くまの子がやって来て
私の顔を覗きこんだ
不思議そうな顔をしているけど
くまには「不思議」がわかるだろうか
私はそんなくまの子をみていたら
前よりすこし元気になって
元気になったら
途端に誰かと会いたくなってきて
さっさと身支度して玄関から飛び出した
冬の空気がつめたくて
なんだか清められたような気がする
電車に乗ると
私とおなじようなコが
ひとりで揺られている
いち に さんにん
「いちもくさんに走る電車だな」
電車はきっと急いでいるのだ
私は急ぎたくないのに
でも
早く降りる駅に着くことはいいことだ
たぶん
待ち合わせの場所に着くと
相手はまだ来ていなかった
くまさん
あなたのおかげで
私は外に出て
誰かと待ち合わせしている
きっともうすぐ来るだろう
笑顔で近づいてくるだろう
すると
そこに
くまの子がやって来て
私の顔を覗きこんだ
不思議そうな顔をしているけど
くまには「不思議」がわかるだろうか
夜空に雲がながれ
枯れ葉が舞い落ちる冬が来る
コートのポケットに手を突っ込んで
足早に駅に向かう冬が来る
あたたかい飲み物を
すすって飲んでみたくなる冬が来る
過去の思い出を1枚の絵にして
次々とめくっていきたい冬が来る
白い息を鼻と口から吐く
それが恥ずかしい冬が来る
風呂に入るとき
膚がジーンと浸みて湿ってゆく冬が来る
いじめられっこが
いつまでも視界から消えない冬が来る
いつなんのために生まれたのか
母に尋ねたことも忘れ果てた
冬が来る
あのひとが
笑ってくれたから
きょうはいい日
あの人が
怖い顔をしていたから
きょうは悪い日
あのひとが
悲しい顔をしていたら
それはどんな日?
それは・・・
それは
私が少し
期待に胸を膨らます
いい日
悲しさを癒して
私
嬉しい顔をしたい
私の嬉しい顔に
会いたい
そう思っているのは
私だけ?
もしそうだったら
私
暗い顔をして
泣いてしまう
その顔に
飛びついてきて
やさしくしてくれる人は
いま
どんな顔を誰にみせている?
その誰かは
じつは
私かも知れない
雪が舞っている
窓の外
そこも ここと おなじ
今 なのかな
きょうも
雪が舞っている
そこいらじゅう
風が 巻き上げて
舞っているんだな
未来の夜 みたいに
きょうも
雪が舞っている
それに あった
音楽をかけてみようか
私はひとりなのに
雪が舞っている
だれに 見せているのかな
誘っているのかな
寂しいダンスかな
楽しく踊り狂っているのかな
さてさて
しめしめ
より
はてさて
めしめし
で
おひとよしに
いきている
あさ 想ったのは
離ればなれの 友のこと
あのころの瞳のままで
好きなことをはなしてる
ひる 想ったのは
年老いた 母さんのこと
気ままにすたすたショッピング
ぼくにもなにか買ってくれ
よる 想ったのは
まだ見ぬ あかんぼう
血潮がすける やわらかいほほ
きもちよさそうにあくびした
あした 想うのは
きっと あなたのこと
たまに おなじことを思いついて
言う前に 笑ってしまったりして
きみのいのちをまもるのは
いったいどんなものなのか
さっきたべてためだまやき
きのうまなんだりかしゃかい
きみのいのちをまもるのは
むねにだいてるそのゆめか
すてたとおもったぷらいどか
だいじにもってるおもいでか
きみのいのちをまもるのは
きみはいつからひきうけた
きみがねがってしてること?
ぼくもねがってしてること
波の真似
雲のうそ
空の人ちがい
道の頼み事
川のためらい
炎の裏切り
人の憎しみ
雪の覆い
日向になった場所に
猫は移動して
いい思い出ばかりを思い出す
鳥は
過去を振り返ることなく
未来さえも見詰めずに
風を切り 風に乗り
いま 世界を見下ろしている
緑をまとったこんもりした森は
空に伸びていくと見せかけて
地中深く根を伸ばしている
夜の間も 脈々と
いったい私は
どこで
何をして 生きていったら
いいのだろう
地球は
私たちの重さをその星の命で
受け止めている
乗りかかった舟ではない
生まれるまえから
死んだ後もずっと
一緒なのだ 一体なのだ
蝉が言っていた
地面の下にいたときは
空にあこがれ
空を僅かに飛んだとき
地面の下の命に
恋をしたのだと
躯でも声でもことばでも語れない
愛した人 してきたことも
ぼんやりして
ただ佇むしかないその門の黒い柱の前
ここは壁に囲まれたすみかなの?
夢も裏切りも混ざり 湿った場所
外は闇色 悪魔が赤い舌出してうろついてる
ここにいるしかない?
青い月が道を照らして待っている
そのむこうにかがやく
露にぬれたま新しい大地
草を揺らし 靴音に励まされ
走ってゆく
未来でも過去でも時は止まっている
あの横顔 騒がしい街
去ってゆく
燃えだした塔の上を流れる川という川
白い夜がそっと閉じて
誘ってる
ずっと前から知ってた
自転車乗り捨てたその訳
握りしめた手 背中はあたたかさ
感じてる