2023年5月13日土曜日

10秒の詩

 *1

お気に入りのカフェで
好きなことを考える自由
カフェで好きな飲み物を注文する自由
わざわざ自由と言ってみる自由
*2
自由とは自分で好きに作ること
自分や時間や物事を
好きなように作ること
その作ったものから離れていけること
*3
あの森に行きたい
緑の風が香るところ
季節がとどまって戯れているところ
夜には置いてきた自分を遠く想うところ
*4
帆が風を受けて見えない衝動を
形にしている
詩人は指を動かして
見えない風景をいま作り変えている
*5
フィレンツェで買ってきた青い器に
果物が盛られている
フィレンツェに抱えていった気持ちが
思い出される
フィレンツェで待ち合わせしたあの人と
また会いたい
フィレンツェの思い出話をして
きれいにさよならを言って
別れたい
*6
スマホは誰より身近な親友
いつも一緒に生きている
父が死んだときも
母の言葉を最初に伝えてくれた
*7
詩は語りかけてこない
詩はたたずんで読まれるのを待っている
詩は読む人を追い越さない
ただ たまに
読む人を懐かしい未来へと連れて行く
*8
痛みがあると
そこに自分がいることがわかる
粘土のように痛みをこねて
チューリップでも作ってみようか
*9
私の中にある痛み
私は痛みを包んでいる
痛み逃してやろう
痛みだけ
逃してやろう
*10
見えない愛を見てきたと
彼が言った
見えない愛を手に入れたと
彼女が言った
見えない愛がほしいと
私は思う
見えない愛はどこにある? と
みんなが探した
*11
憎いひとを憎むと
憎しみが腫れて
痛くなるから
憎い人には
絆創膏を貼りましょう
*12
そそくさと
したことがある?
もんどりうって
なにをした?
天を見上げて
なんと言った?
*13
「蝶」
毛虫とよばれた女の子
隣の町の
上級生と付き合って
根性焼きを隠さなかった女の子
きっと彼女はいい大人になって
僕より幸せになっている
だって 彼女の声が聞こえてくるんだ
あんたのことはもう許した
あれも悪くない思い出だった と
僕には確かめようがない
確かめることはできない
確かめるのが怖い
だからせめて祈る
毛虫の幸せを
強く念じて祈る
自分の弱さを守って生きていく僕だから
風が吹けば消えそうになる
蝶のように風を味方にできない
毛虫のような自分
*14
コップの中にある湖で
ボートに乗って
釣りをして
湖畔であのひととバーベキュー
それが連休の出来事

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