長い廊下の先には教室があります
途中には料理屋の客間や
新館と旧館の段差に作られた「7段階段」
女子更衣室
「女中部屋」と和室の客間
映画の舞台にもなった「土曜日の実験室」
上の方にに肖像画が沢山掛かっている
モーツアルトが学んだという音楽室
その入り口には「鮫島教諭」と記されたブレートが貼られています
小雨が降り始めた門から母が入ってきて
入り口脇の「コモンスペース」でミニライブをしていたふたりの詩人に
お金の入った封筒を渡そうとしました
私はそれをやっと静止して母を
教室へ連れて行くことにしたのです
そこは北京大学です
そのころ
印刷会社の夫妻はベンツのワゴン車で
丘の上の温泉の高級旅館に向かっていました
信号のつながりが悪く
ちよっとイライラしながら
しばらくして見えてきたのは
北京大学でした
私は長い廊下を印刷会社の社長と歩きながら
その先に何があるのか想像していました
その教室には
もうすでにこの世にはいない「女学生」たちが
一様に不満気な顔押して
黒板の方を向いていました
「ラオシー」と呼ばれる先生は中国人のはずですが
中国語が上手く話せないのです
まあまあまあまあ と言いながら
にぎやかな漫才師が入って来ました
漫才師はこの場を
放送の尺に合わせて何とかまとめてしまう自信があるようです
夕闇がいつの間にか窓の外で待っていました
ガラス窓を開ければ
妖怪のような口を開けて
彼らは入ってくるでしょう
出口を探すでもなく
ただ生ぬるく成り果てて
登場人物たちを腐敗させてしまうのです
2012年11月11日日曜日
2012年11月10日土曜日
11日111月
11月
どこかから賛美歌が風に乗って
大きな池のある公園を通り過ぎ
駅前の鳩のいるベンチの前の小さな広場に
聴こえてきたような気がしたその日
その穏やかな日の午後2時
そのひとは黄色いラインの電車に乗って
心の闇を見せに行く
白く入り組んだ瀟洒な建物の
まあるい噴水の音が聞こえそうな
植え込みの向こうの窓に
ちらりとそのひとの姿を見ることができる
午後3時
何人かと面談をして
会釈を繰り返しているうちに
心の目はおでこからはみ出して
でんでん虫のツノのように頭上に突き出していた
買ったばかりの白いスマートフォンで
電話をしなくては
私がここにいることを確かめなくては
そうして
白い糸にがんじがらめに巻かれた自分の様子を
デジタルカメラで撮影して
タイムラインに上げなくては
日暮れのオレンジ色の太陽が
ビルの向こうに落ちる前に
闇を消毒して
目を閉じてもなにも踏んでしまわないように
下の方を片付けよう
手を揉んで
リズムを掴む
心臓の鼓動と呼吸と瞬きと
言葉の早さを合わせるのだ
2012年11月9日金曜日
社長、あなたへの復讐
社長、私の気持ちがわかりませんか
あなたは
確かに私に優しいし
世界中のいろんな所に連れて行ってくれて
綺麗な景色や雄大な絶景や誰もいない海や
サバンナの草原も見せてくれました
きっと私一人では行くことが出来なかった場所
そしてあなたは私を愛してくれたし
いまも愛していると思う
だけど
ちょっと強い言葉になるけれど
あなたは勘違いしていると思う
バカにしているとおもう
人の気持ちや真面目なお勤めや一般人の考えることを
あなたは長財布にいっぱいお金やカードを入れている上
マイルやスタンプカードも細かく集めていて
無駄遣いもしないし節約もするけれど
小市民の楽しみを理解して古着も着るしB級グルメも食べるけど
女の子の好みもつぶさに調べて
私をびっくりさせるけど
私は不満がどんどん溜まっていっていることが
理解できないのですね
社長
あなたの会社はとてもうまくいっていて
業界からの期待も大きいけれど
あなたは仕事も一生懸命やるし
私のためにもたくさん時間を割いてくれるけど
私は不満なのです
あなたがなんでも上手くやってしまうところに
するするとすり抜けてしまうところに
あなたは友だちも大事にして
昔のサークルの友だちとはいまも釣りをしたり
飲みに行ったりしていますよね
そして決まってその帰り道に
私にメールをくれて
おみやげを持ってきてくれます
そんなことしなくていいのに
嬉しいけれど
無理しているように見える
上手く伝わるかどうかわかりませんが
もっと正直に
凄くやりたいことだけやってほしいのです
細かいことはいいから
社長 あなたは
私が不満を持っていることに耐えられないでしょう
私はよく分かっています
それも贅沢な不満です
でも
それだけに私にも始末が悪いと察してください
あなたは
じゃあ どうすればいいのだ と すぐ言って
それを解決しようとするでしょう
でも 解決しないで欲しいのです
私に不満を持ったまま
いさせてはもらえないでしょうか
きっとあなたにとっては我慢ならないでしょうね
そう言うと あなたは
我慢してもいいし 我慢するより
我慢しなくていいようにする と
言うでしょう
いいえ
私は 不満を持っていたいのです
その不満を持ったまま
あなたと付き合いたいのです
あなたが その 私の不満に
耐えて欲しいのです
耐えてでも 私を愛してくれるなら
私は いまより
もっと幸せに
不安な気持ちが薄れて
あなたと 初めて深い話が
不器用でもこころの通った話が
できると思うのです
だめですか
無理でしょうか
無理しないでください
いいえ
無理してください
理不尽な私の願いを
私と一緒に
抱いてください
私は 社長 あなたに
復讐をしたいのです
勘違いして
私を釘付けにして 身動きが取れない女にした
あなたに復讐を
あなたは
確かに私に優しいし
世界中のいろんな所に連れて行ってくれて
綺麗な景色や雄大な絶景や誰もいない海や
サバンナの草原も見せてくれました
きっと私一人では行くことが出来なかった場所
そしてあなたは私を愛してくれたし
いまも愛していると思う
だけど
ちょっと強い言葉になるけれど
あなたは勘違いしていると思う
バカにしているとおもう
人の気持ちや真面目なお勤めや一般人の考えることを
あなたは長財布にいっぱいお金やカードを入れている上
マイルやスタンプカードも細かく集めていて
無駄遣いもしないし節約もするけれど
小市民の楽しみを理解して古着も着るしB級グルメも食べるけど
女の子の好みもつぶさに調べて
私をびっくりさせるけど
私は不満がどんどん溜まっていっていることが
理解できないのですね
社長
あなたの会社はとてもうまくいっていて
業界からの期待も大きいけれど
あなたは仕事も一生懸命やるし
私のためにもたくさん時間を割いてくれるけど
私は不満なのです
あなたがなんでも上手くやってしまうところに
するするとすり抜けてしまうところに
あなたは友だちも大事にして
昔のサークルの友だちとはいまも釣りをしたり
飲みに行ったりしていますよね
そして決まってその帰り道に
私にメールをくれて
おみやげを持ってきてくれます
そんなことしなくていいのに
嬉しいけれど
無理しているように見える
上手く伝わるかどうかわかりませんが
もっと正直に
凄くやりたいことだけやってほしいのです
細かいことはいいから
社長 あなたは
私が不満を持っていることに耐えられないでしょう
私はよく分かっています
それも贅沢な不満です
でも
それだけに私にも始末が悪いと察してください
あなたは
じゃあ どうすればいいのだ と すぐ言って
それを解決しようとするでしょう
でも 解決しないで欲しいのです
私に不満を持ったまま
いさせてはもらえないでしょうか
きっとあなたにとっては我慢ならないでしょうね
そう言うと あなたは
我慢してもいいし 我慢するより
我慢しなくていいようにする と
言うでしょう
いいえ
私は 不満を持っていたいのです
その不満を持ったまま
あなたと付き合いたいのです
あなたが その 私の不満に
耐えて欲しいのです
耐えてでも 私を愛してくれるなら
私は いまより
もっと幸せに
不安な気持ちが薄れて
あなたと 初めて深い話が
不器用でもこころの通った話が
できると思うのです
だめですか
無理でしょうか
無理しないでください
いいえ
無理してください
理不尽な私の願いを
私と一緒に
抱いてください
私は 社長 あなたに
復讐をしたいのです
勘違いして
私を釘付けにして 身動きが取れない女にした
あなたに復讐を
2012年11月8日木曜日
暗黙と沈黙の上に
誰からも許可をもらわないまま
生きている「私」
勝手に生きていて
いいものだろうか
なんとなく勢いで生きているが
時に想念の強い波動に溺れそうになったりするが
暗黙と沈黙の上に布団を敷いて
今日も眠りにつくだろう
生きている「私」
勝手に生きていて
いいものだろうか
なんとなく勢いで生きているが
時に想念の強い波動に溺れそうになったりするが
暗黙と沈黙の上に布団を敷いて
今日も眠りにつくだろう
2012年11月7日水曜日
ある 日の 午後
あひるが 手のひらのパンを食べるよ
あひるは
くちばしは黄色くて
軟かい木のおもちゃのよう
手のひらに握っていたスマホは
私を呼んでくれないから
机の上に放置してきた
それと一緒に
きのうまでのわだかまりも
あひるの くちばしが震えて
パンを喉の奥へと送っている
あひるは 食べる時
手を使わない
あひるは 直接 地面に置いてある
脚の上に置いてある
アヒル形の あひるが
直接 パンを食べている
ある 日の 午後
あひるは
くちばしは黄色くて
軟かい木のおもちゃのよう
手のひらに握っていたスマホは
私を呼んでくれないから
机の上に放置してきた
それと一緒に
きのうまでのわだかまりも
あひるの くちばしが震えて
パンを喉の奥へと送っている
あひるは 食べる時
手を使わない
あひるは 直接 地面に置いてある
脚の上に置いてある
アヒル形の あひるが
直接 パンを食べている
ある 日の 午後
2012年11月6日火曜日
この国の人
丈夫できれいなお家を造りました
外国から舟で運んできたデザインのいい上等な家具と
カーテンとベッドと布団も食器も買いました
いい音のするスピーカーとアンプも揃えました
カラーコーディネートやガーデニングを学び
見えない部分まできれいにしました
この国のいいものに
よその国のいいものを組み合わせて
上手に調和させていきました
ある人は
そこまでお金をかけることができないから
機能的で快適な家を造りました
そしてその場所を一生懸命掃除しました
自分の家のない人も
大概 部屋を借りて
生活をよくしようと頑張りました
道は整備され鉄道は敷かれ
電気と下水道が整備され
インフラが充実して行きました
ときには無駄なものも造りましたが
必要と思われるものを先回りしてどんどん造っていきました
そして最後に造るものがなくなってしまいました
それでも
隙間を見つけては
造り続けていこうとしました
しまいには 造っては壊し
造るために壊し
訳も分からず 更新して
見捨てられたものだけが
古びて行きました
造る力は有り余っているのに
造るべきものがなく
とうとうお金も回らなくなってしまいました
しかし権力者は
お金を着服し続けました
我儘に 好き放題に
お金の力でお金を集めました
この国を旅しに訪れた
旅人は思いました
この国はなんと美しく行き届いていていることか
いいものが
溢れかえっている様子に
驚きながら
この国の人の泣きそうな顔を眺めていました
2012年11月5日月曜日
死にたい
死にたい
というのが彼女の声に出さない口癖
死んでしまった方が楽だろうか
確信が持てないのは
死んだことがないから
死ぬと
体から魂が離れて
楽になるというが
眩しい光やお花畑のいい香り
懐かしい人や風景に出会える
生活のためにいやな仕事をする必要もなくなる
しかし
楽したいから死ぬのかというと
ちょっとちがう
そんなに楽をしたいわけではない
世間の建前では
人の命は大事なものだ
尊厳や夢よりも上位だ
何千何万人の不都合よりも
うず高く積まれた札束よりもだ
生きている価値のない人間でさえ
価値ある人間と同じく
殺すことはできない
死ぬ価値がある人さえ
殺すことはできないのだ
老人になって
世間が賞賛する仕事を初めてしてしまうことがある
それが棚ぼたや偶然でも
そういうことがあると
本人も自信をもち
生きていてよかったと満足する
楽したい
死にたいと
ずっと思っていたとしても
それはご破算となり
生きることの快楽に執着する
さて
白鳥と鶴は別の鳥だっただろうか
鶴のことを白鳥の一つと
勘違いしていた男は
自分と他人の区別もできずに
考えている
彼女はさっきから朝焼けの天空の下で
茫然としている
生きている価値がある人と
死ぬ価値がある人を混同しているのは
誰だい?
というのが彼女の声に出さない口癖
死んでしまった方が楽だろうか
確信が持てないのは
死んだことがないから
死ぬと
体から魂が離れて
楽になるというが
眩しい光やお花畑のいい香り
懐かしい人や風景に出会える
生活のためにいやな仕事をする必要もなくなる
しかし
楽したいから死ぬのかというと
ちょっとちがう
そんなに楽をしたいわけではない
世間の建前では
人の命は大事なものだ
尊厳や夢よりも上位だ
何千何万人の不都合よりも
うず高く積まれた札束よりもだ
生きている価値のない人間でさえ
価値ある人間と同じく
殺すことはできない
死ぬ価値がある人さえ
殺すことはできないのだ
老人になって
世間が賞賛する仕事を初めてしてしまうことがある
それが棚ぼたや偶然でも
そういうことがあると
本人も自信をもち
生きていてよかったと満足する
楽したい
死にたいと
ずっと思っていたとしても
それはご破算となり
生きることの快楽に執着する
さて
白鳥と鶴は別の鳥だっただろうか
鶴のことを白鳥の一つと
勘違いしていた男は
自分と他人の区別もできずに
考えている
彼女はさっきから朝焼けの天空の下で
茫然としている
生きている価値がある人と
死ぬ価値がある人を混同しているのは
誰だい?
2012年11月4日日曜日
明かりの見えない森のなかに
明かりの見えない森のなかに
投げ出され放置された人
昨日までは毎日宴会をして
いい酒を飲んでいた
身ぐるみ剥がれて猿ぐつわをされ
縛り上げられた人
昨日までは笛を吹いて
威張っていた
苦しさの極限にいる人
絶望に覆われた視界
ただ明日を夢みるばかり
昨日に帰ることはできない
明日の日がくれば
明後日になにを思う
腐りかけた豆乳が冷蔵庫で待っている
投げ出され放置された人
昨日までは毎日宴会をして
いい酒を飲んでいた
身ぐるみ剥がれて猿ぐつわをされ
縛り上げられた人
昨日までは笛を吹いて
威張っていた
苦しさの極限にいる人
絶望に覆われた視界
ただ明日を夢みるばかり
昨日に帰ることはできない
明日の日がくれば
明後日になにを思う
腐りかけた豆乳が冷蔵庫で待っている
2012年11月3日土曜日
5角形の白い扉
私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。
逃げ込んだ家は郊外の小高い丘に続く緩やかな坂道の途中の
低い崖の上にあり道路を挟んで向かい側に空き地があった。
その空き地は駐車スペースに利用できたので、いつも何台かの車が停まっていた。
昨日降った雨で駐車スペースはすこしぬかるんでいた。
晩秋らしく枯れた夏草が無秩序に生えていた。
家の扉は「5角形の白い扉」で、目の高さに明かり取りのくもりガラスが埋め込まれていた。
80年代生まれの女、Rと私はフローリングに置かれたベッドの上でむさぼり寝ていた。着の身着のままでここにやってきたので、彼女は昼間のままの服装で、下だけ脱いでいた。何かの気配で目を覚まし、危機が迫っていることを察して目を見合わせた。
今まで眠っていたと思えぬほど凛々しい表情で、互いの動きも素早かった。
私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。
次の瞬間、私たちは身を縮めて豆粒になり、そこに飛び込んだ。
その瞬間、遠くでドアを叩く音がした。
ドアを開ければ放射能が入ってくることは間違いない。それを伏せておいて、刺客はドアを叩いて、やがては、壊して入ってくるのだ。
刺客が入ってきた時、私たちはすで裏をかいてに駐車場に来ていた。素早く車に飛び乗って走り去らなければならない。
彼女はすでに飛び乗って態勢を低くしている。
私は一気にかけ出して乗り込むと、キーを挿してエンジンを入れ、アクセルを踏み込んだ。
追っ手は追って来なかった。
逃げ込んだ家は郊外の小高い丘に続く緩やかな坂道の途中の
低い崖の上にあり道路を挟んで向かい側に空き地があった。
その空き地は駐車スペースに利用できたので、いつも何台かの車が停まっていた。
昨日降った雨で駐車スペースはすこしぬかるんでいた。
晩秋らしく枯れた夏草が無秩序に生えていた。
家の扉は「5角形の白い扉」で、目の高さに明かり取りのくもりガラスが埋め込まれていた。
80年代生まれの女、Rと私はフローリングに置かれたベッドの上でむさぼり寝ていた。着の身着のままでここにやってきたので、彼女は昼間のままの服装で、下だけ脱いでいた。何かの気配で目を覚まし、危機が迫っていることを察して目を見合わせた。
今まで眠っていたと思えぬほど凛々しい表情で、互いの動きも素早かった。
私は彼女をトイレのドアへと導き、白く輝く便器を指さした。
次の瞬間、私たちは身を縮めて豆粒になり、そこに飛び込んだ。
その瞬間、遠くでドアを叩く音がした。
ドアを開ければ放射能が入ってくることは間違いない。それを伏せておいて、刺客はドアを叩いて、やがては、壊して入ってくるのだ。
刺客が入ってきた時、私たちはすで裏をかいてに駐車場に来ていた。素早く車に飛び乗って走り去らなければならない。
彼女はすでに飛び乗って態勢を低くしている。
私は一気にかけ出して乗り込むと、キーを挿してエンジンを入れ、アクセルを踏み込んだ。
追っ手は追って来なかった。
2012年11月2日金曜日
世の中に弾かれて
世の中に弾かれて
自分から出ていった
スピードに乗れなくて
脇道に入っていった
言い訳をしたくなくて
黙って座っていた
争いが嫌いなので
花の種を配った
青空が好きなので
雲と一緒に消えていった
自分から出ていった
スピードに乗れなくて
脇道に入っていった
言い訳をしたくなくて
黙って座っていた
争いが嫌いなので
花の種を配った
青空が好きなので
雲と一緒に消えていった
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