私の考えは
鉛筆で書く
文字を書き間違えるように
考えもよく間違えるから
私の思いは鉛筆で書く
書き終わった途端に変わるから
きらいな人も好きな人に変わるから
私の未来は鉛筆で書く
あなたが消して書き直せるように
未来は独り占めできないだろうから
絵 一之瀬仁美
いつまでも
ここにすわっていたい
この席に
いまは
駅前の
クリスマスのイルミネーションを借景に
珈琲の香りが漂い
ほどよく賑わっている
今ふうのカフェだが
まわりのひとが
すべていなくなり
たてものに蜘蛛の巣が張り巡らされ
壁は剥げ落ち窓は割れ
寒風が吹きこんでも
街が廃墟となり
行き交うひとが皆無となっても
私は
この席に
すわっていたい
私の思いは
強く不変であるに違いない
私はいたい場所に
いたい
それが私の抵抗だから
それが私がいる意味だから
あやまちをくりかえし
いきてきた
いきてきたといま書いたのも
またあやまち
あやまちにあやまちをかさね
あやまちの塔が建つ
あやまちの塔を自ら破壊して
あやまちの道をひきかえして
あやまちの川のほとり
誤って正しいことを
水にながす
あやまちで
日が暮れて
あやまちの夢にめをさまし
誤った名を呼んで
ふたたび眠る
あやまちをくりかえし
いきつづける
くらしをよくしようとする
だがくらしはよくならない
すべてがあやまちだから
あやまちの躯を
正しいもので染め
正しさというもので染め
中身も
ねこそぎ入れ替えなければ
それでも
あやまちをおかすだろうが
あやまちには
気づかなくなるだろう
だれかのために
はたらいて
なにかのために
しんでいく
そんなじんせい
ありました
すきなだれかに
のせられて
しぼりとられて
わらわれて
ちいさなゆめは
きえるもの
やさしいひとを
ふみだいに
とおくをながめた
ひとがいた
こわれたふみだい
もえるごみ
ながいものには
まかれつつ
いやなおもいは
ひとまかせ
おやまのたいしょう
ごきげんよう
わるいはなしは
わすれましょう
おとくなはなしは
おぼえとこう
やったもんがち
おらがむら
きれいなものに
かこまれて
よごれたものは
しらんぷり
じぶんのよごれは
きづけない
行くところがないから
行きたくない方角を避けて歩いた
落ち着く場所がないから
好きな本を開いては
その中に入っていった
愛するひとがいないから
すれ違うひとが「そのひと」かどうか
確かめながら歩いた
守りたいひとはいたが
その力はないから
ただ守られていた
神様は見えなかったが
神様はきっと
視線を合わせるのが苦手なのだ
と 思うことにした
まいにち生きているのが、つらくて、あなたは、もう死ぬ価値さえない、という
生きている価値は、たぶん、もうとっくの昔にあなたのこころから、消失したというのだろうか
白く頼りない翼の鳥が、寒々とした冬のくもり空を、裁ちばさみのように切り裂いていくのを、あなたは、不意に見てしまい、
ああ。わたしも、世の中を切り裂いて死んでいくことができたなら、と、あるいは、生きていくことができたなら、と唱えながら
放課後の校舎で、誰かが書いた「生きる」という詩を読んだことがあったな、と、ありありとその景色や色彩まで、思い浮かべた
その名前は枝に残った枯れ葉
弄ぶものはいない だが弄ばれている
それは 行きずりに誰かが触れたから。その影を踏んだから…
音が交じってグラウンドノイズができあがるときに、それに隠れて
あなたの吐いた息が、あなたの命を吹き消した
そんなこともあった
この容れ物
不便なこと この上ない
もっと
いいものがたくさん容れられるようにしたいが
どうしたらいいのか
説明書がない
多くの人が
知恵を出し合って
取扱い方法を考えたり教えたり
話し合ったりしているが
いまだに
明快な答えはないようだ
造ったひとが
ちゃんと取り扱い説明書を
残すべきだったといえるだろう
不親切なことをすると
きっと
バチが当たると思う
それがたとえ神様でも
なにもなくても
しあわせです
なにもないから
しあわせです
いいえ
ほんとうは
すこしだけあるから
しあわせです
そのすこしだけで
みたされるから
しあわせです
いいえ
ほんとうは
みたされないときも
しあわせです
からっぽがあって
しあわせです
いいえ
ほんとうは
からっぽを
そらにむけているから
しあわせです
あめのしずくも
そらのあおいろも
いれられるから
しあわせです
いいえ
ゆめもやさしさも
からっぽのなかになら
いれられるから
しあわせです
いいえ
いれたものをだすのも
じゆうだから
そんなじゆうが
あって
しあわせです
昔のまちを歩いてる自分を眺め
君にはこんな人生があると
教えてあげた
ただ私は コトバを持たず
笑顔も ヒトの眼差しも持たなかったから
夏の日
汗が紐にしみ込んだ帽子の上に
日差しと天気雨を降らせた
雨水は ミチの色を濃くし
道は雨水を蒸発させようと躍起になっていた
道沿いの桑は君を見下ろし
まちのトタン屋根は
楽器のように音を立て
なんと言っていた?
星空
昨日 バスを降りて見上げた
大きすぎるソラに飾られていたもの
冬という季節のつめたい空気で
ぬるくなった夢を
冷やして
絆やしがらみの細い糸を根こそぎ取り去って
大事な線だけを残してくれる
ワイヤレス通信だが
それでいいと感じられるその線は
見たいと思えば
見ることができる
あたりまえをさがしに
あたりまえをあつめに
でかけてきます
あたりまえにふれて
あたりまえをかんじて
あたりまえをもちかえるために
あたりまえをふくろにつめこみ
あたりまえがくさらぬように
こわれぬように
だいじにもちかえります
あたりまえのものたちは
あたりまえではないうつくしさで
あたりまえにかがやいている
わたしはなみだをながします
あたりまえのなみだなのかは
わかりません
なみだがかれたら
ねむり
あたりまえのように
ゆめをみるでしょう
へやにおいてあるあたりまえのものたちは
なにもかたりません
ただ
わたしがあたりまえのはなしを
かたりはじめました
あたりまえのあなたに
ありきたりのなんでもないひの
ひるさがり