2012年9月22日土曜日

取り壊される校舎に

草花が窓の向こうに咲いている
街はなくなってしまったのに
人々の思いは
この場所に自分たちの懐かしい姿を投影する

泥に覆われた場所も
大事な思い出が置いてある場所
その目には
泥は見えていて見えていない

一番大事なものは
すでに持っている
すべてを失ったあとも
大事なものはすでに持っている

窓から入ってくる風が
楽しそうに教室を舞う
友だちや知り合いと
話をしよう

どんな話でもいい
校舎に聞かせてやろう

































岩手県立高田高校 旧校舎
陸前高田市 
2012年9月20日筆者写す



 

2012年9月21日金曜日

消えた幽霊

顔を洗い終わったら
幽霊が、タオルを差し出して立っていた
ありがとう、幽霊
あなたは何を望んでいるの?

いいえ
望みはありません
あなたの願いを叶えたいのです

そういうと
幽霊は消えて行った
私も
少しして
消え始めた
お話にはつづきがあります
先を読み進めてみませんか

2012年9月20日木曜日

八幡宮にて

お尻を向けないで

階段の途中で息が切れて
立ち止まった

あなたは元気で
なんでも良く知っているように
一人でスタスタ行ってしまう
かわいいワンちゃん
頭を撫でてあげる
お尻を向けないで!

階段を上ったらなにがあるの?
願い事が叶う場所?

かわいいワンちゃん
夕日がもう落ちそうだよ

あなたはいままでもう一人のワンちゃんと
向かい合って
ずっと何を待っていたの?

質問する私に質問で返してくるのは
そう聞こえるのは
なぜかな?

いつか教えて
かわいいワンちゃん
あなたのその口で
噛みついてもいいから


2012年9月19日水曜日

夢の世界へ

今夜は眠らないでください
私のために
ただ起きていてくれればのです
なにをしていてもいい

私のことを忘れていてもかまわない
あなたの好きなことをやって
たまに宙にただよう空気を眺めて
起きていてください

私はきょう
大事なことを決めます
心の振動を停めて心臓の真ん中を
突き刺します
自分のあやふやな気持ちに
死んでもらいます

あなたは
どこかにいて
知らないうちに
それに立ち会うことになります

だからどうぞ
眠らないでいてください
夢の世界に
行かないでいてください

2012年9月18日火曜日

あれ以上の味

小学生のころ
リゾートホテルの居酒屋のカウンターで
冷やし中華を注文した
ふやけた麺に干からびた錦糸卵
甘酸っぱいうす味のぬるいスープ
まずさに驚いて
食べなくていいか   と訊いた

また別の日
客船のプールサイドバーのカウンターで
チーズ&クラッカーを注文した
なぜ値段がこんなに高いのか
疑問に思いながら食べた
いままで食べたことのない美味しさに
感動して
お代わりしていいか   訊いた

あれから長い月日が立って
あの人はもういない
あれ以上の味にもまた
出会ってないのだ

2012年9月17日月曜日

愛する人を愛し続ける

むずかしいことは分からないが
見捨てられたことは分かった

見捨てて また 救いに来て
でもやっぱり 見捨てて
見捨てないふりをして
見捨てる

忘れた頃に
また 救ってやるぞと 思っているらしいが
そう言ってくるが
救いには来ない
救いにきた例(ためし)はなく
来るのは 救いではなく
伝令そして
 
何らかの「処置」や「措置」

だから
救われると 思っていてはいけない
救って貰う必要はない
自立しているのは手前のほうだから
相手を見越して
受け取れるものだけは きちんと受け取って
お礼は言わず
なんの感情も表す必要はない

学校で教えてくれたことは
みんな嘘っぱちだ
お礼など言ってはいけない
無償の愛にだけ感謝すれば良い

むずかしいことは分からないが
簡単なことは分かる
沢山の人が見捨てられた
見捨てる側は自分さえ見捨てているのだから
もともと見捨てる価値さえない
だから何も期待してはならない
期待しなくていい

だから
見捨てられた人は一人ひとり
自分の場所にたって
見捨てた者のことなど
忘れてしまえばいい
もともとなかったように
思い出さなくていい
心の平静を取り戻して
自然と一体になればいい
つまらないことから開放されて
愛する私と共に居ればいい
私たちに救いは必要ない
必要なのは
愛する人を愛し続けること
その気持ちを持ち続けること

2012年9月16日日曜日

今はない野原に向かって

木々に手が届きそう

列車の窓から
手を伸ばしてみる
電柱や電線はない
ディーゼルで動いているから

口を開けると
空気が口に飛び込んでくる
ついでに
胸の奥まで吸い込んだ

いい空気だ

雨上がりの線路が
楽しそうに鳴っている

荷物は少なめ
でも
お弁当は持っている

人目を気にして車内を見たら
楽しそうな人と眼があった

皆んな楽しそう
そういうことにしておこう

カタッ カタッ 歯切れのよい 
いい音を立てて
列車は走る

もうすぐ夏は終わるけれど
心のなかでは
夏が始まろうとしている

白い帽子でも買って
今はもう行くことができない野原に向かって
ひとりで駆けていこう

おととし 2010年12月23日木曜日に書いたもの


眼差しを留めるもの

誰も自分のことなど解ってくれない
そんな眼差しが
道端の枯葉を見つめていた

枯葉は思った
木に茂っていたころ
同じ瞳がわたしを見上げていた と

雨が降り
風が吹いて
星が綺麗な夜に
枯葉は木から落ちた

枯葉が居なくなったところに
小さな空ができた

その空は
孤独な眼差しに満たされるのを
待って木に引っかかっている