2012年11月19日月曜日

ベタベタ

彼女は
おでんとユッケを食べて
好きな酒を呑む
フォーにパクチーをどっさり入れてツルツルたべる
ライフスタイルは自分のもの
人に迷惑はかからないと思っている

『さようでございます』

欠点を巧く隠して
着飾って世間を渡って行く
晴れの日のためには準備も完璧にして

欠点を隠していることは
爽やかでかっこいい
そのうち隠していたことも忘れて
笑顔を振りまいている

『そのようなことはございません』

(((o(*゚▽゚*)o)))
彼女はたまに絵文字で会話をする
寒くなってきたら
暖かいお茶を何倍も飲む
実際の歳より若くてお洒落

余裕のあるときは
口数すくなくベタベタ
彼氏にものをいう

2012年11月18日日曜日

どのこかな

ちくりちくり
愛の裏返し
ひとでなし
ねちねち
くるくる
ぴったり
ぎゅうぎゅう
とろりんこん
さかなかな
かなかな泣き虫
どのこかな

2012年11月17日土曜日

抱きとめもせず 寄り添いもせず




あなたが 光なら
私は 空にたなびく 雲でありたい

抱きとめもせず
寄り添いもせず
ただ
なんとなく
近い存在でありたい

それがかなわいなら
かなわない理由は気にもとめずに
勇気だけを頼りに
さまよいたい

行き着くところは分かっているから

そこは
あなたが眠る場所

そこに
たどり着いた時にも
私はただ  なんとんく
あなたの近い存在でありたい

2012年11月16日金曜日

11月16日

白黒の兎がドアから出ていく後ろ姿を見ながら
懐かしさと悲しさの差がいまだにわからないと
ぼんやりと遠いお花畑をスローモーションで思った

知ることはすべてできない
そのことはもちろん知っていたが
知らないことがすべてであると
夕日に浮かんだ雲に打ち明けられた時

懐かしさの向こうから悲しみが
滝を崩して
勢いよくこの身を打ちにきた

寝入り鼻に
目醒めていく11月の未明
逆立ちした朝焼が夕焼けに変身し
酔った人の夢が電車の中で迷い
降りる駅を探している

まだ絶望という文字はやってきていない

2012年11月15日木曜日

そう、あなたには詩がある

うたた寝をしてしまって目覚めたあなた
そう、あなたには詩がある

こてんぱんにやっつけられて疲れて眠ってしまったあなた
そう、あなたには詩がある

首が痛くて頭も痛くなってきたあなた
そう、あなたには詩がある

明日食べるものがなくて凍えているあなた
そう、あなたには詩がある

手術を終えてやっと退院したあなた
そう、あなたには詩がある

銀行に騙されて首をくくろうとしているあなた
そう、あなたには詩がある

暴力を受けて体も心も傷ついて逃げ出してきたあなた
そう、あなたには詩がある

友だちに裏切らればかにされて悔しさを噛み締めているあなた
そう、あなたには詩がある

ふる里の家を失ったあなた
そう、あなたには詩がある

家族を目の前で傷めつけられて悲しんでいるあなた
そう、あなたには詩がある

取り立て屋に終われ税務署に催促され電気も止められたあなた
そう、あなたには詩がある

もう何もないと絶望しているあなた
そう、あなたには詩がある

まだ何も経験していないのに何もかも嫌になってしまったあなた
そう、あなたには詩がある

弱みに付け込まれていいようにされっ放しのあなた
そう、あなたには詩がある

大事に育てたものが奪われて絶望しているあなた
そう、あなたには詩がある

木馬から転げ落ちて以来いいことがないあなた
そう、あなたには詩がある

泣いてばかりいるあなた
そう、あなたには詩がある

死のうとして生きていくことをやめようとしているあなた 
そう、あなたには詩がある

何をやっても上手くいかないあなた
そう、あなたには詩がある

憂鬱で体もだるく心のどこかが張り詰めているあなた
そう、あなたには詩がある

真面目にやってきて不真面目な人にしてやられたあなた
そう、あなたには詩がある

ずっと閉じ込められてずっと我慢してずっと愚痴を言っているあなた
そう、あなたには詩がある

寒い公園のそばで幽霊と一緒に夜を過ごして眠れないあなた
そう、あなたには詩がある

毎日が同じ繰り返しで時間が無駄に過ぎていくだけのあなた
そう、あなたには詩がある

誰がなんと言おうが言うまいが
そう、あなたには詩がある

そう、あなたには詩がある

2012年11月14日水曜日

二人だけの舞踏会

わたしはあなたになりすまし
みたいものみなみてしまう
あなたはわたしになりすまし
したいことみなしてしまう
わたしはあなたになりすまし
さらにわたしになりすます
あなたはわたしになりすまし
さらにあなたになりすます
そうしてふたりはたくさんの
かめんをかぶりぶとうかい

2012年11月13日火曜日

アルパカのぬいぐるみ

三階建ての二階は
天地がひっくり返っても三階建ての二階なので
彼女は安心してそこにいることができる

ずっとそこにいることもできるが
安住の地は別のところにあると信じているので
彼女の眼はいつも何かを探しているような感じになる

明け方または夕方に
雨が降っていると
道は泥水を跳ね上げる
それが泥の水であるかは
明確な証拠はないが
だれもその説明を求めないので
それはそうであるということにいておいて
差支えはなさそうだ

頼りないものを頼りにしなければ
世間はわたっていけないので
せめて頼りになるものを拵(こしら)えて縋(すが)りたくなる

水の上に魚が跳ねた
彼女は一緒に跳ね上がってみた
アルパカのぬいぐるみを落としそうになってまで
衝動のままに
跳ねる必要があったのだろうか

2012年11月12日月曜日

破れた靴下

破れた靴下を履いているんだ
大事な靴下なんだ

それは
100円ショップで買ったから
お金がないときにやっと買ったから

破れた靴下は
あしたさよなら

君の体で
僕のクツを磨いて ピカピカにして
ゴミ箱に入って他のゴミと一緒に
ゴミ捨て場に行ってください

破れた靴下は
きょうでお別れ
君のことは忘れない
君はゴミになって燃やされて
僕のことは忘れるだろう

忘れてくれていい
感謝こそすれ
恨みはしないから





2012年11月11日日曜日

長い廊下の先には

長い廊下の先には教室があります
途中には料理屋の客間や
新館と旧館の段差に作られた「7段階段」
女子更衣室
「女中部屋」と和室の客間
映画の舞台にもなった「土曜日の実験室」
上の方にに肖像画が沢山掛かっている
モーツアルトが学んだという音楽室
その入り口には「鮫島教諭」と記されたブレートが貼られています

小雨が降り始めた門から母が入ってきて
入り口脇の「コモンスペース」でミニライブをしていたふたりの詩人に
お金の入った封筒を渡そうとしました
私はそれをやっと静止して母を
教室へ連れて行くことにしたのです
そこは北京大学です

そのころ
印刷会社の夫妻はベンツのワゴン車で
丘の上の温泉の高級旅館に向かっていました
信号のつながりが悪く
ちよっとイライラしながら
しばらくして見えてきたのは
北京大学でした

私は長い廊下を印刷会社の社長と歩きながら
その先に何があるのか想像していました

その教室には
もうすでにこの世にはいない「女学生」たちが
一様に不満気な顔押して
黒板の方を向いていました
「ラオシー」と呼ばれる先生は中国人のはずですが
中国語が上手く話せないのです

まあまあまあまあ と言いながら
にぎやかな漫才師が入って来ました
漫才師はこの場を
放送の尺に合わせて何とかまとめてしまう自信があるようです

夕闇がいつの間にか窓の外で待っていました
ガラス窓を開ければ
妖怪のような口を開けて
彼らは入ってくるでしょう
出口を探すでもなく
ただ生ぬるく成り果てて
登場人物たちを腐敗させてしまうのです

2012年11月10日土曜日

11日111月


11

どこかから賛美歌が風に乗って

大きな池のある公園を通り過ぎ

駅前の鳩のいるベンチの前の小さな広場に

聴こえてきたような気がしたその日


その穏やかな日の午後2

そのひとは黄色いラインの電車に乗って

心の闇を見せに行く


白く入り組んだ瀟洒な建物の

まあるい噴水の音が聞こえそうな

植え込みの向こうの窓に

ちらりとそのひとの姿を見ることができる


午後3

何人かと面談をして

会釈を繰り返しているうちに

心の目はおでこからはみ出して

でんでん虫のツノのように頭上に突き出していた


買ったばかりの白いスマートフォンで

電話をしなくては

私がここにいることを確かめなくては


そうして

白い糸にがんじがらめに巻かれた自分の様子を

デジタルカメラで撮影して

タイムラインに上げなくては


日暮れのオレンジ色の太陽が

ビルの向こうに落ちる前に

闇を消毒して

目を閉じてもなにも踏んでしまわないように

下の方を片付けよう


手を揉んで

リズムを掴む

心臓の鼓動と呼吸と瞬きと

言葉の早さを合わせるのだ