まだ行ったことのない場所が
写真の中から誘っている
私はここでこうして生きてきたと
愚痴まじりの味わい深い話を始める
ここ日本は
2014年1月。1週間前からの天気予報が当たって
夕方から雨になった。
耳が寒さの向こうに
聞き耳を立てているのは
寂しいからじゃなく
未来の友だちを捜しているのだ
その写真には
葉がすっかり落ちてしまって
だがもう間もなく芽吹きそうな
広葉樹
雨上がりの濡れた道
その向こうに
雲の小どもが遊びにきそうな池
私は
部屋に帰ってきて
何かを整理するつもりもなく
だだ思いや視線を巡らせ
部屋の中を行き来し
昨日の残りの麻婆豆腐を
暖めて食べた
まだ行ったことのない場所が
誘ってくれているのは
幸せなことだ
そんな場所が
まだ五万とあり
その数は死ぬまで大差なく減らないだろう
私は
まだ行ったことのない場所に
行きたいし行きたくない
だが
ただどこかに
まだ行ったことのない場所があることが
私を生かしている
と言うことができるのだ
愛するとは
裂けた傷口を癒すことだ と
あんたは言った
一緒にいると
周りの空気が淀んでくるよ と
あんたは言った
離れていると
あんたを恨みたくなるんだ と
あたしは言った
波風が立たないと
不安と絶望で眠れないよ と
あんたは言った
そして
あんたはいなくなった
嵐の夜が終わった朝の
金色の日差しの矢の中
あたしもいなくなった
得意なことを自慢しているあなたの
眼の輝きが好き
苦し紛れのいい訳を探すときの
あなたの声が好き
海でも見に行くかと
ぶっきらぼうに誘うあなたが好き
階段をひとりで走って上っていってしまう
気遣わないあなたが好き
お前は何がほしいんだと
決めているくせに訊いてくるあなたが好き
あなたが好きで好きでどうしようもない
のぼせちゃってる私も好き
サンダルつっかけて
夜道に星屑 落下星 探しにいこう
冷たい風にあたり
ぼやけた気持ちをしゃっきりさせます
小さな勇気を取り戻します
忘れてはいけないもの
それは
真空の夜空から見守っている星
春風を生む暗い海
あなたが作りだすことができる未来
覚えていてほしいこと
私たち出会えたこと
離れたあとも忘れない
あなたの手の温もりが残って
いまも私を励ましている
電車にとびのれば
すぐに生まれ育った街に行ける
そこには見慣れた道
街路樹
駅前のビル
まだ
あなたと私が一緒にいたころの
思い出が
影のように 遺ってる
もう一度出会いたいなんて言えない
あの頃の私たち
楽しすぎて
輝いていたから
いまは静かに時を
やり過ごしている
その時を
美しい色に染め上げたくて
暮れ行く街
遠く 道の見えなくなるあたり
まだ
あなたと私
ふざけながら
歩いていそうで
太陽と風の香りがする
ベッドに顔をうずめて
透明な涙を零してみたら
滴はすぐに
見えなくなった
部屋に舞う埃の小宇宙
フッと吹き飛ばして
どの靴を履いて出かけようか
考えてみた
君は遠くて近いから
君はやさしくて残酷だから
ボクは君と無関係に
生きていく
さよなら
さよならをおそれた
愛しい時間たち
もう君がいなくても
足りない気持ちに
包まれて 寄り添って
生きてゆける
夜を待つ朝は
無骨な薬缶の冷めた水の心
なんのために
生まれてきたのか
思春期は遠く過ぎ去ったのに
青春の蹉跌は
錆びて胸に刺さったまま
心臓が鼓動を打つたびに
これでもか、これでもか、と
痛みを投げかけてくる
夜は眠るもの
朝は希望を抱いで外に飛び出すものと
オトナは教えてくれたけど
むしろ 夜の闇の中にしか
希望は見出せないと今 感じてる
なんのために生きているのか
自己満足のためなのか
それとも他人を満足させるためなのか
そもそも意志や思いなどは無関係なことなのか
大事なことは
口を開けて待っていても
学びようはなかったのだ
君の磁石はいい磁石かい?
何を引き寄せるというのだ
どこまでも渡ってゆける鉄の舟か
太古ににちりばめられた無数の恒星か
俺の磁石はいい磁石はかい?
何を弾き飛ばすというのだ
悪い連中が抱え込んだくすんだ名誉か
夜な夜な取り出して眺める不安と恐怖か
君の磁石はいい磁石かい?
何を預言するというのだ
大事なひとを即座に見分ける秘伝の術か
悪魔に出会わない藪の中の一本の小径か
俺の磁石はいい磁石はかい?
何を言いよどむというのだ
短い命が絶えるまでの残り時間か
悦楽と幸福を得るための生け贄のリストか
磁石は引き寄せ弾き飛ばし
預言し言いよどむ
人の胸の上で
踊り狂って光を反射して
暗くて寒い部屋
胸のところで缶ジュースみたいに
絶望を握りしめて
息を潜めているあなた
私は
あなたのことばかり
考えています
あなたにも
うれしさにみちあふれた
日々がありましたね
私にもありました
不器用なあなたは
大事なことを
いつも後回しにしないと
その大事さが分からなかった
幸せを放っておいて
人の幸せを願うという贅沢を
たくさんして
そんなに不幸に浸かってしまった
今度はあなたが
幸せになる番です
幸せをつかんだ人の
真似をしても
悪いことはないのです
私もそうしたいと
思っています
海の向こうから
潮風の香りの手紙がとどく
はりがねの形の平仮名が
洒落た置き物のような漢字をつないで
ほどけぬように
カタカナでとめてある
あなたの見慣れたイニシャルは
渡り鳥が羽を休める場所
私もなんどか
あなたにとまって
羽を休めた
そんなこともあった
地球の違う場所では
朝と昼と夕方と夜とが
それぞれの場所を覆っていて
みな
違う言葉で挨拶をしたりするが
黙っている場合もある
そういう私も
いま黙って
手紙が来るのを待っている
手紙というたとえをまとった
なつかしい
春の風が