太陽と風の香りがする
ベッドに顔をうずめて
透明な涙を零してみたら
滴はすぐに
見えなくなった
部屋に舞う埃の小宇宙
フッと吹き飛ばして
どの靴を履いて出かけようか
考えてみた
君は遠くて近いから
君はやさしくて残酷だから
ボクは君と無関係に
生きていく
さよなら
さよならをおそれた
愛しい時間たち
もう君がいなくても
足りない気持ちに
包まれて 寄り添って
生きてゆける
夜を待つ朝は
無骨な薬缶の冷めた水の心
なんのために
生まれてきたのか
思春期は遠く過ぎ去ったのに
青春の蹉跌は
錆びて胸に刺さったまま
心臓が鼓動を打つたびに
これでもか、これでもか、と
痛みを投げかけてくる
夜は眠るもの
朝は希望を抱いで外に飛び出すものと
オトナは教えてくれたけど
むしろ 夜の闇の中にしか
希望は見出せないと今 感じてる
なんのために生きているのか
自己満足のためなのか
それとも他人を満足させるためなのか
そもそも意志や思いなどは無関係なことなのか
大事なことは
口を開けて待っていても
学びようはなかったのだ
君の磁石はいい磁石かい?
何を引き寄せるというのだ
どこまでも渡ってゆける鉄の舟か
太古ににちりばめられた無数の恒星か
俺の磁石はいい磁石はかい?
何を弾き飛ばすというのだ
悪い連中が抱え込んだくすんだ名誉か
夜な夜な取り出して眺める不安と恐怖か
君の磁石はいい磁石かい?
何を預言するというのだ
大事なひとを即座に見分ける秘伝の術か
悪魔に出会わない藪の中の一本の小径か
俺の磁石はいい磁石はかい?
何を言いよどむというのだ
短い命が絶えるまでの残り時間か
悦楽と幸福を得るための生け贄のリストか
磁石は引き寄せ弾き飛ばし
預言し言いよどむ
人の胸の上で
踊り狂って光を反射して
暗くて寒い部屋
胸のところで缶ジュースみたいに
絶望を握りしめて
息を潜めているあなた
私は
あなたのことばかり
考えています
あなたにも
うれしさにみちあふれた
日々がありましたね
私にもありました
不器用なあなたは
大事なことを
いつも後回しにしないと
その大事さが分からなかった
幸せを放っておいて
人の幸せを願うという贅沢を
たくさんして
そんなに不幸に浸かってしまった
今度はあなたが
幸せになる番です
幸せをつかんだ人の
真似をしても
悪いことはないのです
私もそうしたいと
思っています
海の向こうから
潮風の香りの手紙がとどく
はりがねの形の平仮名が
洒落た置き物のような漢字をつないで
ほどけぬように
カタカナでとめてある
あなたの見慣れたイニシャルは
渡り鳥が羽を休める場所
私もなんどか
あなたにとまって
羽を休めた
そんなこともあった
地球の違う場所では
朝と昼と夕方と夜とが
それぞれの場所を覆っていて
みな
違う言葉で挨拶をしたりするが
黙っている場合もある
そういう私も
いま黙って
手紙が来るのを待っている
手紙というたとえをまとった
なつかしい
春の風が
てにしたしゅんかんに
あわくきえてしまうものがある
てにしなければよかったと
くいてももうおそい
ずっとてにしたかったものなのに
ずっとおいもとめてきたものなのに
どうしてそれは
きえてしまうのか
てにしては
いけないものだったのか
ほんとうはわたしは
きづいている
わたしがそれを
ほしいとねがうちからが
わたしには
いちばんだいじなものだったと
それがこころにあったとき
わたしのこころは
つよかった
みたされることをまちこがれる
つよいおもいで
わたしはいつもみたされていた
わたしとともにいた
だいじなじかん
あなたの前ではずんでいた白い鞠
私がポケットに隠し持っていた光るパイプ
あなたの髪が匂い立つ真昼のスコール
私の胸で渦巻く怪鳥の羽ばたき
あなたのものと
私のものを
一緒くたにして
たき付けに
くべてしまえ
その穴に
その竃の火に
やがて湯がたぎるだろう
湯に その辺の生命をそのまま投げ入れて
私たちは夜の間中
魔除けのダンス
やがて明け方の太陽が
夕焼け空を背景にしていると
初めて知るだろう
初めて知っただろう
もう気づくことはない
そんなふうに 思うことはなくても
毎日が新しいことの連続だった日々は
いつのまにか別世界を描いた絵のようだ
もう誤ることはない
そんなふうに 考えはしなくても
いつも間違った道に迷い込んでいたあの頃は
かさぶたとなってすでに消えた傷口のようだ
もう「いいひと」にはならない
そんなふうに 決意しなくても
すぐに人を信じてしまう性格は
皮膚に刻まれた曲がった笑い皺のようだ
もう私は私から抜け出したい
そんなふうに 望みはしなくても
そう願った日々の重い扉は
とっくに開け放たれていて出入りは自由だ
なみはさらう
りくちのものを
そのてにしたものを
うむをいわさず
ひきつれて
なみはつつむ
うつくしいもの
そうでないもの
おんどやいろさえ
同化して
なみは話す
太古と未知のはなし
いみのない繰りごと
その声がこきゅうと
まざりあったあとも
なみはしる
せつなのかがやき
むごんのよげん
なみだがかくまった
ちいさなこえも
なみはあそぶ
ほしとゆきをうずまいて
あさとよるを
ひとつにして
ふところに深海をかかえて
なみはありつづける
わたしがせかいから
しょうめつしても
心がつかれたら
重荷をいったん脇に置いて
ひと息つきましょう
ぎすぎすした衣を脱いで
日向ぼっこでも
してみましょう
好きな人と過ごした
きらめく日々を
思い出してみましょう
無垢な魂の
わがまま勝手な力を
体の芯に感じてみましょう
そして
あなたのように
心がつかれたひとのことを
見知らぬだれかが
どこかで
心配して祈りを捧げているのだと
信じてみましょう
それは全く
本当のことなのだから