きみはいつ
自分は特別だ
と 気づいたのか
青い海原を跳んだとき
きみの体は逆光に縁取られ
視界の隅に自らの赤を見た
そのとき
きみは
自分が特別だ
と 気づいた
だが
また海に落ちて
群れをなす仲間たちと
一緒に泳ぐしかなかった
きみは特別な
赤い魚
いままでそうと知らずに
青い魚と群れて泳ぐ
特別な赤い魚
誰もがきみを
特別だと思う
まだそれに戸惑う
何もできない赤い魚
あっちのお山と
こっちのお山
どっちのお山がすきですか?
あっちのお家と
こっちのお家
どっちのお庭が広いです?
あっちの人と
こっちの人は
どっちが役にたつかしら?
あっちの仕事
こっちの仕事
どっちが楽ができますか?
あっちの祭り
こっちの祭り
どっちに神様いるかしら?
あっちの理屈
こっちの理屈
どっちも屁理屈屁の河童
涙とさよならして
泣くのをやめたいのに
涙とさよならしようと思っただけで
なおさら泣けてきた
悲しいことが起こる前に
涙と出会いたくなくて
なにも気にしないように
しようとしたけれど
悲しいことは
もう私をどっぷりと覆っていて
涙はすでにあふれ始めていた
それでは私を逃がそうと
考えてはみたけれど
悲しいことも涙も
私から離れることがない
だから余計に泣きたくなって
それを察した涙は
もう勢いよくあふれ
快晴の海へと向かおうとしている
花束を作ります
最初は自分のために
いつの間にかふたりのために
そして最後はあのひとのために
花束を渡しに行きます
花束を持って
会いたい気持ちを持って
そして私ごと渡してしまいます
あのひとは
幸せそうです
幾人かの気心の知れた仲間と
遊びながら
悩みを打ち明けながら
お互いを理解し合っていると喜びながら
助け合って
声を掛け合って
この地に根を下ろして
贅沢はできないけれど
貧しすぎるということもなく
悪いことはせず正直に
得意なことをがんばって
うまい話は疑ってかかり
下手なことはしないようにして
家族を守り
動物を飼い
近所の人と仲良くし
一生懸命仕事して
……
生きていく
これが生きていくということ
つまり
なにも分からなかったということか
ふりだしに戻ったら
スタートラインさえ消えていたということか
おまけに
自分が誰だったかさえも
忘れてしまったというかとか
これ以上考えても
後ろに進むばかり
いいことを思いつこうとしても
後悔したことばかりを思い出す
なにかに頼ろうとしても
なにかに引きずられるだけ
スーパームーンが空で輝いているが
世間の闇が照らされるだけ
心に暗い影ができる
夜の浜で知り合った
しっとりした彼女が
短い言葉を送ってきても
整理できずに放置して
知らない娘(こ)から
メールが届く
空のポストが
声をあげるよ
知らないその娘に
返事を書いた
哀れなぼくに
月も泣いたよ
知らない同士
キスをしました
前の恋人
黙って見てる
僕のかわりにいなくなったネコ
お月様に行ってしまったのは兎だよ と
いじわるな姉さんは教えてくれた
だから
地上で見えない影を追い求めて
ずっとネコを探している
本当にいなくなったのはネコではない
水筒の酸っぱいジュースを飲んで
何度 気を取り直したことか
今日も汗をかきながら
夢の中の草むらをかき分けて歩いてゆく
悪いことの先にはいいことが待っていると
言っていた人のことを信じて
テーブル越しに新宿の雑踏を眺めながら
夕陽色のアイスティをかき回します
コップのなかに渦巻きが現れます
風か吹いて
静止していた空気が巻き込まれます
氷山がぶつかり合い砕けて弾け飛びます
なまぬるい者たちは居づらくなります
唇に挟んだストローから
冷たい液体を汲みあげます
口の中を潤して 喉を冷やして
古い記憶が呼び起こされます
透明なもの同士が仲良くします
猥雑なもの同士が混ざりあい
お互いを攻めあいます
私の周りの空気も渦を作って
私は台風の目のように
動けなくなります
どこかに連れ去られたテーブルには
援交のカップルが肘をついて
ギラギラする月を
見て見ないようにしています
よいことをして
わるいこともして
よくもわるくもないことをして
どちらかわからないことをして
おとなになった
おとなになっても
よいことをして
よくないことをして
どちらかわからないことをして
ろうじんになった
じんせいは
むずかしい
じんせいは
おもしろくて
つまらない
あくびをしたら
しかられる
しかったひとも
あくびをしてる