2024年1月13日土曜日

いくつもトンネルをくぐって
世界の外側に出ようとしてみたけど
くぐっても くぐっても
外側に出ることはできなかった

そういえば
外側ってどんなところなのかを知らない
ひょっとしたら
最初から外側にいたのかもしれず
そういえば
内側がどんなとことなのかも
誰にも習った記憶はなく
トンネルをいくつもくぐったようで
それも錯覚だったということも考えられ

自分の感覚を信じようと焦ったけど
焦っているのが感覚なのか自分なのか
その自分も
自分の夢か錯覚なのか
分からなくなってきて

というか最初から
何かに分かたれていて
それをまとめることができなくて
その気分をトンネルをくぐって
癒そうとしていただけのようにも思えて
外側というのはただの比喩で
実態を求めても
どこにもないということのようにも思えて

きょうはふとんを被って
おとなしく
疲れ果てるのを待つことにした
疲れはどこからやってくるのだろう
闇を見張っていよう

闇を見張ってみないか
闇を這っていく

2023年5月13日土曜日

さとり


スーパーは寂しくない
スーパーはそこにあるだけ
寂しさはない
寂しさはここにあるが
それを見ているところには
自分がいるだけで
寂しさはない
買い物は寂しくない
買い物は棚のものをかごに入れること
寂しくはない
寂しさは連れ立っているが
手をつないでいるだけで
棚にも買い物かごにも
寂しさはない
食べ終わった時
寂しくない
食べ終わった時
食べ物が食卓になくなって
お腹がいっぱいになっているが
その時は
寂しくない
時間が経過していくだけで
寂しさはない
寂しさは
心にあるかもしれないが
心に別のものがあるときには
寂しさはない
あるような気がするのは
寂しさが消えた寂しさがが
あるから
寂しさが消えた寂しさを
ひとは喜びという

きれいなこころを つまれたひとに

きれいなおはなを
つむひとが
きれいなこころも
つんでいた
きれいなこころを
つまれたひとは
かれたじんせい
おくってた
きれいなこころを
そだてるひとに
きれいなこころが
あふれだす
きれいなこころを
つまれたひとに
きれいなこころを
あげました

世間の隅っこにいるけれど

世間の隅っこにいるけれど

ここは世間の隅っこの真ん中
世間は賑わっているけれど
ここは世間のへり
だれもが世間銀座へ出かけていって
友をみつけて笑顔を見せ合う
世間の隅っこの真ん中には
だれもやってこない
だれも気づかない
だが世間の隅っこの真ん中には
一足早く
春が静かにやってくる



俯(うつむ)いたままで

これから死ぬまで

過去だけで生きていける
彼女はそう思ったが
梢で渦巻く風は違うよと言った
思い出の中の私は
眩しいほどに輝いている
息を殺して感じていたが
石畳の靴音は知らん顔した
明日も私は
途方に暮れているだろう
だが思わぬ幸運が
彼女に飛びつこうとしていた
だから
少し早起きして
身支度をして
好きだった場所に
歩いて行くんだ
俯(うつむ)いたままでいいから

ビルのガラス窓に映った雲が

ビルのガラス窓に映った雲が

流れていく
あの雲は友だち
雨を降らさない雲は
何のために漂っている?
私たちを見下ろして
気分がいいだろう
きっと自分の小ささを感じて
大志を抱いているだろう

10秒の詩

 *1

お気に入りのカフェで
好きなことを考える自由
カフェで好きな飲み物を注文する自由
わざわざ自由と言ってみる自由
*2
自由とは自分で好きに作ること
自分や時間や物事を
好きなように作ること
その作ったものから離れていけること
*3
あの森に行きたい
緑の風が香るところ
季節がとどまって戯れているところ
夜には置いてきた自分を遠く想うところ
*4
帆が風を受けて見えない衝動を
形にしている
詩人は指を動かして
見えない風景をいま作り変えている
*5
フィレンツェで買ってきた青い器に
果物が盛られている
フィレンツェに抱えていった気持ちが
思い出される
フィレンツェで待ち合わせしたあの人と
また会いたい
フィレンツェの思い出話をして
きれいにさよならを言って
別れたい
*6
スマホは誰より身近な親友
いつも一緒に生きている
父が死んだときも
母の言葉を最初に伝えてくれた
*7
詩は語りかけてこない
詩はたたずんで読まれるのを待っている
詩は読む人を追い越さない
ただ たまに
読む人を懐かしい未来へと連れて行く
*8
痛みがあると
そこに自分がいることがわかる
粘土のように痛みをこねて
チューリップでも作ってみようか
*9
私の中にある痛み
私は痛みを包んでいる
痛み逃してやろう
痛みだけ
逃してやろう
*10
見えない愛を見てきたと
彼が言った
見えない愛を手に入れたと
彼女が言った
見えない愛がほしいと
私は思う
見えない愛はどこにある? と
みんなが探した
*11
憎いひとを憎むと
憎しみが腫れて
痛くなるから
憎い人には
絆創膏を貼りましょう
*12
そそくさと
したことがある?
もんどりうって
なにをした?
天を見上げて
なんと言った?
*13
「蝶」
毛虫とよばれた女の子
隣の町の
上級生と付き合って
根性焼きを隠さなかった女の子
きっと彼女はいい大人になって
僕より幸せになっている
だって 彼女の声が聞こえてくるんだ
あんたのことはもう許した
あれも悪くない思い出だった と
僕には確かめようがない
確かめることはできない
確かめるのが怖い
だからせめて祈る
毛虫の幸せを
強く念じて祈る
自分の弱さを守って生きていく僕だから
風が吹けば消えそうになる
蝶のように風を味方にできない
毛虫のような自分
*14
コップの中にある湖で
ボートに乗って
釣りをして
湖畔であのひととバーベキュー
それが連休の出来事

月のネックレス

月が一つ

闇空のてっぺんで明るく光っているだけなのに

海はその下に
煌めく光の路をつくり
編み上げられた
ネックレスみたいに
海の胸元をゴージャスに飾っている
砂浜にいるのはきょうもあなた一人だから
その美しい光景も
ネックレスも
あなただけのもの
海の中に入っていくあなたは
自称 人魚
ぼくはそうは思わないけれど
泣き尽くして涙を枯らしてやってきて
夜が白み始めると
ここから去っていく
誰もいなくなった海は
波を手持ち無沙汰に打ちながら
一人で何かを語り続ける
答えなのか問いなのかは
分からない
もうどれだけの時間が流れたのかも分からない
あなたは
昼間
仕事場で汗をかきながら働く
何かをおし殺し
自分に言い聞かせて
そして
海に行ったことは
波の中に入って行ったことは
友人には話さない
海と約束をしたからなのか
それとも
自分が消えてしまったあとに
なにも残さないという
決意の表れなのか

ナポリタンとサイダー

学食にはいつも幽霊がたむろしている

昼飯時の混み合う時間帯には
生きている人間と死んでいる人間がダブって存在しごった返してしまうので
なにかの〈るつぼ〉となっているが
先ほどから彼が何の〈るつぼ〉か
的確な言葉を思い出そうとしているがいっこうに思いだせない
その間にも
詩は進行する
いつか言い表したあの言葉!
行ったり来たり
行ったり来たり
である
飛行機が遅れたため
東京からこの大阪の大学にやって来る電車の車中で
彼には既に目的の四分の一が達成できないことが分かっていた
それで少し焦ってはいた
大学のある駅で降りると
駅の出口は大学からは一番遠い位置に位置していたので
さらに彼は駅の出口から一番遠い車輌に乗っていたので
最悪だ〜! と
我が身の不幸を嘆かずにはいられず
だからつい足早に投げやりに歩き始めた
十四(しいすう)という名の駅にあるその大学の学食は地下にあり
二階までの吹き抜けの構造になっている
食堂の周囲には内階段から繋がる渡り廊下があり
さらに螺旋階段を通じで二階の廊下に繋がっていた
彼はエレベーターホールから学食へ行くエレベーターに乗ろうとしていたが
何階に行けばいいのか分からず混乱していた
いくら考えても分からない
答えが見出せない
そのうち上へ行くエレベーターがやってきて
彼は乗り込みB1ボタンを押した
エレベーターから降りると
そこは学食より1メートルほど下の床だったので
五段分の半端な階段を上り
上り過ぎたので一段下がり
奥のカウンターに近づいていった
ナポリタンとサイダー
おそらくこれが
きょう彼が初めて人間に発した言葉だった
そして
その声はいつまでも木霊していた
まるで彼を責めるように
まるで彼を愛するように
夕方の学食で
彼がいなくなった後
幽霊たちがお酒をチビチビやりながら
その彼の声を繰り返し歌っていた
ナポリタンとサイダー
ナポリタンとサイダー

2022年5月18日水曜日

いきなり、詩を

コーヒーを飲みに行こう。僕はうつ病なんだから元気なふりはしない。いきなり、詩を始めないでよとあの人が言う。だから僕は段々と、さりげなく、気づかれないように、詩を始めよう。