2013年9月13日金曜日

歩き出したとき


道に小石とつぶれた空き缶が落ちている
空き缶と小石は仲間だ
そこに夕暮れの薄闇がやって来て
遠くで街灯が点いた

塀がある場所を
たまにひとがゆき過ぎる
塀の中で育っているキンモクセイの木が
花をつけて
その香りを放ち始める

電車の駅に
鈴虫がかくれて鳴きだした

頬にあたる風が
間もなくぬくもりを恋しがるようになるだろう

初めて好きなひとの手を握ると
すこししっとりとしていて青い香りがして
それはとうもろこしをもいだ時の感触と似ていた

それはまた
雷雨が過ぎたあとの
家の前の道を歩き出したときのようだった

2013年9月12日木曜日

嫌な人

自分を守る人。とにかく自分を守る人。自分がかわいい。自分だけ良ければいい。自分が守られれば、おこぼれを分け与えてあげよう。
手柄は全部自分。他人の持ちものにも手を延ばす。都合の悪いことは聞いていないことに。そのうち本当に聴こえなくなり、見えなくなり。
あっさり他人を犠牲にして、嘘はつき放題。たまにお涙頂戴トークを滔々と述べその陰に身を隠す。
そうなった理由は用意してある。言い訳は自分のため。自分で自分をいい人だと思うため。そしていつもいつでも自分はいいひとだ。ほれぼれする。かっこいい。ありがとう。

2013年9月11日水曜日

紙に

イラスト 一之瀬仁美




ある朝
机の上に
1枚の紙が置いてあった

どこからやって来たのだろう

その不思議な紙に
ぼくは生まれて初めて
一篇の詩を書いた

それから
どれだけの紙に
詩を書いてきただろう

パソコンを消して
紙に向かう




隙間があったら入りたい

隙間があったら入りたい
割れ目でもいい
裂け目でも構わない
私がそこに入ることで
願わくば
地球を少しでも平らにしたいのだ
平らな
すべやかな地表を
靴底で撫でて走らせたいのだ

裂け目を持ったあなたを
自らの裂け目を
磁石に使って
走るより速く
走らせたいのだ

私は身じろぎもせず
それに見入り
それが私の企てだと
いつかあなたに
打ち明けたいのだ

2013年9月10日火曜日

私はただ



初めて会ったとき
あなたは「さよなら」と言った

そして別れるときに
「よろしくね」と手を差し出した

私はただあなたのくちびるを見て
手を握った

2013年9月9日月曜日

秋の日が来なければいい


秋の日が来なければいい
冬の日も春の日も夏の日も来なければいい
何も来なければいい
ただあなたさえここに来てくれれば

2013年9月8日日曜日

私は道を歩いている


私は道を歩いているつもりでいるが
すでに体はどこかに置き去りになり
観念だけが道を進んでいる

私の観念は道を進んでいるが
道は堂々巡りに繋がっていて
私はいつの間にか後戻りしている

私の観念は堂々巡りで歩いているが
観念はいくつかに分裂していってしまい
私は複数形になっていてどの私が思っているか
分からない

2013年9月7日土曜日

私はいまから命を奪われるところだ

私はいまから命を奪われるところだ
いつものように道を歩いているが
まもなく(どんな方法かは知る由もないが)私の命は奪われる

なぜ奪われるかもはっきりしないが
ただ
ぼんやり生きてきたことへの報いなのだろうと合点がいっている

答えを出さないで生きていくと
この世間では上手く生きて行くことはできない
世間はいつでも答えを求めてくるから

世間と懇ろにやった風がなければ
抹殺されることも覚悟しなければならない

ゆえに
世間は私たちの先生であり
生きて行く場所だ

さて
多くの人の心に
詩はどこからもやって来ない
待ち構えている人の心を通過して
打ちひしがれた人の足元にポトンと落ちる
あるいはうらぶれた部屋の隅に一輪の花として差さてれいる

ため息が起こす風でも
言葉の葉は湿り
微かな揺れを伝える

2013年9月6日金曜日

教えてくれた

バスに乗って走っています
走っているバスの中にいます

夕日がバスに差し込んで来ます
バスの窓から夕日の光が入って来て私はそれを見ます

バスには何人かの乗客がいますが
私の他に夕日の光を見ている人はいるのでしょうか

夕日の光は見えていて見えていないことがあります
見えていることの方が少ないと私は思います

そこに昔見た夕日の光が混じり
その眩しい光のなかに
私の好きな人が私の好きな表情と格好でたっています

私は話しかけたいと思いましたが
バスが強烈にガタガタとゆれ
何人かの乗客も不覚にも一緒に飛び跳ねています
そんな状況のせいか
夕日の光のなかにいる私ねか好きな人も
ただ周りが少しでも静かになり
私が声をかけられる時がくるのを待っていてくれています

いや
待っていてくれているというのは
私が想像しただけのことです
このバスには衝撃を吸収する効果的な部品が入っていないようです

ばすは円明園にさしかかりました
三年前の12月に一人でやって来て
凍った池と西洋建築の遺跡を見歩きました

9月初旬の天気は穏やかで涼しく
冬支度をする余裕を与えてくれます
夕日は惜しみなくまだ車内に光をいれてきます
惜しみなくやっていきたいものだ
大きな声でしゃべりなさいと
あの詩人は教えてくれた

2013年9月5日木曜日

それは問題ではありません

まず鉛筆で下書きします
定規をあててまっすぐ書きます
息を止めて書きます
それからなぞって書きましょう

うまくかけましたか
あなたがなぞった
あなたのもの

誰かがお手本にして
書くでしょうか
書かないでしょうか

いまは誰にも分かりません
あなたにもたぶん
分からないでしょう

それは問題ではありません
それは問題ではありません