2010年9月23日木曜日

ふくらむ小峰

小峰はまだまだふくらんでいく
小峰はずんずん伸びていく
小峰はるらるら歌っている
小峰はとんとん冷えている
小峰はきしきし立っている
小峰はりらりら溶けていく
小峰はすりすり熱していく
小峰はねたねたまったりとする
小峰は小峰のことが分からない

2010年9月22日水曜日

観察

小峰は
山より小さい
大地の
ふくらみ

雨にぬれ
水を吸い
くぼみに
ちいさな水たまりをつくり

人を登らせる
生き物を
這わせる

小峰は
来るものを拒めないのだ


くぼみは
水分を
静かに
蒸発させる

そうすることで
小峰は
平静を
たもてるから
月に照らされた
小峰を
横から見ると

いつもと違う
感じがした

2010年9月21日火曜日

合唱祭

みんなに交じって小峰が歌っている
ふくらみはじめた夢

小峰の声が
聴こえる

小峰がからだを揺らして
歌っている

小峰の周りも歌っているが
それと競うように小峰は歌う

声を出すことが気持ち良さそうに
よろこびを湛えている

合唱が盛り上がる
小峰も盛り上がる

小峰と一緒に
僕も盛り上がる

いつか小峰の名前を呼びたい
小峰はそのときは歌わない
歌は胸の中にしまいこみ
僕の名を呼ぶだけ

2010年9月20日月曜日

夏の瞳

お店の中を覗き込んだら
きれいなお姉さんと目があった
かるい笑みをうかべていた彼女は
目があうとはじかれたように
瞳をそらし
すぐに また一瞬僕の方を見た
今度は僕が瞳をそらした
彼女もまたそらした

僕は扉を開けて彼女に告白し付き合いすぐに結婚し
三人の子をもうけた

僕はその店の前に何となくたちどまった
彼女は椅子に座って何かをしていたようだった
彼女がその店の客なのか店員なのか
僕は分からず迷った
目があった瞬間
僕は恋をした

近くで大音量のスピーカーが
J-popを流していた

斜め向かいの店でカツカレーを食べる
そのあいだじゅう
僕は彼女の瞳を思っていた

夏の最後の日差しが
店前に光を当て
人が行きかっている

川の流れの音が時折聞こえてくる
きれいなお姉さんはあの店で
何を感じているのだろう

さようなら
またここに来た時
時間が止まっていたように
あの瞳は僕の瞳に焦点をあわせるだろうか

そらさずに
あわせつづけることに
どれだけたえられるか

2010年9月19日日曜日

おりこうさん

おりこうさんのありんこさんは
りこんしてから
ありがとう

ありげーだーのけいたいでんわ
げーむしながら
けいさんできる

さんだるはいてるさんたくろーす
たくはいぎょうむに
くろうさんたん

2010年9月18日土曜日

終わりへ

たき火のにおいがした
雲と煙は友だちなのだろうか
あるいは霊はどうなのだろう

盆地に夕焼けが落ちていく
灯りの数が増えていく
互いにシーソーをしているのだろうか

高地から低地へ
都市から田舎へ移動する
海は今も凪いでいないだろうか

沈黙をすることが
美しい人を引きつけることがあるだろうか
傷つけるよりも多く

電車が線路をならして走っている
その重さに何が含まれているのだろう
まさか過去の駅で乗せた重い荷物も?

この詩も終わりに近づいて
僕のブログへ旅立とうとしている
終わりは旅立ちの合図なのか

2010年9月17日金曜日

狂詩曲

どうにか なって しまいたい
どこかに いって しまいたい
と きみは
微笑みながら 云うから
何が本当なのか 
わからなくなってしまう

いつになっても このままがいい
どこにも いかないで
と きみは 
真剣な顔をして 云うから
ぼくは 
動くことができない

虫たちが羽をこすり
植物がこっそり 受粉する

一人ぼっちの夜よ
あと何回 
ぼくに やってくるのだ
呼びもしないのに

季節の変わり目や
人々の夢の上を
乗り越えて

2010年9月16日木曜日

夜明け前の暗い道に
生ぬるい 雨が降る

目覚める前の僕の耳に
入り込んで来る 微かな声

書きかけの手紙から
気化して行く 愛の想い

うつむくきみの心に
浸み込んで行く ちいさな一粒の滴

2010年9月15日水曜日

30円のコーヒーチケット

金券ショップでチケットを買う
120円のコーヒーチケットが
とても安くて1枚30円
ぼくは迷わず「5枚」と云った

1枚30円で買ったコーヒーチケット
1枚目は新宿の店

ノートを広げて思いついたことをメモ
やらなければならないことを箇条書き
今日しなければならないことは
今日なんとかし終えた
明日は明日しなければならないことをする
あさってしなければならないことは
あさってすることに決めた

1枚30円で買ったコーヒーチケット
2枚目は赤坂の店

15人ほどの人間が思い思いに
それぞれ時間を過ごしている
誰もがしなければならないことを
両手いっぱい抱えている
締め切りに追われて生きている人がいる
ノルマに縛られ一生懸命
自分を逃す道を探す人も

1枚30円で買ったコーヒーチケット
3枚目は大宮の店

将来のこと考えれば考えるほど
ぼやけてきてしまうのはなぜか
友達に聞いても同じ問いが
返ってくるだけだから
いつのまにか問うことの代わりに
紛らわすことがうまくなった
自分を責めて苦笑して

1枚30円で買ったコーヒーチケット
4枚目は仙台の店

高速バスで早朝の街に着くと
街が目覚めるまでまだもう少し
気だるさと懐かしさを傍らに
過ぎ去った人を思う
同じ場所で朝のコーヒーを飲み
夢見ていた愛の生活
この場所は変わらないまま

1枚30円で買ったコーヒーチケット
5枚目は待ち合わせ

手を小さく振って近づいてきたのは
さよならをし忘れたからですか
そんな意地悪言っても
笑いあえる不思議
ぼくは30円でここにいるけれど
君の分のチケット買い忘れた
あと一枚買えばよかった

2010年9月14日火曜日

秋の事件Ⅲ

誰かが小声で囁いている
少女というにはしっかりとした口調
そして優しさと強さを併せもっている
なにか強い思いがあるのだろうか

声は囁きをやめない
日がな一日 止むことはない
辛くはないのだろうか
知らぬ間に誰かと入れ替わっているのだろうか

いや、そんなことはない
声は確かに同じ声だ
そして繰り返し 唄のように
挨拶の言葉のように 発せられる

夜に鳴き始めた虫たちさえ
黙り込んでしまった
声はどこまでも進んでいく
空気を振動させて

時には 風に逆らって
震えながら
そして馬車に飛び乗るように
季節の流れに身を投じると
下流の町へと消えていく

その町で
きょう 信号が変わる瞬間
一人の少女が ため息をついた

声はなく
もちろん 笑みもなく