2010年12月21日火曜日

仕事

二階にあなたが探しているものがある
そのせいで
一階は水浸しだ

奥の階段を登り
鉄の扉を開け
次の木の扉を開けると
ガラスの向こうがブースになっている
テーブルの黒い天板の上には
マイクロホンが設置されている
ここから実況中継をするというわけだ

あなたがキューを振れば
ブースの男はカフを上げて
女と始めるだろう

ほら 二人とも
もう半裸状態だ
台本そっちのけでよくやるものだ

黒い天板に乗せられた女に
男が覆いかぶさっている
女は挑発的な眼をして腰を揺らす

いつの間にか室内なのに雨が降り出した
台風のような生温かい雨だ
もうわけがわからないほど
荒れ始めた

それで
あなたは何度もキューを振るのだが
何のキューなのか
もう誰にもわからなくなっている

BGMが高らかに盛り上がり
世界を嬌声が脅かす

男と女はいつまでも飽きることなく
つづけている

私は
あなたを置き去りにして
次の仕事場に向かわなければならない
夜空に浮かぶ月や黒雲さえ置き去りにして

2010年12月20日月曜日

タクシーは待っていない

長い夢からさめて
ターミナルを出ると
放射能を撒き散らしたような
明るい鮮やかな夕空が待ち構えていた

とにかく何かしなければと
僕らはとっさに行く先のことを考えていた

そしてこの夕空が意味するところを見極められるはずだ
いつか観た映画の一シーンに答えがあるかもしれない

リニアがタクシーの向こうを走っていく
あのリニアは実験が途中なので
こんな日は危険だ
いや もしかするとあのリニアのせいで
空がこんな色になっているのかもしれない
どこかの時空にねじれて衝突して
夢の世界から何かが滲み出してしまったとも考えられる

タクシーに乗れば災難を避けて
田舎にたどり着けるだろう
街道を結ぶバイパスを二つ通り
東西に伸びる線路を横切って
あの村に行けば
とり返しがつかないことにはなるまい

僕らは連れ立って
人気のまばらなタクシー乗り場にきた

タクシーに乗ると
タクシーは行き先を尋ねることもなくドアを閉め
急発進した

バイパスの橋を渡ると
僕らは思い立って寄り道することにした
その家に入ると
主人は寝室で寝入っていた
僕らが入ると
主人は癇癪を立てて何かを叫び
やがてたしなめるように言った

昨日帰ってきたばかりなのに
直ぐに仕事があり
時差ぼけがきついが
望むところだ
生きている間中ずっと何かをし続けなければならない
寝ている以外は
寝る間も惜しんでしなければ

叱られた気分を抱えて僕らは外に出た
すると待っているはずのタクシーはいなかった

空には星が沢山出過ぎていた
いつもみる一等星より大きな星ばかりだ
その明るさに目がくらみ
ぼくらは思わず倒れこんだ

眠るためではなく
ただ明るさから逃れるために
藁の匂いがした

2010年12月19日日曜日

マッチ売り

求めるものに近づこうとする打算的人生より
過ぎゆく過去を大事に味わう人生のほうが
いいのでは?

ホームレスの僕が思うことは
過去のいい思い出のことばかり

でもそれらに飽きると
今度は現在のことを思う

家賃を払うのは必要悪かということ
月や星は電気メーターにつながっていないということ
食の安全は少し古くなったら捨てろということ
食べたい僕たちにはゴミ箱を漁れということ

自分がよければそれでいいという思いを持った人が
さまざまなルールを決め
ルールの隙間に蔓延して
自分の善良さに不安を覚えると
弱いものに情けをかける

クリスマスが近づくと
マッチ売りの少女が
今日も街頭に立って
寒さに凍えながら
火をつけるための棒を売っている

本当に燃やしたいものは何?
少女は尋ねることはしないが

ホームレスの僕は自問する
本当に燃やしたいもの
燃やしてしまいたいものは
何?

2010年12月18日土曜日

夜の空気

窓から入ってくる
月の灯りは
太陽から君への心遣い

闇の中に放りだされても
君は完全な独りきりにはならない

スピーカーから音楽を流し
本のページをめくれば
別の世界がハンモックのように
用意されている

君の想いを吸い込む夜気が
空のなかでシンとしている

2010年12月17日金曜日

君と

ゆっくりしよう
もう時間に邪魔されることはない
人目を気にすることもないから
コインを入れるように
君に愛情を注ぎ込もう

眼をつぶっていても
つぶることに飽きてしまって
また見開いても
まだ終わらない

港を離れた船が
沢山の出会いと別れを乗せてもどってきても
僕たちは
まだ始まったばかりだ

ゆっくり
空白だった時間を埋めるように
確かなものを確かめ
不確かなものさえ
確かにしよう

列の最後に並んでいた現実は
昨日みた夢のように消え
友達たちの輪の中から弾かれて
衝突した君

2010年12月16日木曜日

玄関にくる人

寒さが手を引いて忘れていた人を連れてくる
ぼくは黙り込んで西日の部屋で文庫本を読んでいる
玄関の前で誰かが立ち止まるが
音一つ立てずに
何か迷っているのか

いつの間にか陽は暮れてきて
ぼくは本を置き
外へ出ることにした

鉢合わせは勘弁願いたい
煮えきらぬものはもうたくさんだ
ドアを開ける風で吹き飛ばすよ

そうして
ぼくもバス停へと飛んで行く

2010年12月15日水曜日

月の光に

ボローニャの石畳の道
路地を抜けていく風
聖堂の鐘の音
映画館の前の人溜まり

みんなは何処へ行ってしまったのか
思い当たる人に手紙を書いてみても
返事は来ない

待ち合わせは塔の下
宝飾店のウインドウを回り見ながら
再会し
夜の賑やかさの中に消えていった

もしかなうなら
月の光に乗せて
あの日の自分に手紙を出したい
あのひとを離してはだめですよと

2010年12月14日火曜日

虹色の隠しごと

隠しごとが入ったリュックを背負って
坂を上がってやってくる
その部屋で
隠しごとは暖炉の前に置いて
二人は求めあった

隠しごとはいつも
放置され
だんだんと熟成された

二人もお互いをよく知るようになり
いつも夢中で話したので
季節の使者がドアの外にやってきては
呼び鈴を何度押しても
気づくことはなかった

水銀灯がLEDランプに取り替えられ
道は冷たく光り
行きかう人の心は
メルヘンを探してさまよった

夜の新たな影法師が生まれると
過去形で語られていた物語を
読み手が追い越し
現在進行形になってしまい
二人は越えなければならない峠に差し掛かったことに気づかされ
目配せをしあった
それが最後で最初の会話となって行った

次の話が未来形で語られ始めたとき
隠しごとは
虹色に燃えながら炎の中にあった

2010年12月13日月曜日

端っこの星

細長い部屋の端っこで
詩をかいている
ずっと端っこにいるのは
僕の好み

だからなのか
端っこが好きな人が好き
端っこを分かち合い
端っこでおしゃべりするのが
いい

真ん中で輝く星は
憧れの一等星
ぼくは端っこのやっと見えている星が好き
名前さえわからない

小さな星がなければ
きっと宇宙はもっと寂しい
大きな星が幾つ寄り集まっても
闇に消えゆく小さな星の
その沈黙に
敵わない

2010年12月12日日曜日

お金を配ってます

お金 余りましたので配ってます
どうぞお持ちください
詩を書いた方に差し上げます
今日書いた詩を見せてください
どんな詩でも結構です
詩をみせてください
一万円札ばかり
どうぞお持ちください
詩集を出した方
いつも詩を書いている方
詩人の方
詩集を見せてください
余ったお金を配っています
かわいそうな方のために
お金がなくて困っている方
詩が好きな方
どんな詩が好きか教えてください
お金を配ってます
残り僅かです
好きな詩を教えてください
未来創作を読んだことのある方
詩人の仲間と集まるのが好きな方
お金を配ってます
お金を差し上げます