靴音が自分の前を歩いていく。他人の靴音ではない。自分の靴音だ。坂を上るとき、私は自分の靴音が自分を追い越して、前のほうで鳴っている錯覚から抜けだすことができない。
そういえば、いつか、学校の授業中に先生が言った。視覚より聴覚のほうが尊いんです、格が上。神さまにキコシメスって言うでしょう? と。真面目な私はそれ以来、目に見えるものより聞こえるもののほうが大事に思えてきた。自分の発する音が自分という「本体」から分離して、坂を上るときには前のほうに行ってしまっているのはそのせいかもしれない。
☆ ☆
駅までの道を
靴音響かせて歩く
上り坂のまっすぐな道
車が沢山通っている
人々が行き交っている
駅までの道は
にぎやかな道
それでいて孤独な道
駅までの道は
繰り返す道
日常の上を
通り過ぎようとする道
駅までの道は
妄想の道
いけないことが
浮かんでは燃え上がる道
駅までの道は
雨が降ると
傘が行き交う道
大事な事をしにいく道
駅までの道に
抱きしめられる
駅からの道で
そっぽを向かれた後に
駅までの道は
たしなめてくる
駅までの道は
昨日までとは違う道
駅までの道は
昨日とすこしも変わらない道
駅までの道は
永久に世間話をする
駅までの道が
冷たい手で握手を求めてくる
駅までの道は
もう通わない道
二度と歩かない道
二度と振り向かない道
帰り道と一緒に消えていく道
駅までの道が愛おしくなりました。
返信削除もう二度と歩かなくなる、そのときまで、
一歩一歩を踏みしめたいです。
(写真も素敵^^)