2010年12月24日金曜日

ねがい事

いつも緑のもみの木

わたしのねがい事も
輝いていられるだろうか

美しいあなた
心はなにを求めているの

2010年12月23日木曜日

眼差しを留めるもの

誰も自分のことなど解ってくれない
そんな眼差しが
道端の枯葉を見つめていた

枯葉は思った
木に茂っていたころ
同じ瞳がわたしを見上げていた と

雨が降り
風が吹いて
星が綺麗な夜に
枯葉は木から落ちた

枯葉が居なくなったところに
小さな空ができた

その空は
孤独な眼差しに満たされるのを
待って木に引っかかっている

2010年12月22日水曜日

沼よ

駅のエスカレーターを昇りながら悩みごとの沼が体からはみ出ているあなただけれど
その沼には絵にもならないほど美しい小ぶりのはすの花がいくつも咲いている
はすの花はどれも首を曲げて悩んでいるけれど
そのせいであなたの悩みごとは空に向かい少しずつ蒸発をつづけている

あなたはその蒸発をむしろ止めたいと思っている自分に驚いているけれど
悩みごとは連鎖して他人のものまで絡みついて繋がっていくので際限がないことにもすぐに気付いてしまう

沼をはみ出させながらあなたはイルミネーションに彩られた並木道を歩いてゆくけれど
並木道からも気づくと沼がはみ出し始めて
歩いていく人の多くからも次々と沼がはみ出してきて
すぐにそれらが交わって混沌とした情景が生まれてしまう

あなたは知らん顔を装ってスタスタ歩いてゆく
目的地にいかなければならない
生きていくためのお金を稼がなければならない
一度一生生活するのに程よいお金が玄関先に置いてあったことがあったが
それは夢だったようだ

脇目も振らない振りをしてあなたは歩く
ブーツの下から泥が溢れてきて
ずぼずぼ音を立てている

2010年12月21日火曜日

仕事

二階にあなたが探しているものがある
そのせいで
一階は水浸しだ

奥の階段を登り
鉄の扉を開け
次の木の扉を開けると
ガラスの向こうがブースになっている
テーブルの黒い天板の上には
マイクロホンが設置されている
ここから実況中継をするというわけだ

あなたがキューを振れば
ブースの男はカフを上げて
女と始めるだろう

ほら 二人とも
もう半裸状態だ
台本そっちのけでよくやるものだ

黒い天板に乗せられた女に
男が覆いかぶさっている
女は挑発的な眼をして腰を揺らす

いつの間にか室内なのに雨が降り出した
台風のような生温かい雨だ
もうわけがわからないほど
荒れ始めた

それで
あなたは何度もキューを振るのだが
何のキューなのか
もう誰にもわからなくなっている

BGMが高らかに盛り上がり
世界を嬌声が脅かす

男と女はいつまでも飽きることなく
つづけている

私は
あなたを置き去りにして
次の仕事場に向かわなければならない
夜空に浮かぶ月や黒雲さえ置き去りにして

2010年12月20日月曜日

タクシーは待っていない

長い夢からさめて
ターミナルを出ると
放射能を撒き散らしたような
明るい鮮やかな夕空が待ち構えていた

とにかく何かしなければと
僕らはとっさに行く先のことを考えていた

そしてこの夕空が意味するところを見極められるはずだ
いつか観た映画の一シーンに答えがあるかもしれない

リニアがタクシーの向こうを走っていく
あのリニアは実験が途中なので
こんな日は危険だ
いや もしかするとあのリニアのせいで
空がこんな色になっているのかもしれない
どこかの時空にねじれて衝突して
夢の世界から何かが滲み出してしまったとも考えられる

タクシーに乗れば災難を避けて
田舎にたどり着けるだろう
街道を結ぶバイパスを二つ通り
東西に伸びる線路を横切って
あの村に行けば
とり返しがつかないことにはなるまい

僕らは連れ立って
人気のまばらなタクシー乗り場にきた

タクシーに乗ると
タクシーは行き先を尋ねることもなくドアを閉め
急発進した

バイパスの橋を渡ると
僕らは思い立って寄り道することにした
その家に入ると
主人は寝室で寝入っていた
僕らが入ると
主人は癇癪を立てて何かを叫び
やがてたしなめるように言った

昨日帰ってきたばかりなのに
直ぐに仕事があり
時差ぼけがきついが
望むところだ
生きている間中ずっと何かをし続けなければならない
寝ている以外は
寝る間も惜しんでしなければ

叱られた気分を抱えて僕らは外に出た
すると待っているはずのタクシーはいなかった

空には星が沢山出過ぎていた
いつもみる一等星より大きな星ばかりだ
その明るさに目がくらみ
ぼくらは思わず倒れこんだ

眠るためではなく
ただ明るさから逃れるために
藁の匂いがした

2010年12月19日日曜日

マッチ売り

求めるものに近づこうとする打算的人生より
過ぎゆく過去を大事に味わう人生のほうが
いいのでは?

ホームレスの僕が思うことは
過去のいい思い出のことばかり

でもそれらに飽きると
今度は現在のことを思う

家賃を払うのは必要悪かということ
月や星は電気メーターにつながっていないということ
食の安全は少し古くなったら捨てろということ
食べたい僕たちにはゴミ箱を漁れということ

自分がよければそれでいいという思いを持った人が
さまざまなルールを決め
ルールの隙間に蔓延して
自分の善良さに不安を覚えると
弱いものに情けをかける

クリスマスが近づくと
マッチ売りの少女が
今日も街頭に立って
寒さに凍えながら
火をつけるための棒を売っている

本当に燃やしたいものは何?
少女は尋ねることはしないが

ホームレスの僕は自問する
本当に燃やしたいもの
燃やしてしまいたいものは
何?

2010年12月18日土曜日

夜の空気

窓から入ってくる
月の灯りは
太陽から君への心遣い

闇の中に放りだされても
君は完全な独りきりにはならない

スピーカーから音楽を流し
本のページをめくれば
別の世界がハンモックのように
用意されている

君の想いを吸い込む夜気が
空のなかでシンとしている

2010年12月17日金曜日

君と

ゆっくりしよう
もう時間に邪魔されることはない
人目を気にすることもないから
コインを入れるように
君に愛情を注ぎ込もう

眼をつぶっていても
つぶることに飽きてしまって
また見開いても
まだ終わらない

港を離れた船が
沢山の出会いと別れを乗せてもどってきても
僕たちは
まだ始まったばかりだ

ゆっくり
空白だった時間を埋めるように
確かなものを確かめ
不確かなものさえ
確かにしよう

列の最後に並んでいた現実は
昨日みた夢のように消え
友達たちの輪の中から弾かれて
衝突した君

2010年12月16日木曜日

玄関にくる人

寒さが手を引いて忘れていた人を連れてくる
ぼくは黙り込んで西日の部屋で文庫本を読んでいる
玄関の前で誰かが立ち止まるが
音一つ立てずに
何か迷っているのか

いつの間にか陽は暮れてきて
ぼくは本を置き
外へ出ることにした

鉢合わせは勘弁願いたい
煮えきらぬものはもうたくさんだ
ドアを開ける風で吹き飛ばすよ

そうして
ぼくもバス停へと飛んで行く

2010年12月15日水曜日

月の光に

ボローニャの石畳の道
路地を抜けていく風
聖堂の鐘の音
映画館の前の人溜まり

みんなは何処へ行ってしまったのか
思い当たる人に手紙を書いてみても
返事は来ない

待ち合わせは塔の下
宝飾店のウインドウを回り見ながら
再会し
夜の賑やかさの中に消えていった

もしかなうなら
月の光に乗せて
あの日の自分に手紙を出したい
あのひとを離してはだめですよと