2013年6月28日金曜日

赤い魚

きみはいつ
自分は特別だ
と 気づいたのか

青い海原を跳んだとき
きみの体は逆光に縁取られ
視界の隅に自らの赤を見た
そのとき
きみは
自分が特別だ
と 気づいた

だが
また海に落ちて
群れをなす仲間たちと
一緒に泳ぐしかなかった

きみは特別な
赤い魚
いままでそうと知らずに
青い魚と群れて泳ぐ
特別な赤い魚

誰もがきみを
特別だと思う
まだそれに戸惑う
何もできない赤い魚



2013年6月27日木曜日

あっちのお山と

あっちのお山と
こっちのお山
どっちのお山がすきですか?

あっちのお家と
こっちのお家
どっちのお庭が広いです?

あっちの人と
こっちの人は
どっちが役にたつかしら?

あっちの仕事
こっちの仕事
どっちが楽ができますか?

あっちの祭り
こっちの祭り
どっちに神様いるかしら?

あっちの理屈
こっちの理屈
どっちも屁理屈屁の河童

2013年6月26日水曜日

涙は

涙とさよならして
泣くのをやめたいのに

涙とさよならしようと思っただけで
なおさら泣けてきた

悲しいことが起こる前に
涙と出会いたくなくて
なにも気にしないように
しようとしたけれど

悲しいことは
もう私をどっぷりと覆っていて
涙はすでにあふれ始めていた

それでは私を逃がそうと
考えてはみたけれど
悲しいことも涙も
私から離れることがない

だから余計に泣きたくなって
それを察した涙は
もう勢いよくあふれ
快晴の海へと向かおうとしている




2013年6月25日火曜日

花束


花束を作ります
最初は自分のために
いつの間にかふたりのために
そして最後はあのひとのために

花束を渡しに行きます
花束を持って
会いたい気持ちを持って
そして私ごと渡してしまいます

あのひとは
幸せそうです

2013年6月24日月曜日

生きていく


幾人かの気心の知れた仲間と
遊びながら
悩みを打ち明けながら
お互いを理解し合っていると喜びながら
助け合って
声を掛け合って
この地に根を下ろして
贅沢はできないけれど
貧しすぎるということもなく
悪いことはせず正直に
得意なことをがんばって
うまい話は疑ってかかり
下手なことはしないようにして
家族を守り
動物を飼い
近所の人と仲良くし
一生懸命仕事して
……

生きていく
これが生きていくということ

2013年6月23日日曜日

放置プレー

つまり
なにも分からなかったということか
ふりだしに戻ったら
スタートラインさえ消えていたということか
おまけに
自分が誰だったかさえも
忘れてしまったというかとか

これ以上考えても
後ろに進むばかり
いいことを思いつこうとしても
後悔したことばかりを思い出す

なにかに頼ろうとしても
なにかに引きずられるだけ

スーパームーンが空で輝いているが
世間の闇が照らされるだけ

心に暗い影ができる
夜の浜で知り合った
しっとりした彼女が
短い言葉を送ってきても
整理できずに放置して
眠りのお迎えただ待っている


2013年6月22日土曜日

知らない娘から

知らない娘(こ)から
メールが届く
空のポストが
声をあげるよ

知らないその娘に
返事を書いた
哀れなぼくに
月も泣いたよ

知らない同士
キスをしました
前の恋人
黙って見てる

2013年6月21日金曜日

僕のかわりにいなくなったネコ

僕のかわりにいなくなったネコ
お月様に行ってしまったのは兎だよ と
いじわるな姉さんは教えてくれた

だから
地上で見えない影を追い求めて
ずっとネコを探している
本当にいなくなったのはネコではない

水筒の酸っぱいジュースを飲んで
何度 気を取り直したことか
今日も汗をかきながら
夢の中の草むらをかき分けて歩いてゆく

悪いことの先にはいいことが待っていると
言っていた人のことを信じて

2013年6月20日木曜日

夕陽色のアイスティ


テーブル越しに新宿の雑踏を眺めながら
夕陽色のアイスティをかき回します
コップのなかに渦巻きが現れます

風か吹いて
静止していた空気が巻き込まれます
氷山がぶつかり合い砕けて弾け飛びます

なまぬるい者たちは居づらくなります

唇に挟んだストローから
冷たい液体を汲みあげます
口の中を潤して  喉を冷やして
古い記憶が呼び起こされます

透明なもの同士が仲良くします
猥雑なもの同士が混ざりあい
お互いを攻めあいます

私の周りの空気も渦を作って
私は台風の目のように
動けなくなります

どこかに連れ去られたテーブルには
援交のカップルが肘をついて
ギラギラする月を
見て見ないようにしています

じんせいは わからない (過去の詩から)


よいことをして
わるいこともして
よくもわるくもないことをして
どちらかわからないことをして
おとなになった
おとなになっても
よいことをして
よくないことをして
どちらかわからないことをして
ろうじんになった

じんせいは
むずかしい
じんせいは
おもしろくて
つまらない
あくびをしたら
しかられる

しかったひとも
あくびをしてる