2013年5月23日木曜日

おとなの罠

吹きすさぶ風
揺れているものは何?

いつからああして
揺れているのだろう

人知れず
夕闇に飲み込まれてゆく
ゆれているもの

降り始めた
冷たい雨
湿っているものは何?

きょうも湿り
明日には乾いて
笑っていられるのだろうか

夜に湿るもの
じっとりと
言い訳をいわないのが
おとなの約束?
それとも

おとなの罠?

鍵穴


したいことがない訳ではない
したいことを無視している訳でもない
したくないことばかりが山を成して行く手を塞ぎ
しなければならないことが張り巡らされ
したいけれどできないことが礫となって飛んで来る

歩くこともままならない
止まれば砂塵に襲われ
逃げればスコールが付いて回り
叫べば雷鳴に打ち消され
黙れば静寂に呑み込まれる

したいことがない訳ではない
ここから抜け出て
したいことをしなければ
しなければと思わずにしなければ

したいことは
向こうに行っても
死体とならずに
生きているだろうか

不安が影を伸ばし
くっきりした輪郭を作る
そのなかの光る一点に
鍵穴がある

2013年5月22日水曜日

心の隙間


心の隙間に何もない
心の隙間を埋めるもの
売っていたなら買ってこい
心の隙間を埋めたいが
そうは問屋がおろさない

心の隙間が軋んでる
心の隙間を癒すもの
どこかで奪って盗ってこい
心が泣くのをとめたいが
ますます侘しさつのってく

心の隙間がつんざける
心の裂け目を縫うミシン
知らん顔して手に入れろ
心を取り繕いたいが
心は空に消えていく

2013年5月21日火曜日

ルビールビー

ルビールビー
白い日々
ルビールビー
君の夢
ルビールビー
無限へと
ルビールビー
回ってる
ルビールビー
夢の中

もう何度もやっているのに

もう何度もやっているのに
いつも新しいことだと感じられるのは
毎回新規のファイルが生成されるからだろうか
長く生きていると
部屋中ファイルだらけになり
足の踏み場もなくなるから
時々ごっそり処分しなければならない

だか
処分の時を見極めるのは
難しい
気づいた時にはすでに考えすぎているから
さらに考えすぎればすぎるほど難しくなっていく

愛は執着し
片道切符は帰ることを邪魔して
捨て身で挑んでくる

大事なものたち
生まれ変わり新しい衣装を纏い
私の感じやすい部分を慰めて欲しい

見えない星の光ほどのかすかな眼差しで
見返して視線を結ぶから

2013年5月20日月曜日

欲ばりチキンちゃんへ

欲ばりチキンちゃん

自分が得することばかり考えていると
損をすることが分かったから
他人のことも考えることにしたけど
ちょっと待って
やっぱりそれは自分が得するためじゃない?

怖がりチキンちゃん

広い世界に出ていきたいのに
広い世界がとても怖くて
他人のせいにして気を紛らわしているけど
ちょっと待って
広い世界はキミの頭の中には収まらないよ

見ない振りのチキンちゃん

窓ガラスに付いた雨の滴も
狭い道を歩いている見知らぬ人も
母乳を吸わせる母親の顔も
いまここにあるもの
キミと同じかけがえのなさで存在しているよ


2013年5月19日日曜日

私はここに


何を訊いてみたいのか分からない
ただ私はここにいて
感じるままに過ごしている
風を見て飛び立つ鳥のように

何をすればいいのか
訊かれると
分からなくなる
本当にしたいことは
もう
とうにやっていたから

だから私はここにやって来たのだ
よく分からないけど
たぶん

余計なことは考えないでいい
余計なことを考えないでもいいことも
考えないでいい
そう思い
着慣れた服を着て
出かけてゆく
いつもの道を歩いて

気がつくと
いつも来るこの場所に
立っていた
何もも持たずに
当り前のような顔をして
立っていた

2013年5月18日土曜日

ありえないことは


ありえないことは
ありえないはずだとしんじていたが
ありえないことは
あっというまに
ありえることにかわる

かわってしまったありえないことは
もうありえないことではなくなり
ありえることになってしまっているので
ひとびとはあたふたしたり
あきらめたり
うらみごとをいう

ありえないことは
もうこのよにはいないので
あのよから
こどもをみまもっている

ありえないことのこどももまた
ありえることに
りっぱにそだつだろう

2013年5月17日金曜日

幸せの味


白い砂山の上の月
婆ちゃんと見たのは
いつのことだったんだろう
夜の明るさを知ったあのとき

あたたかい風をまだ頬が憶えている

きょうも仕事を終え
混雑したハイテンションの陰気な電車の箱の中に自ら飛び込んで玄関に帰り着き鉄のドアを開けて椅子に倒れ込むとしばらく心は幼い頃に飛んでいた

立ち上がり
冷蔵庫から卵を取り出し
冷や飯の上で割った

婆ちゃんは戦争で大事な人を失くし
涙と血の味がする卵かけご飯を
幸せと不幸を思いながら噛みしめては
喉に搔き込んだと言っていた

私の卵かけご飯は
ただ幸せの味がしているけれど

2013年5月16日木曜日

戦乱の大地へ


木の実を採る
そこに実がなっていれば
木いちごを栗を
柿や梨を採る
そして土を堀り芋を取る
魚を蟹を岩魚を鮭を捕まえる
海苔を若布を集める
黍(きび)や粟や葱やゴーヤを採る
山羊の乳を搾り
椰子のジュースを飲む

生まれた場所の
生まれた季節の香りが
帰趨本能に囁きかけ
粗末な崩壊しかけた家に
私を呼び戻すが
そこには既に家はなく
何事も見る影がない

いや
多くの血と涙が流されて
見たいものは痛み
見られることを嫌っている

誰かがここにいたはずだ
愛すべき誰かが
目を輝かせて何かの夢を語り
それは希い望みとなって
私を生かすのに一役買ってきた

きょうも人びとは
戦争の代わりにテロを
テロの代わりに金儲けをやっている
またはテロや戦争や
核戦争の計画をしている

自然がが与えてくれるものを
我が物顔で人工化して
新たな争いをする機会を待っている

子に母乳を与えながら
あなたは何を狙っている?
その子が生き延びる世の中は
どんな色の花が咲き乱れ
どんな生き物たちの血が流されている?

私は言葉で問う相手を見つけられず
言葉を捨てて
生まれた場所
戦乱の大地へと
問いかけに戻ってゆく