僕は年老いて指揮棒を振る
それに合わせて
楽器を奏でる楽団は見当たらない
もちろん歌を唄う歌手もいない
僕はいつかみた映画の
ワンシーンのように
森の中で指揮棒を振る
たまに
鳥や獣が興味ぶかげにみているが
直ぐに
何処かにいなくなってしまう
だから
だいたいはひとりで
指揮棒を振っている
だか彼には
楽団とピアニストが
彼の動きや表情を注意ぶかく観ているのが見えるので
彼は
気を緩めることなない
彼の唇には
いくつかの国の言葉が
かわるがわるたち現れるが
すぐにどこかに消えてく
隠れていたものたちが
彼の指揮によって
たまに姿を見せたり見せようとしたが
彼はその気配を感じ
それを織り込んで
さらに先を指揮した
すると突然
ひとりの美少女が
砂浜の道を駆けていったかと思うと
また戻ってきて
親しげに彼の顔を覗き込んだ
彼は狼狽したのを悟られないように
海のほうを向いて
意味のないセリフを吐いた
美少女は屈託なく笑ったが
それができたのは
深い悲しみと向きあい
それを押しやる術を学んだからだった
僕はそれにやっと気づいた時
彼女の姿はその国になかった
波音が森の上空を回り
何処からか銃声が聞こえてくる
彼ももうここにはいない
僕は
いくつかの国の言葉を
詩のリフレインのように発して
携帯の電源を切り
森に還すため
土に沈めた
「彼」は、もう一人の自分ですか?
返信削除指揮者は棒一本で、様々な楽器を奏でられますね。
最も偉大な奏者のようです。
でも、一人だけでは成り立たないのですね。
孤独には理由があって、だから人と繋がれるのでしょう。
返信削除そう感じました。