2011年7月17日日曜日

月が嗤っていた

サンダルの音がしたので
木戸のところに出てみた

木戸の上に
赤く大きな月が
腰をおろしていた

私は
言葉を失い話かけることができなかった

月はどこかに出かけて
帰ってくるまでの間に
お酒を飲んで
赤くなってしまったのか

よくある現象のようにも思えたが
きょうの月は
余りにも存在感がありすぎて
怖いくらいだ

月の後ろからあなたが現れた
恋人と腕を組んで
三日月のように口を開けて嗤うと
赤い喉を見せて
消えた

やがて
夜の闇が
慌ててやって来た

2011年7月16日土曜日

後ろを向いて

二人はどうやってであったの?

真夏のビーチで
背中と背中
ぶつかったの?

友だちの友だち同士で
意気投合したの?

合コンで
斜め前から目配せをしたの?

彼が一方的にしつこく
迫ってメアドGETしたの?

二人はどうやって過ごしたの?

海を見に行った帰りに
インターで降りてエッチしたの?

やりたいことが決まらなくて
合うたびに喧嘩したの?

夜景を見下ろしているところを
後ろから羽交い締めにしたの?

散歩しながら
お互いの経験を話したの?

二人はどうしてわかれたの?

気まずいことが
しょっちゅうあったの?

未来の中に
お互いを発見できなくなったの?

相手を傷つけるたび
自分の古傷が増えていったの?

そうして
ふたりはもうであわないの?

お互いを見つけても
くるりと後ろを向いて歩いて行くの?

2011年7月15日金曜日

おとなになろうと決めた日

おとなになろうと決めた日
それはとても恥ずかしいことに思えた
大人はなんでも知っているふりをしたから
なんでも知ってるふりをしながら
なにも思い通りに出来なかったから

大人になろうと決めた日
それはとてもむずかしいことに思えた
大人は子どもに教えなければならなかったら
世界中の歴史と真実を教えて
そのとおりに世界を作らなければならなかったから

大人になろうと決めた日
それはとても興奮することに思えた
好きな人のカラダを独占することが許されたから
吐息で言葉を語りながら
言葉のいらない愛の秘密に触れられるから

大人になろうと決めた日
それは子どもの自分と無理やり別れることだと思った
それしか方法がわからなかったから
本当の自分が残るのが怖いから
大人の自分が本当の自分なんだと自分に認めさせたかったから


おとな
詩 ☆ 未 来 創 作: おとなになって

2011年7月14日木曜日

愛してると7万回いう予定だった

1日平均5回で40年間
愛してるとあなたにいう予定だった

少ない日もあるが
多い日もある
平均5回だ

あえない日には
手のひらにあなたの映像をのせて言う
あなたはただきいていればいい

砂浜の波を見ていると
一生のうちにあなたに言える愛の言葉は
なんと少ないことかと
焦る

それを知ってか
上空を飛ぶ鳥は
わざとらしく旋回した

1日平均5回
あなたに愛してると言い続けて
先に死のうと思っていた

あなたの新しい相手を見つけて
愛の言葉を引き継いで

しかしそれはかなわなかった
愛の言葉は
行き場を失って
消え去ろうとしている

この愛は
必要なかったのだ
言葉以上に
この愛は

不適切な私

君との会話は失言ばかり
不適切な私です

気づいた時には
どんくさく
地面の気持ちがよくわかる
下を向いてた私です

はじめて撮った写真には
車の轍が写ってた

はじめて出来た友だちは
嫌われ者の女の子

*

君との愛はギクシャクしてる
優しいだけの私です

怒らないのが
とりえかな
怒れないこと隠してる
パワー不足の私です

無理強いしないのとりえかな
嫌われたくないだけなんだ

話を聞くのがうまいって
かむから話ししないだけ

 *

あぁあぁなんであの人は
あんなにかっこいいんだろう
愛する彼女は首ったけ
私はきょうも不適切

2011年7月13日水曜日

愛する人とは別れたわけだし 1

おいしい料理が出来たと思ったんだけど
夢のなかに置いてきてしまった
すぐに食べちゃえばよかった
愛する人とは別れたわけだし

ここに戻ってきても
寂しさが山積みで向こうが見えない
食欲もわかないので
飲み物ばかり飲んでいるんだ

それにしても
寂しさの山は
人身事故で混雑した電車に乗っても
会社の受付の前を通っても
ついて来る
嵩張るのによくついてくるもんだ

月や星じゃあるまいに

あっ
月や星のようなものなのかな

寂しさって奴は
悲しみに似ているが
それとはちょっとちがう

そういえば
悲しい感じもしている
悲しみの裏に
なんでもできそうな
自由な感じもある

2011年7月12日火曜日

夕方のことを考えると

夕方のことを考えると
夕方になってしまう

そのことが怖い
と考えると
怖いことになってしまう

考えるとなってしまう
いやなことだけ

神様がいて
区別して
やっているのだろうか
罰として

いやな罰だ

そう
考えると
いやな罰になってしまう

考えないようにしたい
そう考える
でも
そこからは逃げられない

逃げられなくなってしまう

2011年7月11日月曜日

星への願いごと

緋色の星に願いごと
すべてが燃えてなくなりますように

水色の星に願いごと
あの人が湖の底に沈みますように

黄色い星に願いごと
何も分からなくなり笑って暮らせますように

紺色の星に願いごと
他人の思い出が渦巻いて醜く混じり合いませんように

白い星に願いごと
きれいなものがみな見えなくなりますように

土色の星に願いごと
愛する人に首を閉められた人が蘇りませんように

金色の星に願いごと
傷口が開いて早く干からびますように

黒い星に願いごと
風や月光が彼女の味方につきませんように

すべての星に願いごと
あの人が二度とこの空に戻って来ませんように

2011年7月10日日曜日

思いがけない家出

すきま風のところに行って
冷たい風を吸い込むと
ガラスが曇って
景色が見えにくくなった

ほつれた毛糸の先を引っ張ると
スルスルと
虫が行進するように
ほどけていって
どこでやめていいのか
わからなくなる

冷凍庫では
シャーベットができたはずだ
作るのは好きだが
食べておいしかったことがないので
もう関心がなくなっている

あなたは
むずかしい計算をしようと
指を折って数えているが
問題の意味が解らないので
ちっとも解決に結びつかない

扇風機がカタカタいいだして
壊れそうなので
コードを引っ張って抜いた
見る間に
首に汗が吹き出してくる

いらだって
持っているものを
床に投げると
もうその場にはいたくなくなって
ドアを開けて出て行く
いつものカバンだけ手にして

鍵もかけずに
鍵を持たずに

2011年7月9日土曜日

バイバイ

きょうはあなたと過ごした最後の日

朝焼けのような夕焼けが
ビルの向こうに見える


あなたはバイバイといって
バスにに乗って帰って行った
裸足に新しいスニーカー履いて

いつもの喫茶店で
私は考え事をしようとしているが
なにも考えることができない

あなたはいつもの
笑顔で
私との話の続きを
自然に話していた
そして
大戸屋にいきたいといって
そこでおいしそうにチキンとトロロご飯を食べた

私はあなたとは
付き合っていなかったのではないかと
今更思えてきて
必死に打ち消そうとしたができなかった

あなたは家を出て
夜通しDJの紡ぐ音楽に身を投げて
踊った
そこにはあなたの愛する男がいた
あなたは体を弾ませると
自分がこの場から飛び出していっているのを感じた

もはや私は私の姿をどこにも見出すことができなかった
丸まったミミズが陸亀に喰われている映像を
思い出した
魅力のない人生が落ちていたら
それは届けずに放っておいてあげたら

私は生まれ変わり
かっこよく颯爽と生きて行きたい