2011年2月18日金曜日

あした海を見に行く

あした
海を見に行こうと思う
車に乗って
愛する人と

いつか
一人で見に行こうとして
あまりの寂しさに
思わず友達を誘って見に行った海だ
その友達は素敵な人だった

海を見ると
自分が何にこだわっているのか
みえてくる

海はいつもそこひとりであるからだろう
海はその胸にあらゆる思いや夢をうけとめるからだろう

海水浴シーズンの海は
ひとでごった返している
海の家が粗末なシャワールームをかまえ
貧乏臭く水をチョロチョロ浴びさせる

シャワールームでは
人は一人で後悔に呉れ
将来を考える

ある朝
目が覚めると
なにか大事なモノがガラガラと風に飛ばされ
爽やかな空虚がそこに満たされていた
シャワーのお湯が
体を包み
空虚もそっちのけで
未来に溶かしていた

2011年2月17日木曜日

見るだけのわたし

怖がりな人
弱虫の人
お節介なきみ
ひとのいい彼

生き急ぐ人
苦労症の人
やりくり上手なきみ
細やかな彼女

見せたがる人
我儘な人
執念深いきみ
欲深い人

呼べばくる人
出不精な人
困り顔のきみ
笑いすぎる彼

物知りな人
人を騙す人
破天荒なきみ
謹慎中の彼

狂い咲く人
煙たい人
話好きのきみ
お呼びでない彼

嫁入り前の人
愛される人
まぶたを伏せたきみ
ただ見るだけのわたし

2011年2月16日水曜日

いつもと違う日

林の上の澄んだ空気に
月が明るく光り

降り積もった雪を集めた小山に
苦しみを抱えた人が腰を下ろす

誰の文句も受け付けない場所

息をすると恥ずかしいほど
たっぷりと白い湯気が出る

でも誰も見ていない

静かさが
包む

心配事は
氷に閉じ込める

きょうはいつもと違う日
栞の日

2011年2月15日火曜日

秘書がいない

秘書が
私のからだの半分を連れて
出て行ってしまったので
自分の考えが正しいかどうか判断ができない

その半分には脳も含まれていたようだ
記憶がその分なくなり
思考力ももっていかれただろう

そのため日常の生活もままならず
高度な仕事は穴だらけとなる

チンチンも半分なくなったようだ
以前がどういうものだったのか思い出せない

知人と何があったか
何処に住んでいる人なのか
何か約束をして違えていないかどうかなど
重要と思われることが分からない
そのくせ
思い出さなくていいことが
鮮明に蘇る

秘書がここにいたときには
今日のご予定がよく分かった
物事の手配や段取りはすべてうまくいった
パスされたボールを投げれば
得点が上がった

秘書はいま何処で何をしているのだろう
半分の自分にメールして尋ねてみたいが
アドレス帳の所在が分からないうえ
自分がいるかさえも分からない
あちらからの連絡を待つために
フェイスブックに登録しておこう

2011年2月14日月曜日

弱さ

これ以上弱くなれないという弱さ
命の崖っぷちを歩くことができない自分

生きている価値というのはどういうものだろう
顕微鏡の中でうごめく細胞をみながら
思い出の海を捜し回る

いつから道はなくなってしまったのか
それまであったはずだった道は幻想だったのだろうか

答えてくれる者はいない
白い雪が街に降り積もる
いつもと違う街の風景
これは幻想ではなく現実なのだろうか

頼りなく指先を動かす
干からびかけた手が
誰かの意志で動いているようだ

2011年2月13日日曜日

センサーが働いちゃうんだよ

感じないようにしていても感じてしまう
感度を下げられないし
スイッチを切ることもできない

センサーは心臓に直結していてそこから脳へと管が伸びている
グロテスクな形だが
いいものは案外こんなものだ
それが世の常

昼ごはんを食べる
松花堂弁当は
胃の中で混ぜ合わされ
もう松花堂弁当と呼ぶことは出来なくなる

言葉を費やし
重ね
こねくり回しても
もはや原型を求めることもできず
そのためか
道や電信柱やスレートの屋根や雲は
切り離されたままこの世にに存在できている

ジョギングのための服や諸々をまとって
そこからスタートする
中身が踊っている
風が意外と冷たく
頬が痺れる

距離をカウントする理性が
野生に思えてくる
センサーは働く
自動計算機の上に汗のつぶが落ちる
なんのために
その問いはご法度
暗黙のルールがあるからだ

2011年2月12日土曜日

うさぎとくま

うさぎ対くまの対決が始まった
どっちもまけるな

ふわっと浮かびあがって
桃色のキック
吐息を漏らして
緑色の靄(もや)

もつれて
ふたりで
空中戦で
ぐるぐるまわる
(目だって回る)

えーい、なんだか思いたぜない
今朝の夢の続きよ攻撃
むかしの恥ずかしいことをまとめた独り言攻撃

帰宅途中の新しいLED街灯を見すぎて目が変
坂道の下に猫の死骸を発見

服が似合わない
好きな服がほつれてる
靴底は減りやすい靴屋の陰謀攻撃

少しでも高くとろうとする人気店
良品ではない無印
いやなうわさ話をする田舎の人の良さそうなおばさん

組んず解れつ
やさしい戦い
くまさんもうさぎさんもどっちもがんばれ

部屋の中で
ふたりの戦いを見ていると
自分も戦いを思い出す
負けてしまったけれど
いつかあいこにしなくては

生きている限り
まだチャンスはある

2011年2月11日金曜日

きみの

きみの名前の文字が
空に浮かんでいる

声に出して言うことはできない
してはならない約束のように

2011年2月10日木曜日

美しい背景

絵が飾られた壁
夜には照明が作り出す影さえ
光源となっている
きみの背景はいつだって美しい
例えばダウンタウンの雑踏でも
きみとの境界線のエッジがくっきりと立ち上がって輝き
背景は柔らかく後ずさりして協和し
雑多なディティールを和ませる

きみのからだは光を弾いて
瞳のグレーを吸収する
脛の直線はシーツの上で燃え残る
白い灰で焔を隠す役割を果たして


白い壁に
窓からの光が反射し
きみの顔をレフ板のように明るくし
新緑の世界が宿る
きみは手のひらの上でオブジェをもてあそんで
僕に見せる

重い扉の外の世界は
きみが出現すると一瞬のうちに
背景と化す

2011年2月9日水曜日

真面目に生きてきて

楽しむことの罪悪から逃げて
真面目に苦労してきたよ
本当は怖がりなだけ
楽しいことはたくさんあったから

という
遺書を残した人がいた
という書き出しの物語りを放り出して
ぬるい風が強く吹く街に出ていった
道行く人はみな日常の歩行を楽しんでいるようだった

私は綺麗な写真を撮ろうとデジカメを取り出して
撮影を繰り返した

信号機に目が留まった
シャッターをためらわずに押すと
赤信号と青信号が同時に灯る信号機が
モニターに写し出された

真面目に生きてきた人へ
真面目に生きてきて
どうでしたか
真面目に生きてきて