日の物語風の一筆書きの詩の評判が良かったので、それに気を良くしてきょうも書きました。
*おもしろいのかどうか、わかりません。
2013年9月15日日曜日
ぼろぼろのズボン
ぼろぼろになったズボンを
捨てることができない
自分を捨ててしまうようで
自分はこんなに
ぼろぼろではないけれど
ズボンを捨ててしまったら
こんどは
自分がぼろぼろになる
いままで生きてきて
ぼくはズボンを捨てたことはなかった
ズボンは
いつのまにか
新しいズボンをはいて
ぼくの前に立っていた
ぼくは
いつも
ぼろぼろになるまえのズボンをはいて
外に出かけていった
また
ズボンはいつも
ぼくの帰りを待っていた
自分の場所に折り目正しく腰を下ろして
そして
いつの日からか
ズボンはぼくを
ぼくはズボンを
ふだん
気に留めなくなった
そんなとき
ズボンはスカートに恋をして
ぼくも
そのスカートの女の子に恋をした
僕たちはよく
駅や街灯のベンチに腰掛けて
話をした
家に帰ると
ぼくはすぐに
ズボンを脱いだ
ズボンが邪魔だったから
一人暮らしを始めたぼくは
スカートの女の子がスカートをふわりと脱いで
やさしく畳んでおくのがすきだった
そんな時も
ぼくはズボンを勢いよく脱ぎ捨てた
そして
ある日
ズボンは
ぼろぼろになっていた
ぼくは
一人の部屋で
ズボンを見た
ズボンは
思い出を刻んでいた
ぼくと一緒に
あのスカートの女の子と
写真に写っていた
日差しを浴びて
きっと徐々に色あせて
ほつれていった
ぼろぼろのズボン
ぼくは
捨てない
捨てることができない
何度目覚めても
新しくなっていないズボンと
ぼくはいつ
さよならすべきなのだろう
2013年9月14日土曜日
いかすすいか
すましがおて
いすにおわすが
わすれものは
ないですか
あいすいません
すいかと
すいかと
すいかを
わすれもうした
いかがいたしますか
かいすうけんで
とりにいかれては
いかれた
いかがわしいすいかは
かえしましたし
とりにいかせる
かいがいしいしもべもいませんし
かいすうけんを
さあ
すいません
とりにいかせていただきまして
かえりましたら
すいかと
いかすすいかを
おわたしに
さんじょういたします
はい
*スイカ JR東日本が発売し、今はほぼ全国で使える交通系のプリペイドカード
*西瓜 夏が旬の大きな実の果物。泥棒する者がいる。
2013年9月13日金曜日
歩き出したとき
道に小石とつぶれた空き缶が落ちている
空き缶と小石は仲間だ
そこに夕暮れの薄闇がやって来て
遠くで街灯が点いた
塀がある場所を
たまにひとがゆき過ぎる
塀の中で育っているキンモクセイの木が
花をつけて
その香りを放ち始める
電車の駅に
鈴虫がかくれて鳴きだした
頬にあたる風が
間もなくぬくもりを恋しがるようになるだろう
初めて好きなひとの手を握ると
すこししっとりとしていて青い香りがして
それはとうもろこしをもいだ時の感触と似ていた
それはまた
雷雨が過ぎたあとの
家の前の道を歩き出したときのようだった
2013年9月12日木曜日
嫌な人
自分を守る人。とにかく自分を守る人。自分がかわいい。自分だけ良ければいい。自分が守られれば、おこぼれを分け与えてあげよう。
手柄は全部自分。他人の持ちものにも手を延ばす。都合の悪いことは聞いていないことに。そのうち本当に聴こえなくなり、見えなくなり。
あっさり他人を犠牲にして、嘘はつき放題。たまにお涙頂戴トークを滔々と述べその陰に身を隠す。
そうなった理由は用意してある。言い訳は自分のため。自分で自分をいい人だと思うため。そしていつもいつでも自分はいいひとだ。ほれぼれする。かっこいい。ありがとう。
2013年9月11日水曜日
紙に
イラスト 一之瀬仁美
ある朝
机の上に
1枚の紙が置いてあった
どこからやって来たのだろう
その不思議な紙に
ぼくは生まれて初めて
一篇の詩を書いた
それから
どれだけの紙に
詩を書いてきただろう
パソコンを消して
紙に向かう
隙間があったら入りたい
隙間があったら入りたい
割れ目でもいい
裂け目でも構わない
私がそこに入ることで
願わくば
地球を少しでも平らにしたいのだ
平らな
すべやかな地表を
靴底で撫でて走らせたいのだ
裂け目を持ったあなたを
自らの裂け目を
磁石に使って
走るより速く
走らせたいのだ
私は身じろぎもせず
それに見入り
それが私の企てだと
いつかあなたに
打ち明けたいのだ
割れ目でもいい
裂け目でも構わない
私がそこに入ることで
願わくば
地球を少しでも平らにしたいのだ
平らな
すべやかな地表を
靴底で撫でて走らせたいのだ
裂け目を持ったあなたを
自らの裂け目を
磁石に使って
走るより速く
走らせたいのだ
私は身じろぎもせず
それに見入り
それが私の企てだと
いつかあなたに
打ち明けたいのだ
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