2013年12月7日土曜日

鉛筆で

私の考えは
鉛筆で書く
文字を書き間違えるように
考えもよく間違えるから

私の思いは鉛筆で書く
書き終わった途端に変わるから
きらいな人も好きな人に変わるから

私の未来は鉛筆で書く
あなたが消して書き直せるように
未来は独り占めできないだろうから





絵 一之瀬仁美

2013年12月6日金曜日

いつまでもここに

いつまでも
ここにすわっていたい
この席に

いまは
駅前の
クリスマスのイルミネーションを借景に
珈琲の香りが漂い
ほどよく賑わっている
今ふうのカフェだが
まわりのひとが
すべていなくなり
たてものに蜘蛛の巣が張り巡らされ
壁は剥げ落ち窓は割れ
寒風が吹きこんでも
街が廃墟となり
行き交うひとが皆無となっても
私は
この席に
すわっていたい

私の思いは
強く不変であるに違いない
私はいたい場所に
いたい
それが私の抵抗だから
それが私がいる意味だから

2013年12月5日木曜日

あやまち




あやまちをくりかえし
いきてきた
いきてきたといま書いたのも
またあやまち

あやまちにあやまちをかさね
あやまちの塔が建つ

あやまちの塔を自ら破壊して
あやまちの道をひきかえして
あやまちの川のほとり
誤って正しいことを
水にながす

あやまちで
日が暮れて
あやまちの夢にめをさまし
誤った名を呼んで
ふたたび眠る

あやまちをくりかえし
いきつづける
くらしをよくしようとする
だがくらしはよくならない
すべてがあやまちだから

あやまちの躯を
正しいもので染め
正しさというもので染め
中身も
ねこそぎ入れ替えなければ

それでも
あやまちをおかすだろうが
あやまちには
気づかなくなるだろう


2013年12月4日水曜日

みらいのために

だれかのために
はたらいて
なにかのために
しんでいく
そんなじんせい
ありました

すきなだれかに
のせられて
しぼりとられて
わらわれて
ちいさなゆめは
きえるもの

やさしいひとを
ふみだいに
とおくをながめた
ひとがいた
こわれたふみだい
もえるごみ

ながいものには
まかれつつ
いやなおもいは
ひとまかせ
おやまのたいしょう
ごきげんよう

わるいはなしは
わすれましょう
おとくなはなしは
おぼえとこう
やったもんがち
おらがむら

きれいなものに
かこまれて
よごれたものは
しらんぷり
じぶんのよごれは
きづけない

2013年12月3日火曜日

無題の日々



行くところがないから
行きたくない方角を避けて歩いた

落ち着く場所がないから
好きな本を開いては
その中に入っていった

愛するひとがいないから
すれ違うひとが「そのひと」かどうか
確かめながら歩いた

守りたいひとはいたが
その力はないから
ただ守られていた

神様は見えなかったが
神様はきっと
視線を合わせるのが苦手なのだ

と 思うことにした

2013年12月2日月曜日

そんなこともあった



まいにち生きているのが、つらくて、あなたは、もう死ぬ価値さえない、という
生きている価値は、たぶん、もうとっくの昔にあなたのこころから、消失したというのだろうか

白く頼りない翼の鳥が、寒々とした冬のくもり空を、裁ちばさみのように切り裂いていくのを、あなたは、不意に見てしまい、
ああ。わたしも、世の中を切り裂いて死んでいくことができたなら、と、あるいは、生きていくことができたなら、と唱えながら
放課後の校舎で、誰かが書いた「生きる」という詩を読んだことがあったな、と、ありありとその景色や色彩まで、思い浮かべた

その名前は枝に残った枯れ葉
弄ぶものはいない だが弄ばれている
それは 行きずりに誰かが触れたから。その影を踏んだから…
音が交じってグラウンドノイズができあがるときに、それに隠れて
あなたの吐いた息が、あなたの命を吹き消した

そんなこともあった

2013年12月1日日曜日

取扱い説明書

この容れ物
不便なこと この上ない
もっと
いいものがたくさん容れられるようにしたいが
どうしたらいいのか
説明書がない

多くの人が
知恵を出し合って
取扱い方法を考えたり教えたり
話し合ったりしているが
いまだに
明快な答えはないようだ

造ったひとが
ちゃんと取り扱い説明書を
残すべきだったといえるだろう

不親切なことをすると
きっと
バチが当たると思う
それがたとえ神様でも

2013年11月30日土曜日

なにもなくても



なにもなくても
しあわせです
なにもないから
しあわせです
いいえ
ほんとうは
すこしだけあるから
しあわせです
そのすこしだけで
みたされるから
しあわせです
いいえ
ほんとうは
みたされないときも
しあわせです
からっぽがあって
しあわせです
いいえ
ほんとうは
からっぽを
そらにむけているから
しあわせです
あめのしずくも
そらのあおいろも
いれられるから
しあわせです
いいえ
ゆめもやさしさも
からっぽのなかになら
いれられるから
しあわせです
いいえ
いれたものをだすのも
じゆうだから
そんなじゆうが
あって
しあわせです

2013年11月29日金曜日

見たいと思えば

昔のまちを歩いてる自分を眺め
君にはこんな人生があると
教えてあげた

ただ私は コトバを持たず
笑顔も ヒトの眼差しも持たなかったから
夏の日
汗が紐にしみ込んだ帽子の上に
日差しと天気雨を降らせた

雨水は ミチの色を濃くし
道は雨水を蒸発させようと躍起になっていた
道沿いの桑は君を見下ろし
まちのトタン屋根は
楽器のように音を立て
なんと言っていた?

星空
昨日 バスを降りて見上げた
大きすぎるソラに飾られていたもの
冬という季節のつめたい空気で
ぬるくなった夢を
冷やして
絆やしがらみの細い糸を根こそぎ取り去って
大事な線だけを残してくれる
ワイヤレス通信だが
それでいいと感じられるその線は
見たいと思えば

見ることができる

2013年11月28日木曜日

あたりまえのものたち


あたりまえをさがしに
あたりまえをあつめに
でかけてきます

あたりまえにふれて
あたりまえをかんじて
あたりまえをもちかえるために

あたりまえをふくろにつめこみ
あたりまえがくさらぬように
こわれぬように
だいじにもちかえります

あたりまえのものたちは
あたりまえではないうつくしさで
あたりまえにかがやいている

わたしはなみだをながします
あたりまえのなみだなのかは
わかりません
なみだがかれたら
ねむり
あたりまえのように
ゆめをみるでしょう

へやにおいてあるあたりまえのものたちは
なにもかたりません
ただ
わたしがあたりまえのはなしを
かたりはじめました

あたりまえのあなたに
ありきたりのなんでもないひの
ひるさがり