2011年8月10日水曜日

シンプルな木の額のなかに

誰にも理解されないと
泣いているあなた

なぜ泣いているのか
分からないと言っている私

それを見ている


それを聴いている


みんな
別々のようで
みんな
一緒のようで

昼下がりに訪れた
見知らぬ田舎町の
古い家の
玄関から
少し入ったところの
白い壁に掛かっていた
シンプルな木の額のなかに
収まっている
一枚の写真の中にいるようで

2011年8月9日火曜日

あなたが歩く速度は私と違う 〜ある夏の日に〜

フロリダアイスコーヒーのグラスが
汗をかいている
となりで
氷水のグラスも
汗をかいている

さっきまで汗をかいていた
あなた と わたしは
汗をかいたグラスを
それぞれ
反対側から見つめている

氷がゆっくり
溶けていくと
時間が過ぎているのが分かる

この速度は
いったい
誰が決めているのだろう
仕事好きの神様だろうか

あなたが
歩く速度は
私が歩く速度と
違っていて
そのため
ふたりで歩くと
どこかぎこちない

その
ぎこちなさは
何を宿しているのだろう
あなたとふたりで
探求してみたい

時々
歩くのをやめ
同じ速さて
止(とど)まって

2011年8月8日月曜日

松に木の枝の葉に 『松の木の下で』に寄せて

御徒町凧さんへのオマージュ


松の木の枝の葉の間を吹く風は
尖っているだろうか

日差しの糸が幾重にも絡みついて
ザラザラしていて
円錐の底面を貼り合わせた形となっている

吹き方は流し素麺が
乱れ飛ぶ感じだ

松の木の枝の下で
松ぼっくりと栗鼠のことを
考えると
風が一層強まって
吹き飛ばそうとする

吹き飛ばされるのは
私の蛇のような邪念だ

栗鼠は木陰に身を寄せ
松の木は
金箔の夕日を背負って
見得を切ろうとしている

私は家路ににつく

この松林の上空にそびえる
都市を
緑に染めようと
虎視眈々と狙っている
詩人たちの姿を
羨望の視線で見やる

2011年8月7日日曜日

好きなケーキ

好きなケーキがえらべる
そんなことが
お金があれば可能だ

その場で楽しんでも
お持ち帰りにしてもいい

ケーキに気持ちをきく必要はない
こちら側の気持ち次第で
あちら側には拒否権はないのだ

ついでににいえば
ケーキを作った人の気持ちも無視していい
わたくしの素性も
関係がない

ショーケースに並んでいる限り
わたくしには
それを買い求め
我がものとすることができる

うっすらと汗をかいている
美しいケーキ
寒天が光り
リキュールとフルーツが香っている

毎日食べたい
いつも傍においておきたい
あなたと過ごす時間を
永遠に楽しみたい

他人に買い求められる前に
目当てのケーキを買い求めなければ

背中にひんやり刃(やいば)のような感覚が降りてゆく

2011年8月6日土曜日

天使の涙

天使が横たわっている
傷ついて

誰かの代わりに
傷ついているのだろう

私だって
あなたの代わりに
傷ついているのだから

あなただって
天使の代わりに
傷つくことができるはずだ

それが
本当は
あなたの願うところではなかったのか
天使の味方になること……

あなたが気づかない代わりに
私は気づいている

私が気づかないことに
天使が気がついている
傷つきながら
天使の代わりに
あなたが涙を零した

2011年8月5日金曜日

夏の日のひと駒

懐かしい香りがしたので振り向いた
優しさを感じたので近づいた
ゆるされる気がしたので触れてみた

消えてしまった

美しい虹が
低い空にでて
遠くから
あなたの笑い声が聴こえてきた

2011年8月4日木曜日

三日月の空

噛み合わないところが
あなたのいいところだと思えてきたんだ
ちょっと悲しかったり
寂しかったりすることも
いいところだと思えてきたんだ

自分の全体像だってみえないじゃないか
かみ合う相手を見つけるなんて
無理なんだ

2011年8月3日水曜日

いつも見に行きたくなる

君の二つの目が
離れているので
君はぼくとの距離感をとる
君の二つの目は
近くのものが歪んで見えるので
君はぼくを遠ざけて
眺めている

君の二つの耳は
片方で電話しながら
片方で音楽を聴くことができるので
ぼくの声はラジオドラマのようになり
フィクションとなる

君の二つのものは
君自身が制御できないので
君はそれらをもてあましたまま
ぼくにおしゃべりする

ぼくの二つの目は
求めているものを見るために
君の前にいくが
目は記憶ができないので
いつも
繰り返し見に行きたくなる

2011年8月2日火曜日

見えない

大事にしていたのものが
ものではないことに気づいたのは
失った後だった

周りには
ものがいっぱいあるが
もの以外の姿が見えない

2011年8月1日月曜日