2012年8月31日金曜日

湿った風

何十年も掛かって築いてきたものが
一瞬にして失われた
きれいサッパリなくなって
おまけにシミが遺っていた

失われたものは
海の彼方に溶け去ったのか
この大きな喪失は
何と釣り合っているのか

青い空には
街をすっぽり覆う巨きな夏の雲
まさかあの雲が
私の大事なものを持ち去り隠しているのか

遠くから雷鳴が聞こえてくる
やがて湿った風が吹き始めるだろう
風はあなたの瞳を湿らせ
私の舌に塩辛い涙の味を広げるだろう

2012年8月30日木曜日

水車の音に合わせて

古い小屋の向こうには小川があって
雪解けの水が流れている
花びらや木の葉や
何かの欠けらも流れてくる

古い小屋の向こうには
行くことができない

あれは今はもうない家だから
住んでいる人も もういない

それでも 時々
いろりに明明と火がともり
屋根から煙が立ちのぼる

あの家のバカ息子は
大事なものを全部なくしてしまった
自分のものだけでは飽きたらず
人様のものまでも

それだから
あの古い小屋は取り壊され
そこに新しい家が建った
新しい家には
どこからか新しい人がやってきて
住み着いた

だが新しい家から
煙が立ちのぼることはない
新しい家は電気とガスで動くから

古い小屋の向こうの小川では水車が回っていた
軋みながら
水の流れを体に受けて
ぎーぎーと楽しげに会話していた

古い小屋の向こうには畑と山もあって
百舌鳥が梢にとまっていた
水車の音に合わせて
ぎーぎー鳴いていた
日が暮れるまで鳴いていた

2012年8月29日水曜日

部屋へ帰る

西友に87円のお茶を買いに行ったら隣りに78円のお茶が並べられていた。それを見て瞬時に78円のお茶を買うことにしようと思ったが、飲みたい気持ちにならなかったのでやはり87円のお茶にしようと思い、むんずと手に取ろうとしたその時、何故か入り口に2リットルの南アルプスの天然水が79円で売っているイメージが去来し、もし2リットルの天然水を買い水出しのパックで作ったらどれほどお得なのか、自分の思考を止めることはできなかった。結局何も買わずに部屋へと帰った。

2012年8月28日火曜日

土曜日に死にたい

火曜日の次は水曜日
 
永遠に回っていくところがいい
頼りになる

僕の周りの世の中は
土曜日と日曜日は休みということになっているが
月曜日が来ると思うと仕事の重圧が襲ってくる
そんなことを思い出す
月曜日が待ち遠しかったこともあったはずだけれど

永遠に回っていくことは
いつまでたっても一緒だということなので
自分が変わる必要がない
成長しても しなくても
時をやり過ごしてゆくだけで
大丈夫だということだ

この詩だって
何回書いたっていい
書かなくてもいい
それは楽なことだ

楽なことは大丈夫だということと
親戚のようなものだ
大きな差はない
間違ったことを言っても
訂正すればいい
訂正しなくてもいい

火曜日の次は水曜日 と
高らかに言おう
レベッカ・ブラックに言われるまでもなく
木曜日の次は金曜日だ
そして次にやってくるのが週末だ

僕は火曜日に生まれたので
月曜日に死にたい
でも本当は
土曜日に死にたい
日曜日を楽しみに待つ気持ちで
待たなくてもいいけれど



http://www.youtube.com/watch?v=kfVsfOSbJY0

2012年8月27日月曜日

好きな人と連絡が取れなくて

好きな人と連絡が取れなくて
心が緊急事態になっている
サイレンの音は聞こえない
自分の心臓の音ばかりがこだまする

あの人はどこに居るのだろう
どんな気持ちでいるのだろう
自分はこんなに泣きそうなのに
あのひとは私の中でなぜ 笑っている?

あの人ともっと話しておけばよかった
つまらない話でも聞いておけばよかった

好きな人と連絡が取れななくて
時間がグルグル回っていいる
眉間にシワが刻まれていく
目に見えない牢屋でいつまで待ちぼうけ?

2012年8月26日日曜日

ばびぶべ電車

水色の電車
スイスイすべる
やわらかいパンを
お口いっぱい頬張って
おいしいね
クロワッサンは
スワンのかたち

黄色の電車
夢の中にある
こうもり傘で
こっそり顔を隠して
いくんだね
寝ぐせの髪型
カミナリ様だね

赤色の電車
いつも来ない
内緒でやると
いいことがあるかな
見つめてね
わたしのこと
拐われぬよう

2012年8月25日土曜日

友だち ~ヘンテコな夜~

黒い雲
やって来た
友だち
くすんだ服
笑顔がゆがんでいる
友だち
いらいらしてる
踵が取れた靴
友だち
苦しい言い訳
部屋が散らかってる
友だち
寒い日
閉め切った窓
友だち
不器用
役立たずの信号灯
友だち
サイレン
ヘンテコな夜
友だち

2012年8月24日金曜日

非連続への逃亡

埃っぽい乾いた冷たい空気は
排気ガスを引き連れて視界を煙らせているが
僕はこの道を歩いてゆくのだ

木の枝は寒色だけとなって
大きな鳥の巣を引っ掛けているが
きょうもその下を僕は歩いて行くのだ

ひび割れた道路にできた水溜りは
ゴミが溜まり凍って光を反射しているが
僕は違う国の言葉で自分に掛け声を掛けながら
校門を出て地下鉄の駅に
地下鉄に乗って目的の駅に
駅から出て人々の集う広場に
広場を抜けてデパートの食堂へ
夕食を食べに行くのだ

何が入っているか
どう作られているかは分からない
それはどうでもいい
高くなく程よく美味しい食べ物を
ゆっくり食べられればいいのだ

注文票に書き込んで
サービス員を呼ぶ
サービス員は職名を呼び捨てで呼ばれ
無愛想に近づいてきて
一つ二つ質問をすると
そそくさと計算し代金を要求する
財布を出してお金を払うとつり銭が渡される
しばらくすると
目的の食事が運ばれてきて
テーブルに置かれる
ここから自分の時間となる

日本にいた時
僕は過去に縛られ
鈍く回転し続ける日々の歯車に
髪の毛や衣服を巻き込まれて
逃げ出すことができないでいた

連続的な自分は
いつも過去と未来を繋ごうとしていた

この地にきて僕は日々の歯車から遠ざかり
異国という船に揺られて
足元がおぼつかないまま暮らしていた
新しい友だちは
だれも日本語を喋らなかった
僕は覚えたての言葉を一つひとつ並べて
自分自身のことを話し相手の身の上や夢の話を聞いた

外では日が沈み
夜の街が夜の人の心と交わって
いつの間にか昼間を追いやっていた
昼間の人々は夜に絞め殺されてしまったのか
闇を照らす光に額を光らせて
夜の流れにしがみつきつつ
流されていく


2012年8月23日木曜日

小さい家にキレイなものが程よくあります



詩人が夏の間暮らしている
小さい家には
キレイなものが
ほどよくあります

小さい家なので
沢山おいておくことはできないから

誰が作ったものなのでしょう
作者の名前などなくても
キレイなものはキレイです

名前を背負わない心地よさで
輝いています


自分が輝いているのではありません
太陽が輝き
空の明るさを透過させるときに
そのお裾分けで輝いているのです

詩人はその
キレイを見て
時には 触ってみて
それを詩にしてしまうのでしょうか

詩にならなくても
ただそのままでもキレイな言葉で



(2012-08-18 撮影/マツザキヨシユキ) 

2012年8月22日水曜日

金平糖と詩人



「きれいですね」
「きれいでしょ」
「金平糖を主役に撮ります」



(2012-08-18 撮影/マツザキヨシユキ)