2012年12月31日月曜日

地面がつながっているということは

私の下で地面がつながっている
だから寝返りをうっても安心
地面がつながっているから
下に落ちてしまう心配がない
だから幸せ

地面がつながっているということは
空にとっても安心
覆いつくす雲も胸をなでおろす
雲が裂けても
たとえ さらに空が裂けても
地面が支えてくれるから

地面がつながっいるということは
歩行する動物にとって
安息の地であるということ
歩行にあわせて
息をリズミカルに弾ませることもできる

地面がつながっているということは
空と地面の間にテントを張って
私たちは眠ることができる
地面に縫い目のように覆いかぶさり
眼という膚の裂け目を閉じて
見えるものから解放されて

2012年12月30日日曜日

君を見守る

いま写した君の写真の横に
生まれたばかりの頃に撮られた
君の写真を並べてみる

二枚の写真の間には
君がいままでに生きた時間が
挟まれている

その隙間に
どんなことがあり
どんな人びとがいるのか
君が一番知っているはずだ

君は私が差し出した二枚の写真を
なんともいえぬ表情で見ている
私に気遣ってくれているのが分かる
君はそうして周りの人を気遣ってきた
自分の不器用さも認められるようになった
きょうは君の誕生日だ

君はその命をふる里の地で引き受けてから
その力強さと得体の知れなさに悩まされながら
必死に生きてきた
その姿が人を感動させたこともたくさんあった

いま君はどんな気持ちでいるのかな
目の前にいるのに分からない
二枚の写真の隙間が
私たちを見守っている

窓の外の寒い街並の上空では
無数の星が私たちを見守っている

2012年12月28日金曜日

フェダーの部分だけをはずして

マイクロホンミキサーのフェダーの部分だけをはずして仕舞おうとしていたので
私は文句を言った
そこまで分解すると次回使うときにあちこちを探し回って組み立てなければならない
石庭を通って機材を運び入れている連中は
若い割には皆達者な仕事師ではあるが
たまに意味不明の行動をとる

和風の平屋建築の奥に機材室があり
出張の仕事を終えるとそこに格納することになる

私はその会社の社長をしているが仕舞うことにかけては
右に出るものがいないと自負するほど
手際よく美しく仕舞う

番頭に当たる男はスタッフの中では唯一私より年上の技術者だ
不器用で粗相が絶えないのであまり信望がないが
創業時からの大事な人間なので
悪い見本としながらも重用している

彼には6才の息子がいる

私は高校時代
足を怪我して運動会に出られなかった苦い思い出がある
またほとんど出席しなかった幾つかの授業の教科書を紛失し
単位取得に必要な時間数も計算できないでいた
中には必修科目もあり
卒業も危ぶまれた

石庭は先祖から受け継いだものだが
先祖の影はない
私は小さいころから当主として
この庭と家を守ってきた
父は南米にばかり行き通しで
母は大人しい心配性の女性だったので
ほぼ母屋のリビングとキッチンと寝室で暮らし
仕事にはタッチしなかった

その日
私は期限が来て会社を辞めることになっていた
だが
いつもの同じように
撤収してきた機材が長閑な庭を通って
機材室に運ばれていた
やがて機材室に大きな錠前が掛けられた

縁側に穏やかな日差しが当たっている
猫が鈴を鳴らした
青空の向こうに熱線を放つ爆弾が落ちたのはその時だった

2012年12月27日木曜日

もっていても

もっている人

もっていない人

 

もてる人

もてない人

 

もてなくもない人

もてなくもなくない人

 

もてていなくもない人

もてていなくもなくない人

 

もってくる人

もっていく人

もってこなくもない人

もってこなくもなくもない人

 

もたれている人

もたれていない人

 

もたれていっていない人

もたれていかないでいる人

 

もっているのかいないのか

もっていないのかいるのか

もっているとどうか

もっていないとどうか

もたれてもっていない

もれなくもたれていて

もっていない人

 

もっていない人より

もっている人がいいですか

 

どちらでもいいです

2012年12月26日水曜日

父の署名

死んだあとも
くっきりと在り続ける父の署名は
わだかまりを支えたまま
時の流れを渡って行く

はっきりしないことだらけの世の中を
いつ知ったのか
同じ通学路を何度も歩くうちに
大事なことは結論ではなく過程だと
いつから訳知り顔でいられたのか

冷たい風の後に何がやってくるのかを
予定表に書き込んで
未来の予定も書き込んで
オルゴールのように人生を奏でる

署名は歌わず
世の矛盾の訳を理解せず
佇んでいる

私は誰かに詫びたい気分になり
ペンを手に取るが
名前さえ書く勇気がなく
検索窓に名前を打ち込んで
結果と対峙しない理由を探し始める

2012年12月25日火曜日

それが私の人生さ

隠すことに夢中になって
大事なことは後回し
それが私の人生さ

真剣勝負はなるべく避けて
誤魔化しやりくりしてばかり
それが私の人生さ

気づいたときには手遅れで
それでもそれも知らんぷり
それが私の人生さ

それが私の
つまらぬ人生さ

2012年12月24日月曜日

吹きだまりの星

吹きだまりでやさぐれた心を自ら癒そうとして
煙草に火をつけた
赤い火の玉を燃やし煙を纏う君
クリスマスの音楽と騒ぎ声で溢れるあたりに
人気がなくなったら星屑でも拾いに行ってみるかと君は
頭の端っこで思っているが
疲れに襲われたらいつものように
朝まで夢の中をさまようことになると知っている

幸せの記号がどんなものか知らないまま
それはいつか引っ越してきたお嬢さんが首につけていた
あの光るナニのようなものかと思っていたこともあったが
幸せを掴み損ねた脱落者とつるむようになり
幸せがどんなものなのか考えるセンスも
ヒントさえも忘れてしまった
ご縁がなかったということでごめんなさい
と世界中の天使や神様や悪魔にも言われたような気がしていた

クリスマスツリーは
よく燃えるのかな
飾りをいっぱいつけた巨木はさぞかしよく燃えて
山裾の廃墟の低い窓からもよく見えることだろう

寒さがどんどん増してくるのがわかる
煙はまだその辺を漂っているが
こんな夜に猫は喧嘩して唸っている
沈黙がこわいわけじゃあるまいに

壁の中が透けてみえるのは
マッチ売りの少女の話
あれは本当は娼婦の話だとどこかのバカが言っていた
あの子は幸せになったのか憶えていない
多分なっていないだろう
なっていたとしてもすぐに終わっただろう

人が幸せを感じるのは他人よりマシだと感じた時
あるいは諦めがついた時
あるいはどうでもよくなったとき

吹きだまりの君は煙草を投げ捨てて空中で
スニーカーで蹴り上げた
赤い流れ星に気づいたものはいなかった

風を光に変えます

風を光に変えます
光を言葉に変えます
言葉を風に変えます

ケーキはいかがでしょう 2