2013年10月3日木曜日

思い出の宝箱を開けるだけでも

思い出の宝箱を開けるだけでも
あなたと豊かな時間を過ごせるけれど
きょうは新しい場所に行きましょう
箱には入りきらないほどの思い出をまたつくろう



栞が挟んであったページに書かれていた
あなたのこと
ありふれた描写の暗号を解読するには
時間の鍵が必要だと
あの時気づいたのだった
書いた自分にも分からなかったその謎が
ぼんやり立ち現れそうになるが
怖くて表紙をパタリと閉じた

2013年10月2日水曜日

小さなお城

小さな自分のお城を造る
造って門を閉める

小さな自分が住む
小さなお城

ややこしい決まりをいっぱい作り
自らやぶる

好きな人ばかりを招き入れ
世辞を言わせて楽しむ

小さなお城は
古びていって

夕日に染まるお城は燃えはじめ
朝日を背にした姿は炭を隠し

落城の日は
落ち延びようか切腹しようか

それとも別の城に逃げ込もうか
迷っている

2013年10月1日火曜日

夜風の小径の垣根

夜風 夜風
よるのかぜ
お前はたぶん
ただひとりの
友だちだ

小径 小径
頼りない細道
私を抱きしめてくれる
その草の香りの
ふところ

垣根 垣根
昔からある垣根
浮いた言葉はじいて
透き通った
光を映すのか

2013年9月30日月曜日

世界の混沌

核分裂が起こり始めたんでしょう
警報の種類が変わったわ

灰色の雲の垂れ込める海岸は
湾を挟んで対岸にある

アシスタントのミモトが
無表情にそう漏らした瞬間
私は行かなければという衝動に駆られたが
危ない状況に武者震いした

脳裏にあったのは
前回見た核爆発だった

理科の実験室で
水素を作る実験をなぜやらされたのか
今になって分かった気がしたのだった

夕刻へと向かう空模様
未来へと向かっているのか判然としない心模様

自転車で30分
ここからあの海岸までの距離だ
途中には遺跡があり
貝塚も保存されている

百代前の家族は
味噌汁の鍋をかき混ぜながら
獲れたての魚をチンしていただろうか

霞む山の上空で
仙人は見下ろしているだろうか
世間と世界の混沌が
混ざり合う様子を

2013年9月29日日曜日

古びた建物

古びた建物の喫茶店の白い壁に
ぶどうを描いた画が掛けられている

たわわに実った一房のぶどうと
青々とした葉
それに枯れかけて色づいた数枚の葉だ

建物も画も古びているが
その周りでうごめいているのは
いまを生きている人間だ

仲良しカップルは見つめあって話をしている
店員さんは段取りに忙しい

画を描いた人は
どこかで生きているのだろうか

私は画家がぶどうに向かう姿を想像する
画家が画を仕上げて行くときの気持ちを想像する

古びた建物の中で
古びていきながら

2013年9月28日土曜日

もうゆるしてあげても



もうゆるしてあげても
いいのではないか
ゆるしてくれない
あのひとのこと


もうわすれてしまっても
いいのではないか
わすれられないものが
おいてあるあのばしょ


もうかえっていっても
いいのではないか
まつひともない
まちぼうけのこころ

2013年9月27日金曜日

ひねってあるのは

こちらの朝はひねってない
五重塔
ピサの斜塔は
かしげてない

七重塔はすこしひねってある

かしげているのはむしろ
店員さんの笑顔を乗せた首
巻いてあるのは
ゼンマイの時間

2013年9月26日木曜日

8歩目

貯金箱のお金を出して電車に乗って
優雅に暮らすあの人に会いに行った
あの人は僕より高いお茶を飲み
当然の如くお金を払わず扉を開けて外に先に出ていった
百円玉を積み重ねて代金を払い
7歩歩いてさよならを言った

2013年9月25日水曜日

それは世間のことなんだ

それは世間のことなんだ
そこを世間というのです
海辺にできた山脈も
蒼くて高い秋空も
それを世間というのです

そこで生きてる私たち
生かされているきみとぼく
幾星霜の星月夜
かんらからから切なさと
ともに生きてる私たち

君は世間の申し子さ
世間は宇宙とねんごろさ
すすきも螢も王様も
世間の風に吹かれてく
僕も世間の申し子さ

2013年9月24日火曜日

まさかのさかな


まさかさかさまのさかなのなかまはかかさまのさかなかな

かさをささないさかなかな
かさなくなくなくかさかさないさかなかな
さかにさかさにさかんにかしずくかのさかなかな

まさかさかさまのさかなのなかまはととさまのさかなかな

かさをささないさかなかな
かさなくなくなくかさかさないさかなかな
さかにさかさにさかんにかしずくかのさかなかな